表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

『浩国国王と凪国王妃の語らい?』


「は?大根が動くわけないじゃん。お前、ヤクでもやってんの?」



 そう言った朱詩に、利潤は決意した。

 こいつ、絶対に殺す。








「けど、その後すぐに『こいつ』じゃなくて『こいつら』になったんだ。ああ、分かってる。転生したからって必ず記憶があるとは限らないと。けどな、せめて、せめてその大根の所だけでも記憶を持ってろよ!!ふざけんなよ!!俺達をこんな体にしやがって!!俺達全員覚えてたわっ!!」



 所謂ボクっ子。

 朱詩とキャラ被りするんじゃねぇ?と言われる、利潤の口調が思い切り崩れた。むしろ、前世にかなり近くなっている。

 いや、前世だって元々はボクっ子だった筈だ。

 ただ、好きな子の前で雄々しくありたくて頑張っただけという。



 利潤がバンバンとテーブルを叩きながら激しく叫んでいると、向かいに座る果竪が申し訳なさそうな顔をした。



「えっと、ごめんね」

「……」

「せめて、利潤と出会った時に歩く大根で凪国が埋め尽くされてたら」



 大根大パニック、再び!!




 違う、俺が求めていたのはそういう事じゃない。そこまで被害を甚大にしたいわけではない。



「いや、ごめん。いくら腹立たしくても凪国の民は関係無いよ。だから、無辜の民を絶望に陥れないで」

「え、なんでそんな話になるの?大根動いたら可愛いよ。幸福だよ。幸福じゃないの?」

「やめろ!!そんなマジ顔で迫ってくるのはやめろ!!今夜眠れなくなったらどうすんだよ!!」

「大根に添い寝して貰う」

「不眠症にさせる気かっ!いや、逆に現実が嫌になって永眠するわっ」



 死因ーー大根に添い寝をされたから



 嫌だ、そんなの。そんな死亡診断書を書く医師だって嫌だろう。問い合わせが来るわ。そして絶対に司法解剖案件だわ。



「ってか、紫蘭待ってたのに何で凪国王妃のお前が来るんだよ!!余所の国の王と会ったら密会だと思われるだろ」

「大丈夫。間違っても不倫とは思われないから、格差がありすぎて」

「自虐ネタは止めろよ」

「そもそも、凪国王妃だと認められない事もあるから。紫蘭ちゃんと一緒だね」

「待て。紫蘭は浩国の王妃だから。誰が認めなかろうと王妃だから。むしろ認めないのを今少しずつ仕留めてるから」



 ようやく記憶を取り戻し、浩国王妃として戻ってきても良いと言ってくれた紫蘭である。自分達に都合の良い王妃を宛がおうとする馬鹿達に邪魔されてなるものか。



 というか、果竪もまた別の意味でこちらを邪魔してくれているが。



「紫蘭はどうしたんだよ」

「お仕事中」



 記憶を失っていたーーというか、ループという現象に陥っていた間、紫蘭は凪国で保護されていた。しかし、浩国の王妃ではなく、下女として。

 それはもう生き生きと働いていた。文句をつけられない程に。



 そして王妃として戻っても良いと言ってはくれたが、もう少し仕事をしたいとおねだりされた。紫蘭には色々と苦労をかけた。だから、少しぐらいならと下女生活の延長を認めたがーー。



「そういえば、紫蘭に言い寄る馬鹿が居るらしいな?」

「紫蘭ちゃん、モテモテだからね」

「外見よりも中身を選ぶかーー凄いな」



 紫蘭の容姿は、前世と同じくそれはもう美女とはかけ離れている。いわば、醜女だ。しかし、何故だか味のある顔として評価された上に、お嫁さんにするなら紫蘭とまで言われている。凪国には余程見る目のある者達が多いらしい。素晴らしいが、紫蘭の夫としては相手を殺したい。



「せめて、せめて神妻であると知らしめてくれっ」

「誰の?」

「僕の」

「それ完全に浩国の王妃だって言ってる様なものだから。絶対に無理」



 両手で大きくバッテンを作る果竪は、本当に容赦が無かった。果凛の時から容赦が無いけれど、今や三割増しだ。どうしてくれよう、この大根狂い。



 思い返せば、果竪の前世ーー果凛にはだいぶおちょくられた。沢山助けて貰ったりもしたけれど、最終的に音羽を連れてさっさととんずらこきやがった。そのせいで、黄牙達がどんな状態になったか。


 いや、半分果凛に託した様なものだけれど、まさかあそこまで見事に逃げ切るとは思わなかった。それも、正に愛の逃避行と言わんばかりの姿に、淑宝が発狂し、黄牙と叶斗は妄執を抱き、他の者達も含めてヤンデレという今巷で神気ーー神気?とりあえず、物語の中ではオーケーだが、現実的にはアウトな状態に叩き込んでくれた。



 確かに離したよ

 手放したよ



 けど、その後こちらの手を全てすり抜けるその手腕に舌を巻いたよ



 光明が完全に狂気に陥った瞳をしていた。

 妹、妹、妹ーーおかげで、彼は転生しても尚、妹の転生体に執着している。


 いいから、自分の妻に執着していろよ。

 代償として奪われ、ようやく取り戻した妻と仲良くやってろよ。



「……」

「んぁ?」



 なんだか向かいに座る果竪が、深刻そうな顔をしている。

 両膝をついて組んだ手の上に額をのせて俯く姿は、何かに激しく苦悩していた。



「……何かあったのか?」

「……」



 果竪の背負う影が、濃度を増す。

 それは、コールタールの様な粘度のある物だった。

 知らず利潤は、ゴクリと唾を飲んだ。



 何かこの後、聞いたら終わりの様な宣告をされる様な気がしてならない。そう、この時、利潤は耳を塞ぐべきだった。しかし、前世からの付き合いで、果竪にとっては何気に面倒見の良い兄貴分でもある利潤は耳を傾けてしまった。



 そう、その、言葉を。



「ーー明燐の奴隷大行列が、レベルアップしてる」

「…………………………………………、は?」



 奴隷大行列。

 それは凪国建国時に、果竪の下に王妃付き侍女長として明燐が挨拶に来た際に初登場した行列である。大勢の男女入り交じる大行列の中央に、明燐の座る輿が位置し、その輿を筋肉逞しい男達が担ぎ上げ、女達は花びらをまき散らし、打楽器が打ち鳴らされぞろぞろと歩いてくる姿は実に恐ろしかったと、果竪自身が涙を浮かべて語った。


 本気で恐かったのだろう。

 あの果竪が泣きじゃくる様に、その話を萩波から聞いていた利潤は彼女のどんな困難や逆境にも負けない不屈の精神と強さに涙が止まらなかった。



 同じく聞いていた海国国王とその他幾つかの国王達は、「凪国だし……」と己を納得させようとしていた。馬鹿だろ。凪国だからで奴隷大行列がそうそう行進してたまるものか。


 しかも今、果竪からその奴隷大行列が更にパワーアップしたと聞かされた。いや、レベルアップか。どこだ、何がアップした?神数か?それともまかれる花びらが増えたか?打楽器がもたらす騒音が三割増し?いや、明燐の露出が五割増しか?それもう服着てねぇよただの全裸の変態だよ。


 今の時点で、もはや惜しみなくその悩ましく男女問わず悩殺死させる様な肢体の大半を露出させている。服の定義とは一体何なのか?人は、いや、神すらも進化の過程で服という物を獲得してきた中で、何故あいつは時代の流れに逆行しようとするのか?

 必要があったから服は多くの者達に受け入れられ、各時代に欠かせない物になったと言うのに。



 服に何か恨みでもあるのか?



 利潤は見た。

 兄に貰った美しい衣装を勝手にフルリメイクした明燐を。

 鋏片手に布の大半を容赦なく切り落とし、その魅惑の肢体をこれでもかと見せつける衣装に三十秒かからず造り直した姿に、真の露出狂の真髄を見た気がした。


 暑がりか?もしかして暑がりなのか?ならば全力であの兄辺りが凪国を極寒の地に変えるだろう。そして、極寒の地でも育つ大根を果竪が作り上げる。間違いない。



「もう凪国を極寒の地に変えろ。それで全て片が付く」

「なんでそうなったか分からないけど、極寒になったぐらいで明燐の露出癖は治らないよ。あれもう神生の全てだもん、明燐の。あと、世界の常識だよ、もはや」

「壮大すぎて涙が出るな。世界の常識かよ」

「たいていの国で普通に受け入れられているし。むしろ、明燐の露出はたいして問題じゃない」

「問題だろ。どう考えても問題だろ。あと問題提起している国は結構あるからな?」


 利潤が治める国でも問題提起してる。何度もしてる。


「それでね、レベルアップだけどーー」

「ああ」

「神数が増えたの」



 妥当な線だけど妥当にしたくない。

 増えたのか、神数。

 まあ奴隷の総数は日々右肩上がりという報告が来てた。報告する奴の悲しみに満ちた表情が今も利潤の脳裏にこびりつく。そりゃそうだ。なんで、諜報員として厳しい訓練を受けた末の任務が、明燐の奴隷観察なのか。



「あれは、あれはもはや狩りです!!神々の心をその視線一つで狙い撃ちにし、狩り取るスナイパーなのですっ」



 奴隷ではなく獣を狩って欲しい。いや、魔獣狩り。だが、逆にその魔獣達を奴隷として率いり高笑いする明燐の姿が脳裏に過ぎり、恐ろしさに心臓がすくみ上がった思い出に、利潤は両手で顔を覆った。



「あと、なんか奴隷の神達も明燐に右習えに近い露出になってきて」

「神数よりそっちの方が問題だろ」



 大勢の露出狂。

 もはや隠す気すらない堂々とした見せっぷりに、いつしかその露出っぷりが標準の服装になってしまうかもしれない。駄目だ、世界が終わる。



 やはり世界規模で極寒地獄にして貰うしかない。大丈夫だ、神々とて弱い者達が居る。寒さに屈し、衣服を涙ながらに着る者達は決して少なくはないだろう。



 明燐一神の為に、世界の気候すら変えようとする者を出現させる辺り、明燐はやはり傾国たる存在かもしれない。いや、世界すら傾ける存在だ。困った方の意味で。いや、たいてい傾く場合は困った方の意味が多いのだが。



 ーー奴は、別だ。



 服など邪魔だと豪語し、自分が世界を変えてやると宣言する様に、何故創世の二神はこいつをこの世に産みだしたのだろうと心底疑問に思った。

 産まれてくる時代を間違えたとしか思えない。

 まだ生物が衣服を獲得する前であれば、彼女は実に自由に生きる事が出来ただろう。



 衣服を身につけるのは当然という現在に生きるが故に、服という檻の中に囚われる日々となっている。



 そういえば、明睡が妹に送った衣装は人間界の東の島国で言う所の一着二十万円。そう、二十万円の服が三十秒でフルリメイクだ。泣くに泣けない。いや、あの超が付くシスコンの事だから、それさえも温かく受け入れている可能性がある。あの怜悧冷徹冷酷にして超有能な宰相の唯一の欠点が、超が付く程のシスコンである。


 待て、冷静に考えろ、その相手は本当にお前がシスコンになるだけの価値がある相手か?



 いや、あの宰相の欠点は一つじゃなかった。



 思っている事と言おうとしている事が真逆という、下手したら恋愛音痴からの生涯独身になりそうだった宰相。そんなあの男の暴言毒舌を笑顔で受け入れ、その言葉の裏に隠された真の意味をしっかりと理解する彼の妻は、最早聖女だろう。


 そもそも、昔から思っていたけれど、なんであんな毒舌野郎の想い神ーー今は妻だが、その相手があの彼女だったのか。熊撃ちは少々どころかかなり衝撃的だけれど、世の中にはもっと衝撃的な趣味や特技を持つ者達も居る。問題なしだ。



 むしろ大問題なのは、彼女の義理の妹になるあいつーー明燐である。



「……王妃権限で」

「奴隷の皆さんが、明燐以外の命令を聞くと思う?」



 聞いてたじゃんーー



 以前、幾つかの事件があった時に、明燐の奴隷達の動きを止める必要があった際に、目の前の王妃ーー果竪は一言で命令を聞かせていた。



 その気迫と覇気を前に、平々凡々の王妃なんていう罵倒など誰が出来ようものか。



 そもそも、格が違うのだ格が。



 果竪はあの大事件の中心に巻き込まれ、翻弄されながらも彼女は自分が望む未来を勝ち取る為に必死に考え、駆けずり回ってきた。そして見事にその未来ーーそれに近い未来を勝ち取った。



 自分の頭で考え、自分の体で行動する。



 奴隷達だって自分達で考えて明燐の奴隷になったのだろうし、覚悟だって凄まじいものがあるだろう。けれど、それでも果竪の覚悟はあの時、奴隷達すら上回ったのである。



 しかし、常にその気迫と覇気を常時放出出来ず、放出した後は通常時よりも平々凡々モードに陥る為、彼女を侮る者達の数は余り減っていないのが現状だった。



 だが、利潤は決めている。

 本気で切れた果竪と敵対するのは、出来る限りしたくないーーと。



 というか、今現在明燐に本気で果竪が切れたらそれで全ての問題が片付くんじゃないだろうか?



「明燐を止めれば良いだろ。ほら、服を脱いだら嫌いになるとか」

「明燐が服を脱ぐのはもう彼女の個性で魅力の一つだよ。それに、きちんと大切な部分は隠しているし、かなり際どくても服は服だから」

「お前……」



 そんな所で相手を思いやる心を持たないで欲しい。許容力の無駄遣いだ。あと、ここまで果竪に言わせているのに際どい服を着るなよ。そう、あいつが着る服は際どすぎる。むしろ全裸の方が余程マシというぐらいにエロティックな衣装も多かった。

 あれですね?アダルティーな世界のご衣装ですね。それを何故、そういう世界に属さない者どもの前で身につけるのですか?



 良 い か ら 服 を 着 ろ!!



 ま と も な 服 を 着 ろ!!




 侍女長としての衣装だけは、周囲が死守したのだろう。まともだ。しかし、私服はどれもアウトである。あの姿に欲情し、下半身がズタボロになるぐらいに激しく抉られる様な疼きに悩まされ地獄の様な日々を送る者達に、もう少し優しさを分けて欲しい。

 違う、そいつらの相手をするのではなく、そもそもそういう衣装を身につけるな。



 首から足先までカチッと着るべきだ。



 利潤がそう言い捨てると



「でも、それで前にシスターの格好をさせたの。そしたら、凄く背徳的で見た神達が全員前屈みになったまま蹲って動けなくなったんだよね」



 全ての欲を遠ざけた敬遠なる神の僕ーーシスター。

 しかし、そのかっちりとした衣服も豊満で悩ましい肢体を包めば、そのパッツンパッツンで逆に体の線をはっきりくっきりかっちりと見せつけ男を誘い堕落させる妖艶な色香をダダ漏れにするだけの代物にしかならないらしい。



 あれか?コスプレという奴か?!



「……早く学校に帰りたい」



 あの大事件で眠りにつき、その後目覚めた果竪は学校という物に通った。そして現在も学生という身分である。


 そして彼女が現在住んでいる『箱庭』と呼ばれるあの場所こそ、彼女にとっての安らぎの場所だった。



 出来れば引き籠もりたいと思っているだろう。分かってる、俺でも引き籠もりたい。



「……とりあえず……頑張れ」

「……うん」



 その後、果竪を迎えに来た明燐は、やっぱり際どい衣装に身を包んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ