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17 隼人の物語5

「あーもー、まじめんどくせー」

俺は小声でそう呟いて、机に覆いかぶさる。

隣では誠が、適当なプリントの裏にテスト勉強の予定を書いていた。

まったく、よくやるよ。

俺はもうそんなのは面倒だから立てない。

行き当たりばったりでその時したい勉強をする。

大抵の場合は何も勉強したくない。

だからテスト勉強は遅々として進まない。

……お、それを考えれば、それでも学年で後ろに50人いる俺って、結構すごいんじゃないか?


視界の隅で誠が体を起こした。

どうやら予定を立て終わったらしい。引き続き英語の教科書を取り出して勉強に入る。

まったく、よくやるよ。

マジでそう思う。尊敬する。

俺もとりあえず体を起こしてみる。

俺の体の下敷きになっていたシャーペンがずれて、ノートに歪んだ線がひかれた。

一気にやる気が無くなる。

なんかもうどうでもよくなってきた。

そもそも、テスト2週間前から勉強するのが間違ってる。

3日前くらいで良い。1教科1日くらいで。

俺は漫画コーナーへ向かい、この時期限定で全巻揃っているそれらから1冊を選んで席に戻った。

ただ寝ているよりはマシだろう、うん。

教頭か誰かが選んだ漫画だし。


そんなわけで、丹木高校はテスト期間に突入していた。

いつもと何が違うって、まず部活動が制限される。

俺みたいな文化系はいざ知らず、運動部は練習時間が削られて困るらしい。

生物部も一応活動延長禁止なんだが、俺はいつもその前に帰るし。

それから、授業内容が変わる。

やたらペースが上がる授業もあれば、まとめや演習ばかりになる授業もある。

要するにテスト範囲に合わせようとするわけだ。

大抵この期間は宿題の量が大幅に減るからその点はありがたい。

自分でテスト勉強やれってことなんだろうけどさ。


漫画を半分ほど読んで一息ついた。

かなり面白い。勉強勉強うるさい教師達にしてはなかなか良い選択じゃないか。

誠はといえば、相変わらず教科書を読みふけっている。

仮定法過去完了……そんなのもあったな。もう忘れたぞ、そんなの。

イフの省略に伴う倒置? そんなのあったっけ? やばいな、これは。

俺も英語の勉強をするか。

この漫画を読み終わったら。



読み終わってしまった。

勉強する気はいつの間にか失せていた。

次の巻を読みたい。

放課後に図書館に残ってまで何やってんだ俺は。

隣を見ると、誠は今度は何やらノートに書いていた。

単語練習をしているようだ。

まったく、よくやるよ。

どうしてそこまで打ち込めるのか、俺にはまったく理解できんね。


……いや、そんなことはない。

俺だって、中学の頃は勉強が楽しかったんだ。

問題を解くのが楽しくて、試行錯誤が楽しくて。

答え合わせをするときのドキドキ、ワクワク。

全問正解したときのあの達成感、爽快感。

テストで頭の中身が搾り出されるような感覚。

静まった教室の中で解答欄を埋めきったときの充実感。

誠の気持ちは分かる。

あの楽しさを、俺はまだ忘れちゃいない。

でも、勉強を楽しめない奴等の気持ちも分かってしまった。

あの楽しさを、俺はもう感じられずにいる。


入学早々、俺はつまづいた。

春休みの宿題をなめていた。

膨大な量であることに、俺は春休み最終日になってようやく気付いた。

当然、課題は終わらなかった。

当然、確認テストは散々だった。

今度こそと意気込んだのもつかの間、授業が早すぎてついていけなかった。

英語なんかもう、ありえない授業進度。

中学で1ヶ月かける内容を1日でやってるんじゃないかってくらいの。

平然とこなしているように見える周りが恐ろしかった。

実際、中間テストは玉砕した。

更に、期末テストも全然だった。

教科書が色あせて見えるようになった。


……なんて、弱音を吐いても始まらない。

さっさと取り掛かろうじゃないか。

分かることは楽しい。それは分かってる。

それが分かってさえいれば、また楽しめるようになるんじゃないかと思う。

後期の小中間テストは携帯の効果か、なかなかよかった。

そうだそうだ、今度こそ携帯を買ってもらうためにも、中間テストも頑張らないとな。

自分に言い聞かせて、ノートを開く。


さっきの歪んだ線が残っていた。

一気にやる気が失せた。

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