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劔の記憶  作者: はじめ
第1章
5/129

Sランク

残酷な描写があります。苦手な方はご注意を。


10/28改稿


2023/8/20

追記更新

 傭兵ギルドでクライスに聞いたキメラのアジトは街の外れにあった。塀で囲われた荒れ果てた廃墟だ。

 可視化の領域で内部の様子を確認するが先程相手した数の三倍程の人間がいるようだった。

幸い地上げ屋が全滅した情報はまだ入っていないようで慌てた様子はない。

 また、アジトには地下もあるようで地下に2人程の小さな反応があり、その側に1人の反応がある。小さな反応は攫われた子供で、その側の一人は恐らく見張りだろう。どうやら攫ったのはラルクだけではないらしい。

しかもこのアジトには()()()()()ではなくSランクの傭兵がいる。

正面から向かっても勝算はないに等しい。

となれば隠密行動で目的を達成するしかない。

 念のためSランクには効果がないだろうが、油断を誘うため私はオリジナルの女の姿に戻し、可視化の領域で中に人がいない事を確認した塀を一足飛びに飛び越え、念の為に側にあった植木の影に身を隠す。

 地下へは正面の割れた窓から入って右手に進み、三番目の扉を開けた通路にある突き当たりの階段から行けることを確認した私は可視化の領域を解除し、今度は不可視の領域を展開した。魔法による認識阻害、肉眼で見えなくなる魔法だ。

 しかし、弱点もあり気配や歩く際の音、風の流れ、触れられれば姿が見えてしまう。また、不可視の領域の最中は他の魔法が使用出来ない。


 Sランクと出会わないといいのだけれど…


 可視化の領域では半径100メートルまでの建物の構造、人の気配など私に近づけば近づくほどわかるが、強さまではわからない。

 先程の潜入ルートでは地下に行くまでに5人、見張りに1人計6人と出会うことになる配置だった。その中にSランクがいない事を祈りつつ、私は行動を開始した。


 割れた窓を飛び越え建物の中に潜入する。左手に1人帯剣した男が私を背にして歩いていた。私は割れた窓を背に右手に進んで行く。瓦礫やゴミが散乱しているので音を立てないように注意して進む、三番目の扉の横には1人の男が帯剣した状態で大股を開いて壁にもたれながら座っていた。幸い先程の男は通路の先を曲がっていったようでこの通路には私とこの男しかいない。

 私は男の正面に立つと剣を手に取り男の口を抑え心臓を一突きして私を捻る。

 声も出せず驚愕の眼差しで私を見ると、そのまま絶命した。

 絶命したのを確認してから私についた血を払い鞘に納めると扉を奥へとゆっくり開く。

 ちょうど開いた扉と階段の真ん中あたりに男が3人談笑していた。


「ん?」


「誰も入ってこないのか?」


 ゆっくり開いた扉を見て、背の低い男は不思議そうな顔をする。頭の悪そうな男が、


「風であいたんじゃねーの?」


「ほっとけって、開いててもしまってても、この廃墟じゃカンケーないだろ」


 ガタイの良い男がそう言い、話を戻して行く。


「この間買った女なんだけどよ……」


 知性が感じられないわね。全く……


 私は3人の脇を通り過ぎながら、階段に向かう。階段を降りた先は5メートル程の通路左手に扉が2つあった。奥の扉に見張りが立っているので、その部屋に監禁されているのだろう。


先に拉致された子供を確認してからとは考えていたが見張りは殺すとして上の3人はどうしたものか。


 子供を連れて逃げるには邪魔になりそうだし、声を出されたりして誰かが来ても面倒ね……


 ひとまず見張りの男を始末しようと剣に手をかけた瞬間…


「てめぇ、どこから入って来た?」


 冷や汗と共に全身の筋肉が固まる。明確に私に声をかけられていた。見張りの男は突然意味のわからない問いをかけられ困惑していた。


「動くんじゃねぇぞ、お前は上に行って三バカと一緒にダーレスに報告してこい。」


「…報告ですか?」


 動くなと言われ報告してこいと言われた見張りの男はさらに困惑していたが、前半はもちろん私にかけられたものだ。


「侵入者が現れた、手練れだから無駄死にをしたくなかったら大人しくしてろってな」


 そう言うと親指で自分の背にある階段を指差しさっさと行けと合図する。見張りの男は素直に指示に従い階段を駆け上って行った。


「さて、そろそろ姿を見せねぇか?」


「……よくわかったわね」


 振り返りながら不可視の領域を解除し男の顔を確認する。

 赤髪をオールバックに決め、先程のガタイの良い男など比べ物にならないほどのガタイで野性味が溢れ出している。

相対する雰囲気からいってこの男がSランクで間違いないだろう。

 ほぅと目を細め、腕を組みながら私をみた男は深々と頷き、細めていた目をカッ!と開いた。


「俺と結婚してくれ!」


「……」


 数秒固まったのち思わず両手を自分の身体を守るように寄せて後退り奥の扉にぶつかる。


 この状況で求婚などと、こいつ正気だろうか?


 私が黙っているのを見て、


「押し黙るほど嬉しいか、ワッハッハ!」


「嬉しいわけないでしょう。大体名前だって知らないのに…きゅ…求婚だなんて…」


 相手の態度に同様し、珍しくペースを乱して答えてしまう。


「名前?名前か、俺はレオンだ!てめぇはなんて言うんだ?」


「いやです。ごめんなさい。さようなら」


 先程までの緊張感は霧散し、私はぶつかった扉を開けた。

 薄暗い部屋の中で小さな子供2人がフードを被り身を寄せ合い膝を抱えて俯いている。突然入って来た私『たち』に怯えていた。


「なんだ、これは!!」


私の背後に来ていたレオンがそう叫ぶ。


「なんで知らないのよ!と言うかさらっと後ろに立たないでくれる?気持ち悪いから」


 気持ち悪い…と、呟きながら両足から崩れ落ちるレオン。意外と繊細なのかも……いや、いい体格をした男がそれはそれで気持ち悪い。

というかこの男本当にSランクなのだろうか?


「あなたがこの子たちの事を知らないなら連れて帰っても良いわよね?」


 気持ち悪い…気持ち悪い…と、連呼しているレオンに声をかけながら脇腹を強めに蹴った。


「ん?あぁ、かまわねぇよ、俺の性分にあわねぇし俺は違う目的でここにいるからな、連中の仕事にまで手を貸す義理はねぇよ」


 立ち上がりながら両膝をはたき、首を鳴らす。全くダメージを受けていないようで気にもしていない。

 連れて帰ると言う言葉を聞いて、子供たちは少し反応した。


「君たちの名前を教えてもらっても良いかな?」


 念のため、名前を確認しながら被っていたフードを脱がしていく。


「マ、マルクです」


 少し怯えながら栗毛色の髪の男の子が答えてきた。

写真で確認した通りの男の子だ。


「……」


 もう1人の金髪の女の子は答えなかった。


「この子はイーナです、あまり喋らない子だから……殴らないでっ」


 変わりにマルクが答えながら必死にイーナを庇うように前に出る。

 私は優しく2人を抱きしめ、


「大丈夫よ」


 と優しくいい、可視化の領域の応用で2人を診察した。2人とも擦過傷などの小さな傷がいたるところにあるが命に別状はないようだ。

 ふとイーナの中にとてつもなく懐かしい感覚を感じた。大昔、魔法があった世界では普通の…


「何かやってるようだが、悠長にしてて良いのか?」


 レオンが私に声をかける。私はまだ小さいイーナを抱き上げ、マルクの手を握り立たせる。


「俺が言うのもなんだが、すごい状態だな、そんなんでここから出られるのか?」


 私、イーナ、マルクの順に視線を流し呆れたように言う。数秒考えた後、レオンは頭をかきながら、近づいてきて


「仕方ねぇなぁ、坊主こっちに来い」


 そう言うとマルクを持ち上げ、片腕に座らせて、


「しっかり持っとけよ」


 首に手を回させる。


「あなた何を……」


「惚れた弱みだ、家まで届けるだけなら手伝うさ」


そう言いながらレオンは私を見つめてきた。

私にそんな事を平然と言う男は初めてだった。


「なっ…」


「時間が惜しい。行くぞ」


「守ってやるから心配すんな」


 そう言って踵を返しドカドカと進んで行く。


「なんであなたが仕切ってるのよ」


 私は慌ててついて行く。イーナはその小さな手をキュッと握りしめ私の服を掴んだ。

 後について行きながら、私は油断ではなくいらぬものを引いてしまったとオリジナルの姿になった事を後悔していた。

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