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41 誠の物語8

「あら、水樹君。どうしたの?

 もしかして、また問題集の間違いでも見つけた?

 え? 教頭先生について?

 珍しいわね、君がそんなこと訊いてくるなんて。

 ていうか、何で私? そんな詳しいこと知らないわよ?

 仁先生とか、仲いいから訊いてみれば?

 ……私でいいの? うん、まあ、いいんだけど」


「尾崎先生が教頭になられたのは、私がここに来てすぐだったわね。

 てことは……5年前だったかしら。

 まだ若いのに、立派なものよね。すごく熱心に仕事なされてるし。

 生活指導もやってて……正直、ちょっとやりすぎかなって思うときもあるけど。

 厳しいものね。まあ、君は怒られたこと無いかもしれないけど。

 でも、あれなんでしょ?

 教頭ムカツクって人、結構いるんでしょ? 知らない?

 時々耳に入ってくるのよね。誰だかまでは知らないけど。

 教頭先生は全然気にされてないみたいだけど。

 すごいわよねー。私なんか、評判ばっかり気にしちゃうもの。

 自分の信念を持ってるっていうのかしら。

 でもさすがに、息子さんが入ってきたときは困ってたみたい。

 すごく嬉しそうではあったんだけど、やっぱりね。

 ねえ? 他の生徒と同じように扱うって、難しいものね。

 幸い、尾崎君は優等生だから呼び出し受けるようなことは無いみたいだけど」


「あ、そうそう。

 今って遅くまで図書館使えるじゃない。

 あれって教頭先生が提案したことなのよ。

 学ぶ環境をできるだけ長く開放しようってことになってね。

 その頃は教頭先生になったばっかりで、毎日夜遅くまで残っていてね。

 丁度いいからって、鍵閉め役を買って出たのよ。

 私は教頭にはなりたくないなー。仕事がすごい大変そうだもの。

 今は大分落ち着いてるけど、それでも君たちより帰り遅いのよ?

 当事なんかもう、誰よりも早く来て誰よりも遅く帰るって感じ。

 それが連日よ、連日。私には無理。

 ほら、ここって私立でしょ? だからいくらでもやろうと思えばやれちゃうのよ。

 殆ど休みも無かったし。よく体壊さなかったなって思うわ」


「そうね、悪く言う人もいるけど、

 ウチの生徒が品行方正なのは教頭先生のお陰だって、私は思うの。

 ……えっと……うん、まあ、ゼロじゃないんだけどね。

 うん。夏休みにちょっと、ね。

 ……あと……何かあったかしら……もういいの?

 どういたしまして。何かに役立ったのなら幸いだわ。

 テスト良かったわよ。次も頑張ってね」



「ん? 珍しいな、お前から話しかけてくるなんて。

 あ、いや、別に悪くなんか思わないさ。なんか用か?

 ……尾崎のこと? お前もあれか、信じてるクチか。

 言っとくけど、あいつはな――

 え? 小学校の頃?

 ああ、まあ俺はあいつと一緒だったけどな。

 よく遊びもしたよ。今もそうっちゃそうなんだが。

 ……うん、随分変わったよ。

 昔のあいつはなー、ものすごいやんちゃ坊主でさ、まあ、俺もなんだが。

 工事現場に忍び込んで土管に入ったり、人んちの庭を走り抜けたり、

 まあ、今やったら大変なことも結構やった。

 子どもだからな、スーパーの試食を食い尽くしたりしても許されたわけよ。

 怒られた怒られた。

 とくにあいつの親父さんにな。ここの教頭だけど。

 俺はその前から知ってたからな。

 変な気持ちだよ、知り合いの大人が学校にいるって。

 あいつは……こういっちゃなんだけど、ファザコンでさ。

 あれ? ファザコンって男にも使うっけ? まあ、いいや。

 よく「お父さんが」って言ってたよ。

 怒られてばっかりいるくせに、しょっちゅう遊んでるし。

 俺も何度か一緒になってキャッチボールとかした。

 だから結構近しい大人なんだよな、俺にとっての教頭って」


「それが……あん時か。

 ……まあ、小六のときに、ちょっとあってな。

 いや、別に大したことじゃないんだ。

 今まで超アウトドアで宿題もロクにやらなかったあいつが

 いきなり勉強し始めてさ。

 ほら、高校とか中学に入る前になると、あるだろ。

 塾とかから色々入学準備とか言って勧誘のチラシが。

 アレ読むと焦るよな。このままじゃついていけねぇ!ってさ。

 それで尾崎が突然ガリ勉になるもんだから、尚更な。

 まあ、そのお陰で今ここにいるのかも知れねぇけど。

 あいつ、中学に入る前から「丹木高校に行く」なんて言い出してさ。

 実は中学で生徒会長にも立候補したんだぜ。落ちたけど。

 あの時は悔しそうだったな……推薦入学できたから結果オーライだけどさ。

 その頃は父親が教頭になってさ。

 ほら、私立だから他校へ異動とか無いだろ。

 てっきり俺は父親がいるから行きたいんだと思ったんだが、

 本当にそうだったのか、よく分かんねぇな。

 だってさ、それだったら入ってまで学内活動に精出す必要無いだろ?

 大学も推薦で行くのかねぇ。

 あいつの頭だったら普通に受けても大抵の所は行ける気がするんだが」



「……誰だ?

 もしかして入部希望者? ……なんだ、違うのか。

 ……まあ構わないが、部の持ち物を勝手に触るのは感心しないな。

 部員の誰かから許可は取ったのか?

 ……は? カズ? ……あの野郎、また勝手なことを……

 ……いや、まあ、いいさ。あいつと知り合いなら、まあ」


「ああ、そうだ。俺がここの部長だ。

 ん? なんか用事でもあったのか?

 訊きたいこと? まあ、どうぞ。

 ……またその話か……あ、いや、いいんだ。

 やったのは俺だからな。予想はできたことなんだ。

 ほんの3年前はな、黄金時代だったんだよ。

 部員も今の2倍以上いたし、色んな大会で賞をとったりもした。

 でも俺が入った年に、突然入部者が減った。

 俺が部長に決まって書類を出すときに、上から言われたんだ。

 変えるかどうかはお前が決めろ、ってさ。

 俺は変えなかった。

 これはたまたまで、1年はまた大勢入ってくるだろうって思ったんだ。

 ……というか、思いたかったんだな。だって、悲しいじゃんよ。

 それにほら、変えるとなると……色々と面倒だろ?

 結果は知っての通りだ。入ってきた1年は……実質1人だな。

 ……時代の流れってヤツなのかね……

 来年はどうするか? ……さあね。あいつに任せるよ。

 逃げなのかもしれないけど……でも……いや、こっちの話。

 来年も駄目だったら、変えざるをえないだろうけどな」


「そこの棚? ああ、あいつの持ち物だ。

 ……ハハハ、確かに。偏ってるよな。

 それが分かるってことは、結構君も……

 どうだ? ウチに入らないか?

 ……いや、無理にとは言わないさ。悪かった。

 ……え? それがどうかしたか?

 ……ああ、確かに濡れた跡だ。よく気付いたな、こんなもの」

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