5話 『暴け!カノン調査隊』
フォールハートの店長と世間話で盛り上がるカノン。ふと窓の外に目を向けるとウィールを見つけた。どこかに用事だろうか。
「……って話でな。だからよぉ――ん? どうしたカノンちゃん」
(そう言えばウィールって……)
【ここは私が】
「で、何で私たちが呼び出されたのよ」
「いつも突然ですわね」
急に連絡が入ったカノンとスナッファー。
「まぁまぁ、デザートおごるからさ」
「お? 気前いいじゃないかカノンちゃん」
「おっちゃんが」
「ここ俺の店だけどぉ⁉」
【思い返せば】
「私が二人を呼んだのは他でもない。ウィールのことだよ!」
「ウィールの?」
「ウィールって普段何してるか知らないんだよ」
「まぁ、いつの間にかってこと多いわよね」
「本人に聞いてみては」
「ダメだよ!」
「なんでよ」
「分かっちゃうじゃん!」
「知りたいんじゃなかったの?」
【結成】
「本人に聞くならウィールもここに呼んでるのだよ」
「じゃあ何よ」
「私たちで調査しようよ!」
「は?」
「探偵団みたいに後をつけるんだよ! 尾行だよ尾行!」
「面白そうですわね」
「マジ?」
「よーし! カノン調査隊、ゴー!」
「そのネーミングはどうにかなりませんの」
【プライスレス】
結局あの名前で通った。
「そうと決まれば早速だよ。行こう!」
「元気がいいねぇカノンちゃん。俺にも分けてくれ。現金」
黙りこくるカノン。
「おっちゃん」
「ん?」
「世の中にはね、お金で買えない価値があるんだよ」
「カノンちゃん……」
「だからそれを探してくるよぉ!」
「うぉい!」
「時は金なり。おっちゃんも働けぇい」
(じゃあ仕事にさせてくれー!)
【調査開始】
そんなこんなでウィール発見。
「なんだろう、あの紙袋」
「来た道があっちだから、多分店で買い物でもしたんでしょ」
すると、ウィールは抱えた紙袋からりんごを取り出した。
「果物屋ですわね」
「カノン、よだれ」
「もらってこようかな」
「言い出しっぺ誰よ」
【ボーイッシュ】
りんごをそのままかじり出すウィール。
「ワイルドだね」
「歩きながらは行儀が悪いですわ」
「冒険者が言うのもなんだか妙だけど」
「意外な一面だね」
「多分大人っぽく見せたいんじゃない?」
「でも……」
(あれはあれで可愛いな)
【秘密の場所】
どんどん歩き続けるウィール。
「なんか町から離れてない?」
「森に入って行きましたわね」
「追っかけよう!」
木々に隠れて跡をつけるカノンたち。しばらくするとウィールが荷物を置いた。
「ここって」
「きれいな泉ですわね。底まで透けて、美しいですわ」
「で、ウィールはどこに――」
脱いでた。
【女神さま】
ニンフなだけあって一枚の物語になっている。
「いつもここで水浴びしてるんだね」
「絵になるわねぇ」
「でもこんなところ他の人には……」
木の陰でがさごそ、一人の少年がお出まし。見つめ合う二人。
「――ここは神聖な泉です。立ち去りなさい」
「で、でも、ここがどこか」
「真っ直ぐ後ろへ、その先が町です」
「あ、ありがとうございます」
少年、大人しくUターン。
(なりきったなぁ)
【飯時】
町に戻ってきた一行。
「お腹空いたぁ」
「そう言えば、もうそんな時間ね」
「では、ウィールさんについて行きましょうか」
ちょうどウィールも店に入って行った。
「よっし、続けぇ!」
「はしゃぐとばれるわよ」
「ところで何の店?」
看板の文字――妖精料理。
(共食い⁉)
妖精が好む料理の店でした。
【食欲】
ウィールの見える位置に陣取るカノンたち。
「考えてみれば、私たちってウィールの好きな食べ物も知らないのよね」
すみませーん。
「高校のときにも尋ねましたが、あまり興味を示しませんでしたし」
このリーフミートのステーキと。
「食欲と言うか、食に対する欲がないわよね」
湖の果実のスープ。
「他にも遠慮がちですから、たまに心配になりますわ」
後、四種のベリーの小麦クッキーを。
「アンタはちょっと遠慮しなさいよ! 払うの誰よ!」
【まだまだ知りません】
「席、ご一緒しても?」
「え――って、ウィール!」
「流石に騒がしいよ」
「いつ分かったのよ」
「うちの店に入ってきたとき」
「あぁ、そっかぁ……あ、今うちの店って言った?」
「うん。ここ僕の実家だから」
「初めて知ったわよ」
「言ってないからね」
【分かっているとも】
「なんだぁ。じゃあ初めから気づいてたのかぁ」
カノン以外はその顔に影が落ちたと分かった。
「――どういうこと?」
「え? ついて来てたの分かってたんでしょ」
「うん。分かってたよ。一応いつからか答え合わせしようか。カノンたちが始めたのはどの辺り?」
「えーと、りんご丸かじりしたとき」
「首謀者は?」
一斉にカノンを指差す二人。
【忘れてください】
カノンにたんこぶが増えました。
「ごめんウィール。私もちょっと気になっちゃって」
「別にいいよ。水浴び見られたのは恥ずかしいけど」
「そんな。神話のようでとても美しかったですわ」
「そ、そうかな」
「よくあんな演技堂々とできるよねぇ。すげぇ!」
「カノン?」
「ん?」
もう一つたんこぶが増えました。
【覚えてください】
「それじゃあ、お騒がせしました」
「次はまともに来てよ」
「そのときは、もっと個人的なお話が聞きたいですわ」
「うまかった! また来るよ」
それぞれ帰る三人。別れた後にウィールの父親が彼女の肩に手を置く。
「あれがいつも言っている子たちかい?」
「うん。僕の友達。高校からの、親友」
「良かったな。お前のことを分かってくれる友人ができて」
「――うん」
ウィールの一番の欲求はもう満たされているようだ。