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23 綾乃の物語4

「なんなの……これ……」

私は絶句した。

そうとは思った。

あれだけのことをして、これだけで済むはずがないと思った。

どんなことになっても、覚悟はできているつもりだった。

そうは思っていたけれど。

まさかこんなことになるなんて。



「綾乃ってさ、チャットとか、する?」

テストの翌週、部活の着替え中に麻衣にそう言われたのが始まりだった。

「んー、しないなー。そういうのより直接話すほうが好きだし。

 そもそもパソコンより買い物かテレビだしなー」

「そんなこと言わずに、試しにやってみなよ。はまるって、絶対」

「麻衣、あんたやってんの?」

「おうよ。ね、一緒にやろ。サイトと私のハンドル教えとくから」

「……まあ、気が向いたらね」

「よし!」

パン、と手を鳴らして、麻衣はルーズリーフに走り書きをする。

「はい、これ」

「……これ、何て読むの? ハンドルネーム」

「うーむ、忠実に読むとなると……

 ぐりんぐりんあんだーばーせみころんつき、かな」

「なんじゃそりゃ……忠実じゃなかったら?」

「ニヤリ」

そういって笑う。私は首を傾げた。

「ま、とにかく、待ってるかんねー。無理にとは言わんけどさ」


そんな会話。

チャットに誘われたという、それだけの話。

きっと麻衣は手紙の件で私が落ち込んでいると思って、

元気付けようとしてくれているのだろう。そう考えた。

単純に嬉しかった。だから、断るつもりは無かった。

なのに、不覚にも私はそのことをしばらく忘れていて、

思い出したのは1週間後のゴクラクチョウのライブの時だった。

そう、今日の夕方、2ヶ月ぶりに会った隼人君の得意そうな笑顔を見て。

そして私は帰るなりパソコンをつけた。

そして……私は、余計なことをしてしまったのだ。


麻衣に教えられたアドレスをそのまま打ち込まず、

麻衣のハンドルネームを検索にかけたのだ。



そこは最初からおかしな雰囲気を漂わせていた。

だからこそ、私は深入りしてしまった。

こんなところに麻衣がいるのかと、不思議に思って。

そしてそこにあったのは。


私ヲ名指シデ罵倒スル記事。


そして。


中学に入ったばかりのとき、席が近くで仲良くなった。

何度も一緒に買い物に行った。

携帯を買ってもらったとき、アドレスを真っ先に入れた。

落ち込んだとき、励ましてくれた。

悩みを打ち明ければ、真剣に聞いてくれた。

私が生徒会長に立候補するときも、支えてくれた。

高校で同じクラスになったとき、どれだけ喜んだか。

同じ部活に入った。

ライブにも出かけた。

手紙の件では本当に心配してくれた。

ずっと私を信じてくれていた。

親友だと思ってた。


その麻衣が。


私ヲ罵倒スル記事ニ、加担シテイタ。


「どうして……」

どうして?

麻衣にとって、私は何だったの?

所詮は蔑むべき存在だったの?

可哀想に思って仲良くしていたの?

確かに、私は何もしてあげられなかったかもしれないけど、

でも……でも……!


知りたい。

どうしてこんなことになっているのか、問いたい。

私に落ち度があるのなら、見つけて直したい。

やっぱりあの手紙の件なのだろうか。

だったら、どうすればいいのかを尋ねたい。

これ以上何をすればいいのかを訊きたい。

でも……それを聞いて……麻衣はどんな反応をするだろうか。

想像したくもない。

麻衣が私に向かって侮蔑の言葉をぶつけるところなんて。

そうなってしまう可能性が、ある。

だったら……このまま何も無かったように振舞えばいいのだろうか。

そうすれば、麻衣とは今まで通りの関係を続けられるのだろうか。

例えそれが、虚構のものだったとしても。



違う。

そんなんじゃ……そんなんじゃ駄目だ。

そんなの、私は嫌だ。

私は手紙の話を誠に打ち明けた。

私は手紙のことをクラスの皆に白状した。

私は祥子に謝りに行った。

それで、私は後悔した?

してない。

やってよかったと思ってる。

勇気を出してよかったと思ってる。

だったら、今度も。


勇気を出して、真相を暴こう。

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