7話 『トリガーちゃんの果たし状』
普段通りなんとなくだらけていたカノン。彼女たちに忍び寄る怪しい影が一つ。
「もしもしカノン?」
「どったのフューズたん」
「フューズたんゆーなし。アンタ宛てに封筒が届いてるわよ」
今日も何かがありそうです。
【お邪魔します】
カノンの信頼のなさから、基本的に荷物はフューズ宅に届く。
「来たよぉ」
一人暮らしの部屋はこじんまりしているぞ。
「はいこれ」
「あんがとねぇ」
「なんて書いてあるのよ」
「待って」
「ん?」
「長くなるかも知れない。まずは座ってお茶でも飲もう」
「アンタが決めるんじゃないわよ」
【困りますお客様】
いつものことなので色々持ってくる。
「はいお茶。これ適当に食べて良いわよ」
「わーい」
「で、それ誰からよ」
「待ってね。えーと、うーん。難しいな」
「一回お菓子置きなさいよ。片手で開けられるほど器用じゃないんだから」
「食べたい!」
「いや、食べたいって」
「食べさせて?」
「そう言ったサービスは提供しておりません」
【特別なお誘い】
フューズが封筒を開けて中身を広げました。
「ひょーだい」
「読むときは飲み込みなさいよ」
「んくっ、ふぅ。何々?」
拝啓、お元気ですか。であれば何よりです。倒し甲斐がありますです! 広場を貸し切りましたですのでぜひとも遊びに来やがれです。逃げたら負けなのです! 逃げなくってもどうせ負けるのです! これは果たし状なのです。首根っこ洗って待っているがいいです!
「あー、久しぶりだねぇ」
「行くのね」
「面倒ーい」
「こらこら」
【こちらをご所望ですか?】
「カノンこれ続きあるわよ」
「続き?」
PS. またトリガーちゃんが戦闘狂になりましたのでご一報いたします。お弁当を持参しますので皆さんでピクニックはいかがでしょうか。日程は明後日の十一時ごろを予定しています。急なお誘いではありますが、ご連絡お待ちしています。――敬具
「よし、思いっ切り相手してあげよう」
「どっちの誘いによ」
【そんな訳で】
二日後。
「会うの久しぶりだね」
「暫く町を離れていらっしゃいましたから。楽しみですわ」
「ねぇ、広場ってあそこ右だっけ左だっけ?」
通りを抜けるとロリ狐っ娘が腕組んで構えてた。
「やっと来たのですカノン。さぁ、いざ勝負なのです!」
「ピークニックぅ!」
「――ストック、手紙に何を書いたのです?」
「ピクニック♪」
【私が相手なのです!】
「イレギュラーはあったですが、今ここで対峙した時点で私の勝ちは揺るがないものとなったのです。さぁ来るのです!」
「まだお昼には時間がありますし、お願いしますカノンさーん」
食欲を抑えてしぶしぶ構えるカノン。
「あっ! トリガーちゃん、空飛ぶ油揚げ」
「えっドコ!」
「隙あり!」
「あっ、ちょっと、待つので――あっははははは! やめ……やめて……ぅひ」
くすぐり固め。
(空飛ぶ油揚げってなんだよ)
(それでどうして引っ掛かったのよ)
【お楽しみは】
笑い疲れて放心トリガーちゃん。
「きょ、今日のところはこれで勘弁してやるのです」
「わーい勝ったぁ。お弁当ぅ」
「まだ早くない?」
「でももう終わっちゃったよぉ」
「では、私たちの土産話でも一つ」
「それは僕も聞きたいかな」
「そうですねぇ、まずは――あら?」
トリガーが飛び込んできた。
「わーん、ストックぅ! また負けたのですぅ!」
「この子をなだめてからにしますね」
【ねぇねぇ聞いてくださいよ】
トリガーたちの話はどこかの誰かさんと比べて冒険者だった。
「……その野宿した洞窟が大蜘蛛の巣でして、トリガーちゃんったらストラップみたいに――」
「がああ! その話はやめるのです!」
「じゃあ毒沼で漏らし――」
「それもダメなのです! 考えろなのです!」
「うーん、ボアの平原で群れに囲まれて――」
「どうしてそんな際どいラインばかり攻めるのですか!」
(トリガーちゃん、何回やらかしてるんだろう)
【私がトリガーなのです!】
トリガー、狐の獣人で最年少の少女。双剣を握って飛び回っている。歳相応に失敗が多い訳で。
「もう、これじゃあお話しできませんよ」
「じゃあ私が話すのです! 私の武勇伝に涙すればいいです」
「どれかしら」
「そう、あれは私が一人で古龍を討伐に行ったときの話しなのです」
「補足すると古龍ではなくオオトカゲですね」
自慢したいのでよく話を盛る。
【ストックはおいしいのです!】
ストック、植物族亜種の女性。ドリアードとアルラウネの中間に位置している。主に家事や手当て等の皆の身の回りの世話をしている。愛称はトッキーだが、トリガーを除いた自分のメンバーとウィールぐらいしか呼ばない。
「そろそろお昼ですから、支度いたしますね」
「わーい! 待ってましたぁ。私サンドイッチ」
「待つのです。いなりは私がもらうのです!」
「たくさんあるからけんかはメっ、ですよ」
植物族特有の長寿と冒険者の活動が相まって、料理の知識は幅広い。
「流石はトッキー。今いくつ?」
「ウィールちゃんいつもそれ聞くわね。でも、内緒よ」
年齢不詳。ウィールは地味に誤爆を狙っている。
【サイトはお見通しなのです!】
サイト、スライムの娘。パッと見で性別は分からず、非常に無口で連携がとりにくい。バフ・デバフが使えるので後ろに隠れていることが多い。
「隣、良いかな」
近付くウィール。
「……」
「うん、久しぶり」
「……。……?」
「僕はあんまり外出ないから。でも、見てみたいな」
「……、……。……」
「うん? トッキー」
「どうしました?」
「カノンとトリガーが」
醜い争いを繰り広げていた。
「よく分かったね、サイト」
「……!」
(ウィールちゃんも良く聞こえますねぇ)
ウィールの他にはトリガーだけ聞こえたりする。
【グリップは堅物なのです】
グリップ、オーガの女の子。種族の体質で頑丈で巨躯、体型より大きな鎧を愛用し小さく見せようとか努力している。兵団ギルドに在籍していた経験からか少し難しい性格。
「リッピ―全然食べてないのです」
「いえ、自分は皆さんの後で」
「そんなこと言ってたらなくなるのです! 今日はあのバカノンがいるのです。間違いなくなくなるのですよ」
「それならそれで――」
「失礼しますわ。残念ながらこちらの品もわたくしには合いませんでしたの。グリップさん、食べていただけませんか」
「ええ、喜んで」
(スナッファーのお姉ちゃん、これで三回目なのです。あの気遣いは何気に尊敬なのです)
(ほとんど好みではありませんわね)
【お別れなのです?】
「ごちそうさまでしたぁ」
「満足なのです」
「お粗末様でした」
カノンとトリガーの決闘、もとい皆でのピクニックは楽しく過ぎていった。
「では自分はそろそろ」
「お願いします」
トリガーたちは度々遠くまで赴く。フューズは少し寂しくなった。
「もう、この町を出るのでしょうか」
「えぇ! やだ、もうちょっと遊ぶぅ」
「いえ今日の宿の件ですよ。その――」
「安心するのです。私たちは当分この町にいるのです。いつでも受けて立つのです!」
「ええ、それもやだぁ」
「喜びなさいよ」
【招待状】
翌日、ストックを見掛けたフューズ。
「ストックさん、昨日はどうも」
「あらフューズさん。こんにちは」
「どうしたんですか?」
「長期滞在になりますから、改めてご挨拶をして回っているところです」
「そうでしたか。では途中まで一緒に――」
そんな事情はお構いなしに大きな声が聞こえる。
「カノン! 今日はかけっこなのです。足なら負けないのです!」
「負けでもいいよぉ」
「勝った方にデザートおごりなのです」
「負けないよぉ!」
「――あの二人は」
「これからよろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそ」
町が少しにぎやかになりました。