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37 誠の物語7

放課後。

いつもなら一緒に図書館に行くか、

そうでなければ部活動に向かう。

でも、今日の隼人は違った。

帰る仕度をしていた。

何か用事があるなんて聞いていない。

体がすくんだ。

……やっぱり……駄目なのかな……


ふと、隼人と目が合った。

そのままつかつかと隼人が歩いてくる。

クラスのみんなが注目する。

そりゃあそうだ。気になるだろう。


「……あ、あの……隼人……さっきは――」

「今日は勉強しねぇ」

「……」

「帰るぞ!」

「え……え……?」

言うなり、隼人は僕の首根っこを引っつかむ。

「ちょ、ちょっとタンマ!」

「早くしろ!」

「な、何が何だか……」

「つべこべ言うな!」

こうなったら仕方ない。言うとおりにしよう。

何も話してくれないより、ずっとマシだ。



帰り道に夕日を見るなんて、久しぶりだ。

……なんて言うと、大げさかもしれないけど。

いつもは暗くなってから帰るし、

テストのときは午前帰りだったから。


隼人は仏頂面で歩いていく。

心なしか早足だ。

僕もどうにかついていく。

いつもは横に並ぶのだけれど、

今日は若干、僕の方が引き気味だ。


信号が、赤だった。

隼人の足が、ぴたりと止まる。

僕も追いついて、足を止める。

珍しいなと思った。

いつもなら、こんな通りの少ない道……


「……殴ったりして、悪かった」

不意に隼人が口を開く。

「……歯とか折れてないか?」

「うん、大丈夫。まだ少し痛むけど……」

「……悪ぃ」

「いいよ、そんなこと。

 僕の方こそ、ごめん。変なこと言っちゃって」

「……」

「……でもさ、僕、常識に欠けるからさ。

 分からないんだ、どうして殴られたのか。

 教えて、くれないかな……?」

「……」

無言。

信号が青になる。

隼人が歩き出す。

僕がそれを追う。

「……俺さ、午後の授業中、ずっと考えてたんだ」

「何を?」

「俺達……いつもこうやって一緒に帰ってるだろ。

 それって、いつからだったのかってさ。

 何がきっかけだったのかってさ。考えてた。

 そしたら、すげーことが分かったんだ」

「……何?」

心なしか僕が前に出る。

隼人が足を止めたので、僕は振り返る。

隼人は、真面目な顔をして、こう言った。

「思い出せねーんだよ」

「……は?」

「全く憶えてない。

 いつ、どこで、どうして、何が、どのように。

 ……誰がってのは分かるんだけどよ。

 とにかく、分からない。

 分からないということが分かった」

「はあ……」

再び歩き出す。

「……でもさ、そういうもんなんじゃないかって、思った。

 何となく気があって、いつの間にか、こうなってる。

 そういうもんなんじゃないか、ってさ」

「……」

「作るもんじゃない、できるもんなんだよ。

 みんな何となくでつながって、

 つながる前はそれがどの程度のものなのかなんて

 全然分からなくて、偶然できる。

 それでいいんじゃないか。

 ……その、えっと……友達ってのはさ」

「……」

「俺は運命なんて信じねぇ。

 偶然なんだよ、俺とお前が出会ったのは。

 俺はさ、お前のことを尊敬してる。

 すげぇなって思ってる。遭えて良かったって思ってる。

 でもやっぱさ、それだけじゃ悔しい。

 ……お前も……そう思ってくれたらって、思った。

 ……ああもう! 何言ってんだ俺! 気持ち悪ぃ!」

そう言って帽子の下から手を入れ、頭をガリガリと掻く。

そして、帽子を、取った。

教頭先生に注意された薄い茶髪。

屋内では見慣れているはずだけど、

夕日で光って、不思議な感じだった。

「……もっとさ、何か、あれだよ。

 確かに俺は駄目なヤツだけどさ、

 お前に頼ってばっかりいるけどさ、

 悪いと思ってるよ。だから……」

「……」

「……後は察しろ」

「……ハハハ」

駅が見えてくる。

……今日はもう勉強しないかもしれないな。

でも、いいよね。たまにはさ。

「……なんか、こういうのって野暮なんだろうけどさ……」

「今日はずいぶんと喋るね」

「じゃあもう言わねぇ」

「それは困る」

「……友達って、何だろうな」

「訊いてるの?」

「当たり前だろ」

「僕も考えたけど、結局分かんない。

 でも、『これをすれば友達』なんてものは無いと思う。

 そんな即物的っていうか……明確なものじゃないと思う」

「……俺、思うんだけどさ」

「隼人の定義?」

「……」

「……ごめんなさい」

隼人は顔を背ける。

駅前の信号で、再び止まる。

「……互いに友達だって思えば、友達なんじゃねぇかな」

「……いいね、それ。そういうことにしよう」

「俺は、お前を友達だと思ってる」

「よくもまあ、いけしゃあしゃあと」

「うるせえって言ってんだろ」

「言われてないし」

「殴るぞ」

「ごめんなさい調子乗りました」

「……」

「……僕も……そうだね。

 ……隼人が友達だったらいいなって思う」

「よし、契約成立だな」

「契約って……」

信号が青になる。

駅に着く。

改札を通って、ホームに出る。

それまでは互いに無言。

「……じゃあさ……」

先に口を開いたのは、またしても隼人だった。

「……親友って……何なんだろうな」

「いいかげん臭すぎるし、こそばゆいんですけど」

「……」

「じゃあ、今度は僕が定義するよ」

もう恥ずかしい台詞は吐きたくない。

最小の手間で、最大の効果を。

そもそも隼人がそんな話題を振った時点で、

成立したようなもんなんだから。

「互いに友達だって確認しあえれば、親友」

「……それいいな、それにしよう」


青春だな、と思った。

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