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劔の記憶  作者: はじめ
第1章
2/129

紅茶

2023/8/20

追記更新

「この通りのはず…」


 私は喧騒漂う町の表通りから少し外れた裏通りを颯爽と目的の店を求めて歩いていた。

 昼間でも薄暗い通りには人は少なく、すれ違う人は私を見てはニヤケ、腰の剣を見て顔をしかめる。今の時代の帯剣者は傭兵が大半なので不用意に絡んでくる者は少ない。


 私が創り出されてから幾百年、様々な出来事がこの世界では起こっていた。

 かつて魔法があり、私の様な様々な魔法具が存在し、生活の大半を魔法に頼ったていた時代は、大昔の大戦で多くが失われ魔法使いの存在しない世界となっていた。

 今の時代魔法と言えば私が扱うものを除くと稀に発掘されるオーパーツのみだ。また車や写真、銃といったオーパーツも一般にある程度普及しているがこちらは私から言わせれば魔法を使っていないオーバーテクノロジーというものだ。100年ほど前から突如として普及し、工業都市にある九条カンパニーにて開発されている。

 そんな長い年月を過ごし、幾人もの主と出会ってきたが、今は数十年と主がいない。

 私自身、特に主がいなくてもの行動に制限があるわけではないので、腰に携えた宝珠がはめ込まれている剣が本体である私は魔法で姿を具現化させ日々を旅しながら過ごしている。


 そうこう考えながら歩いている内に目的の店を見つけるが周りが閑散としていた。


「あるにはあったけれど…」


 空いている店を探す方が大変そうだな。

と、私は辺りを一度見渡し、期待と不安を胸に店に入ることにした。


 周りの雰囲気とは違い小綺麗ないい店ね。


 店はカウンターと何席かのテーブルがあり、常連客らしい人物が新聞を読んだり思い思いの時を過ごしていた。

 私はカウンターに座り、剣をカウンターに立てかけるように置いて少し目を閉じる。


 カチ、カチ、カチ……


 振り子時計の子気味良い音に耳を傾ける。そうしているとタイミングを計ったかのように店のマスターであろう人物が注文を取りに来たので紅茶を頼む。そう時間はかからず紅茶が出てきた。

 特になにも入れずに一口飲む。


 ……確かに美味しいな。


 この街にはいってから紅茶を飲むことを趣味としている私は宿も探さずに美味しい紅茶が飲める店を探して何人かに声をかけた。

何人かから同じ店の名前を聞いて評判いいと噂される裏通りにあるこの店を訪れた訳だが、どうやら正解だったらしい。


「美味しいわね。評判通りのいい店ね」


「うれしい事を言ってくれますね。褒めて頂いたお礼にこちらも特別にどうぞ」


 そう言ってマスターらしき人物はクッキーを出してくれた。


「ありがとうございます。あなたはこの店のマスターですか?」


 私がそう尋ねると、


「マスターというほどの者じゃないですが、この店を経営しています。ところで、あなたは、この街には傭兵業で?」


「いえ、特に当ての無い一人旅をしているわ」


「珍しいですね、街の壁外にいる魔物を相手にしながらの旅は大変でしょう」


 確かに一般人や下級の傭兵では魔物の相手は一苦労を通り越して自殺行為だが、魔法が使える私には容易いことだった。

 

「そうでもないわよ。慣れてしまえば」


「あなたはお綺麗なのに随分勇気がおありだ、男性がほっておかないでしょう」

 

 マスターが世辞を言う。

確かにくだらない男たちから何度も声をかけられ、傭兵ギルドなどでは高確率で絡まれる。

その度、痛い目をみて貰っていたのだが、ここ数十年は傭兵ギルドに行く際は過去の男性の主に姿を変え訪れることにしていたのでその頻度は少ない。

それはそれとして、マスターの言うとおりオリジナルの私の具現化は青みがかった白髪に、端整な顔立ち、白い肌に背も高く、女性としても出るところは出ているので、美人の部類に入っているせいもあるのだろう。

 そうでもないですよ。

と、マスターの世辞に返事を返した私は頂いたクッキーと紅茶を楽しみながら、至福のひとときを過ごす。




 ゆっくりと至福のひとときを過ごした私は勘定を済ませようと立ち上がってマスターに声をかけようとしたところ、店の入り口の扉がけたたましく開かれ私は視線を入り口に向けた。


 店にいた客と私、マスターが同時に扉から現れ息を切らしながら、今にも倒れそうな女性に注目する。


「ローレンス、大変だよ!」


ローレンスと呼ばれたマスターは息を切らしている女性を諌める。


「どうしたんだ、扉を乱暴に開けたかと思うと大声だして、まだお客さんがいるのだから…」


「そんな事はどうだっていいのよ、マルクが、マルクが…」


 ローレンスに注意された女性は諌めるローレンスを無視して、


「マルクがどこにもいないのよ!」


 その大声を聞きローレンスが絶句したと同時に店にいた客は騒めき立った。

 ちょっといなくなっただけで反応が大げさすぎないか?と私は思ったが大人しく事態を静観することにした。

 が、他の客達はすぐに勘定を机に置くと我関せずと1人残らず店を後にした。面倒毎に巻き込まれたくないのだろう。

 息を整えた女性が私に視線を寄せる。正確には座っている横に立てかけていた剣に視線を寄せて、すぐに反らせ、未だに絶句して動かないローレンスをカウンター奥に引っ張っていく。


 どうしたものか…。


 立ち上がった体を椅子に戻し、しばらく大人しく座っていると、奥から深刻そうな話し声が聞こえた。しばらくするとその声も消え、店の奥からローレンスと女性が出てくる。


「お客様、すみませんが今日はもう…」


 青ざめた顔でローレンスが声をかけてくる。


「いえ、ご馳走様でした。」


 私は勘定をだして、席を立つと慌てた様子の女性が、


「よろしければ少しお話を…」


 縋るような目で私を見て、引き止めようと手を差し出してくる。


「アンナッ!!」


 何か私に頼もうとした慌てた様子の女性、アンナをローレンスが一喝する。


「失礼しました。良き旅を」


 そう言いローレンスは一礼するが弱々しい姿だった。私も軽く手で挨拶し店の扉を開いた。


『困った時は他人を頼ればいいんだよ』


 できない事は出来ないといい、平気で私や周りの人間に投げ出す飄々とした男の言葉が。

ふと思い出された過去の主の言葉に私は開いていた扉に手を掛けたまま


「何か困っているのなら、他人を頼ってみるのもいいと思うわよ」


 私はそう口にしていた。

おそらく先ほどアンナが口にしたマルクの件で何かあったのだろう。

決してあの飄々とした過去の主の言葉に流されて頼られる事にしたわけではない。


「しかし…」


 躊躇う様子のローレンスと縋る思いで見つめてくるアンナ。


「ここで出会ったのも何かの縁です。サービスも頂きましたし、特別という事で」


 私は扉から手を離すとそう言い、二人が話しやすいように二人に向かって笑顔を作った。

10/28改稿

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