02 誠の物語1
ない。
いない。
何もない。
誰もいない。
ひとりぼっち。
自分だけが孤独。
みんなは楽しそう。
自分だけが仲間外れ。
友達と呼べる人はいる。
でも、暇なときにいつまでもくだらない話で笑いあって時間を潰せるような人はいなくて。
さみしい時にいつでも一緒にいて話をしてくれる人はいなくて。
迷惑なんじゃないかって、いつも躊躇して。
何なんだろう。
自分が今まで作り上げてきた人間関係なんて、この程度のものなのかな。
生きてきた意味が無いんじゃないかって、思えてしまう。
自分が消えても、この世界は変わらないって、思ってしまう。
自分の存在は、何の意味も持たないんじゃないかって、考えてしまう。
時々起こる、発作。
引き金は色々。
懐かしいものだとか、遊んでる子供だとか。
楽しそうな顔だとか、大勢の人々だとか。
役割の無い自分だとか、必要とされていない自分だとか。
複雑で、複合的。
自分でも気づかないうちに。
何の前触れもなく。
それは突然起こる。
何もかもが楽しくなくなる。
何もしたくなくなる。
誰かに会えば治るかもしれないのに、誰にも会いたくないというジレンマ。
さっさと寝てしまおう。
眠れば治るはずなんだ。
明日になれば、くだらないことだったってきっと思える。
今までの人生は無駄じゃないってきっと思える。
だから、もう寝よう。
目覚ましが鳴る。
体を起こす。
階下で、炊事の音が聞こえる。
昨日のネガティヴな感情は、嘘のように消え去っていた。
発作の引き金は、何だっただろうか。
制服に着替えながら記憶をたどる。
…そうだ、お風呂から上がった後に、ニュースを見たんだ。
そこでは、地域の祭りの様子が映し出されていた。
映っている人全員の表情が、輝いて見えた。
心の底から祭りを楽しんでいるように、僕には思えた。
何でも、その祭りは地元の中学生が始めたものらしい。
それが今では町中のイベントにまで成長した。
すごいと思った。
同時に、嫉妬の念を覚えた。
僕より年上の人間のやったことなら、どんなにすごいことでも素直に褒められる。
それは、僕だってその年になったらできることかもしれないからだ。
でも、年下の偉業には、その可能性が一切無い。
最初から、僕には不可能だと決まっている。
だから、羨ましかった。
僕には出来なかったことを、彼らはやってのけたのだ。
それはきっと、とても充実したものだっただろう。
それがきっと、僕の発作の原因。
根本的な原因は、僕が自分に自信を持てていないことにあるのだろう。
僕は今、高校生だ。
青春真っ盛りというべき年頃。
でも、今の状況を改めてみてみれば、とてもそうは思えない。
友達はいる。でも多くはない。
中学のときから部活には入っていない。だから、先輩も後輩もいない。
恋人もいない。そもそも欲しいとも思わない。
交友関係が少ない。結果的に、遊びに出かけることが少ない。
通っているのが進学校だというのも、それに拍車をかけているのかもしれない。
時々、退屈している自分に気付く。
ふと、勉強ばかりしている自分に気付く。
周りが青春を謳歌していることに気付く。
羨ましいと、思う。
どうして自分はそうじゃないんだろうと、思う。
今まで自分は何をやってきたんだろうと、思う。
それがきっと、僕の発作の原因。
それでも、時は流れていく。
1日1日を、過ごしていく。
毎日高校に通う。
それは楽しいことだ。
発作さえ起きなければ、僕は日々を楽しく過ごしている。
でも、時々考えてしまうのだ。
それは逃げているだけではないかと。
楽な方向に、身を任せているだけではないかと。
青春を感じるためには、もっと積極的に行動しなければならないのではないかと。
そのための努力とは、一体どれほどのものなのだろう。
「いってきまーす!」
玄関からリビングに向かって声をかける。
扉を開ける。
朝日が眩しいながらも心地良い。
まあ今日も一日、頑張ろう。