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22 誠の物語4

「誠! じゃあ俺先に帰るな!」

「はいはーい。いってらっしゃーい」

元気よく駆け出していく隼人。図書館に向かうときとは大違いだ。

その姿が廊下の角を曲がるのを見届けて、僕はいつもの行動に移った。


図書館の扉を開けると、ムワッとした熱気が襲ってきた。

うわー、ちょっと暖房効き過ぎなんじゃないかな。

こんな中で勉強できるのだろうかと思ったけど、

暖房から最も遠く窓に最も近い席を探してそこに座る。

ガラス越しに伝わってくる外気温が心地良い。

もう12月か。今年も終わる。早いものだ。


先週は中間テストだった。

そして昨日で全教科の答案が返された。

この採点スピードは特筆に値すると僕は思う。

先生方、徹夜してやってんじゃないだろうか。

まあそんなことはさておいて。

テストの復習だ。


全教科の採点が終わったということは、全員の点数がデータ化されたということで。

それはつまり、順位も分かっているということだ。

隼人は残念ながら目標には僅かに及ばなかったようで、

携帯電話は次回までおあずけらしい。

僕の順位は……まあ、どうでもいいだろう。

勉強を楽しむために、授業を意味あるものにするために、やっているだけなのだから。

そしてそのためには、ある程度の理解力が要求されるというだけの話。

他の人と比べてどうだとか、そんなのは関係無い。


……ソレハ、ホントウ?

……仮に僕が学年ビリになったら、僕はショックを受けないだろうか。

受けないといったら嘘だ。

それは結局、他人と比べているということなんじゃないか?

僕にとって成績というのは一種のアイデンティティなのであって、

オ前ニトッテ勉強ナンテノハ優越感ヲ得ルタメノ道具ニスギナインジャナイカ?


下らない下らない下らない!

……また馬鹿馬鹿しいことを考えてしまった。

そりゃあ全く他者と比べないわけじゃない。

でも、本当の楽しみはそんなものじゃない。

混沌に見えていた中で突然解法の道を見つけたときの喜び。

試行錯誤を繰り返してきれいな数値が出たときの達成感。

今までの知識を総動員するときのワクワク。

それらはみんな、絶対的な快感。

この学校は、そんな問題をたくさん与えてくれる。

丹木高校に入学できて本当に良かったと思う。

隼人とも出会えたし。


隼人……隼人は今日、何の用事があったんだっけ?

……ああ、そうだ、ゴクラクチョウのライブがこの辺であるんだった。

ゴクラクチョウというのは隼人がはまっている音楽グループだ。

メンバーは確か5人で全員鳥に関係ある芸名だった。

ドラム、ピアノ、エレキギター、キーボードが2つ。

まだ全国的に有名というわけではないけれど、着実にファンを増やしている、らしい。

そういえば綾乃さんも好きじゃなかったっけ?

会場で会ってたりして。

まさか、ね。



家に帰って、夕飯を食べて、パソコンをつける。

最近家ですることといえば、もっぱら読書とこれだった。

それほど詳しいというわけではないから、ネットの巡回くらいしかしないのだけれど。

……その中のひとつに、「それ」がある。

丹木高校関係者の、私的掲示板。

入学する前に、高校のことを調べていて見つけたものだった。

もともとは3年生が立ち上げたもので、行事の準備や裏話が色々と書き込まれていた。

面白おかしく書いてあって、当時の僕は夢中になって読んだ。

この学校を選んだ積極的な理由の1つが、この掲示板の存在だったと言えるかもしれない。


……でも、いつからだろう。

ここに、個人を中傷するようなコメントが書きこまれるようになったのは。

最初はそういったものはすぐに管理者によってか、本人によってか、削除されていた。

でも、管理者が放棄してしまったのだろうか。

いつしか業者やいたずらの書き込みが増えていって。

それにつれて、だんだんと不穏な空気が立ち込めてきた。

最初は教師に対する不満だった。

それがだんだん誹謗中傷と区別のつかないものになっていって。

エスカレートしていって、今度は生徒に飛び火して。

名前は伏せてあることも多いけれど、知っている人ならすぐに分かる。

何度もう見るのを止めようと思ったか分からない。

でも、好奇心から、元のように戻って欲しいという期待から、開いてしまう。


その中に、尾崎君のことだろうと思われるものもあった。

「知ってるか? 3組の某Oは12歳のとき、万引きをして捕まった」

本当か嘘かは分からない。

でも書いた当人にとってはそんなことは問題ではないのだろう。

匿名の世界だから、どうせ誰が書いたか分からないのだから。そう思ってるのだ。

幸いにと言えるかは分からないけれど、大して過激なコメントは付いていなかった。

それでも気持ちのいいものでないことに変わりは無い。

楽しいのだろうかと、僕は思う。

こんなことをして、気分が晴れるのだろうか。

これを通りすがりの人が見たら、どう思うだろう。


ましてや、本人が見たら――


背筋に悪寒が走った。

理由は分からなかった。

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