40 隼人の物語7
3日考えた。
なぜ俺が部長になっても問題無いのか。
なぜ部長は真面目に取り合わないのか。
俺が出した結論は、「分からない」だった。
考察結果は、「誠に訊いてみよう」だった。
持つべきものは友達だ。
とはいっても、誠は尾崎とも生物部とも関係が薄い。
それに部長があんな態度を取るんだから重要なことではないのだろう。
期待するわけでもなく、愚痴をこぼすだけのつもりだった。
「――ふーん……」
「な? 不思議だろ?」
学校からの帰り道。俺は誠に一連の話をする。
図書館帰りだ。日はもうとっくに暮れている。
「僕はそれよりも隼人が尾崎君と仲が悪いっていうのに驚いたんだけど。
言い争ってるのとか見たことないけど、そうだったっけ?」
「いや、教頭と仲悪いからさ。
尾崎とはほとんど話したこと無いけど、
話を聞く限り仲良く出来るとは思えないね」
実際、俺が時期部長になるまで、尾崎との接点は教頭以外無かった。
それを説明すると、誠は一瞬不満げに眉をひそめたが、
すぐに話を俺の望む方向に進める。
「1つ目の可能性。どうにかなると思ってる」
「それは部長の性格からして無い」
普段の姿からは想像できないかもしれないが、
仕事をするときの部長は根拠の無い自信を持ったりはしない。
「2つ目。それを鑑みてもまだ隼人の方がポイントが高い」
「部活を危険に曝す以上のデメリットは無いだろ」
「3つ目。隼人が部長になっても危険にならないことを知っている」
「……? そりゃ、どういうことだ?」
思いもしなかった言葉に、俺の歩調が乱れる。
「一番考えられるのは……その噂、本当なのかな。
本当に尾崎君は旅行部を活動停止にしたのか」
「だって確かな話だって言うぜ。
尾崎と旅行部の1年が喧嘩してたってのは」
「それだけじゃあ、証明したことにはならないよ」
「部室を親のコネで広げるようなやつだってことを考慮に入れてもか?」
「まず、そこがおかしいと思わない?」
誠が足を止める。
「僕たちが入学したとき、既に部室は決まっていたはずだよね。
そこに尾崎君が介入できるものなのかな」
ウチの学校では部室使用許可を毎年申請する必要がある。
部活の更新手続きの書類に希望する部室の欄があるのだ。
12月に希望調査の仮発表、1月に本登録、2月に決定。
だから毎年部室は変動しうる。
ただまあ、部室を移すとなると色々面倒だから、
今使っている場所をそのまま書くのが普通なんだが。
でも確かに、そうなると尾崎の合格が決まった頃には
文芸部の部室は確定しているのではないか。
……いや、でもそれには反論可能だ。
「あいつがここに来るのはほぼ確定だっただろうよ。
最初から文芸部に入るつもりだったなら、予め手回ししておけばいい」
「……手回し……」
誠が黙り込んだ。
右手を顎に当て、俯き、虚空を見つめ、何やらブツブツ呟く。
「……もしかして……」
顔を上げる。
「どうした?」
「ねえ、隼人。ちょっとお願いがあるんだけど」
「常識的な範囲で頼む」
この時。
これが俺の人生観を一変させるものだと、どうして予想できただろう。
「気になることがあるんだ。情報集めを手伝ってくれないかな」
次の日。
篠崎に話を聞いた。
誠にまず言われたのは、出来事の時間的関係。
「噂を聞いたのがいつかって?」
篠崎は首を傾げる。
「旅行部の処分が尾崎と関係あるってことのだね。
はっきりした日時は覚えてないけど……先々週だったかな。
で、実際に処分があったのが1ヶ月くらい前。
それは知ってるよね?」
「ああ、あん時は結構話題になったからな」
「……で、あとは何だっけ?」
「喧嘩があったのはいつなんだ?」
「あー……そういえば知らないな。情報元に訊いておくよ」
「頼む。あと、尾崎と小学校から一緒のヤツってこの学校にいるか?」
「何人かいると思うよ。僕が知ってるのは1人だけど。
小柳ってやつ、君のクラスにいるだろう?」
「ああ、あいつか」
取り巻きの1人と言われてるヤツだ。誠に伝えておこう。
篠崎は好奇心に溢れた笑顔で言う。
「なんか面白いことをやってるみたいだね。
いい情報があったら教えてよ」
「あったらな。俺自身、よく分かってねぇんだ」
次が厄介な依頼だった。
とりあえず部長から当たってみる。
「部長、文芸部の部室の投書、本当に出していいんですか?」
「またその話? いいって言ってるっしょ。
しつこい男は嫌われるよ?」
「……分かりました。
ところで、あそこの部長について聞きたいんですけど」
「ん? えのっちがどうかした?」
文芸部の部長、確か榎本とかいう人だったはずだが……
「仲、いいんですか?」
「まーね。中学の頃塾が一緒でさ。
今も時々メールのやり取りとかしてる。
生徒会関係でもたまに顔合わせるしね」
……友人の部活を訴えようとしてるのか。
「その人、生徒会と関係あったりします?」
「だって部長だもん」
「いや、もっと深いところで」
「……風見が何を訊きたいのかよく分からないんだけど」
「すみません。俺も分からないです」
「んー? ……あ、あれか。
生徒会のコと付き合ってるよ。
この前の生徒総会で司会やってた人、風見も分かるっしょ」
ビンゴ。誠が望んだ結果の第一候補だ。
「そんなこと、簡単に言っちゃっていいんですか?」
「大丈夫、公然の事実だし。
え、何? 風見ってそういうことに興味あんの?」
「いや、ちょっと頼まれごとです」
「へー、へー。ストーカーっぽいね」
「……」
とにかく、これで情報は集まった。
ここから誠が何を導き出すのか、見物だな。
俺は読み取り問題ってのは苦手なんだ。
プラモデルなら好きなんだが。




