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私文商会  作者: オブロンスキー
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第三話 正直に言わんね?

 牢屋でしばらくじっとしていたら、おっさんと、アジア系の男が二人、イギリス人の若い男がやってきて、俺を別の部屋に移した。まずは椅子に座らされ、おっさんが優しく訪ねてきた。




「そういえば名前を聞いとらんかったけん、教えてくれんね」


 おっさんは笑顔を無理やり張り付けたような顔をしている。かなり怖い。俺は声を絞り出すように答えた。


「中尾隆弘、です」


「なかおたかひろ、ねえ。わざわざ苗字を名乗るってことはお武家さん?」




 おっさんはまだ優しさを保った調子で聞いてきたが、かすかに怒気が混ざっていた。その声を聞いて、俺は自分の犯した失敗に気付いた。江戸時代には原則として苗字を名乗れるのは武士と公家だけだ。俺が苗字を名乗ったということは、俺が武士か公家と言うことになる。仮に俺が武士だった場合、客観的に見て、俺が刺客である可能性が高まる。


「ち、違います。中尾の出なので、つい」


 と、震える声で答える。でまかせだ。中尾なんて地名は知らない。タイムスリップした身としては嘘もなにもないが。




「中尾って、どこね?」


 また墓穴を掘った。答えられない。押し黙る俺をみて、おっさんは声を荒げた。


「なあ! 正直に言った方がいいっちゃないと? 英語を話せる乞食なんて聞いたことがなかたい。それだけで怪しいに決まっとろーもん。下手な刺客やね! どこに雇われたとね? フランスね? オランダね? それともどこかの大名ね? 英語でアルバートさんに近づいて油断ばさせて、貴様きさんが襲い掛かるか、仲間が襲い掛かるかする算段やったちゃないと? 嘘ついても無駄たい!」


 女の子が使うとかわいい方言ランキング上位常連の博多弁も、おっさんが凄みをきかせると恐ろしく怖い方言に早変わりする。おっさんは後ろに控えるアジア人二人に目配せをした。拷問の準備をしろということだろうか。




「違います……」


 と答えるしかない。この状況で下手に言い訳したらさっきのように逆効果になる可能性もある。ただ拷問を受けることは避けたい。まずい。下手をすれば殺されるまで拷問を受ける可能性もあるだろう。




「正直に言えばいいとよ。正直に。貴様きさんは体も大きいし、英語も喋れる。ここで殺すには惜しいんよ。正直に言ったら、おいちゃん(おじちゃん)は貴様きさんを雇いたいと思っとうとよ」


 おっさんは俺の事を見込んでくれたらしい。確かに身長178センチの俺はこの時代ではかなりの巨体だし、英語を話せるというのも貴重だろう。ただ、恐らくこれが最後通牒らしい。ここで正直に話さなければ、俺は本当に殺されるかもしれない。少なくとも拷問は避けられないだろう。


 やけくそになって全てを話すことにした。俺は本来違う時代の人間であること、大きな乗り物に轢かれた拍子にこの幕末の世界に入り込んでしまったこと、そして決して刺客ではないことを。




 おっさんは俺の言葉を逐一英語に訳して、若いイギリス人に伝えた。始めはイギリス人も何やら書きつけていたが、途中で馬鹿らしくなったのか、おっさんの通訳に相槌をかえすだけになった。


 おっさんもあからさまに胡散臭い目をしながら俺の話を聞いていた。そして俺が、今は西暦でいえば1860年頃ですよね?といったとき、おっさんは俺を哀れな目つきで見た。




「今は1820年たい。キチガイのふりが下手やね」




 俺は困惑した。それをよそにおっさんはアジア人二人に簡単な英語で言いつけた。


「まあ今日は痛い目見てもらうことにするけん。続きは明日。何か言いたいこと思い出したら、ストップ!って叫べばよかたい。こん二人は台湾人ばってん、簡単な英語はわかるけん」




 俺は台湾人二人に服を脱がされ、裸にされた。おっさんは俺が来ていたスウェットやジャンパーに興味を示したようで、それを拾いあげた。そしてそれを持ったままおっさんとイギリス人は部屋をでてどこかへ行き、俺は台湾人二人に縛り上げられて、ひたすら殴られた。

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