4話 『フューズの新しい武器』
フューズの荷物は多い。司令塔やバックパッカーを担っているからだ。だが、生身での戦闘能力が低く、武器や道具を多く持参しているからでもある。
「ごめんくださーい」
「いらっしゃ――なんだフューズか。金ないなら帰った帰った」
「あるから来たのよ。なくても別にいいでしょ」
今日は知り合いの姉妹の店でアイテム漁りだ。
【いつものもの】
「で、何買う?」
「とりあえずいつもの詰めといて」
ポーション、傷薬、包帯、羊皮紙、砥石、その他諸々……それと、砲弾。
「カノンちゃん、まだ忘れてくるのか?」
「いや、もう私が持ち歩くことにした」
「フューズのそう言う思い切りは感心するわ」
【迷わないように】
「小型の羅針盤とかない?」
「そこの地図と一緒の棚にあるよぉ」
フューズ物色中。
「久しぶりに遠出でもすんの?」
「樹海よ」
「羅針盤、効く?」
【聞いてた?】
「使えない場所の方が少ないわ」
「流石に外出てるだけあってお詳しい」
「第一、リクエスト出したのアンタの姉よ」
「へぇ? 聞いてなくない?」
「そんな疑問形で言われても」
「聞いてないのかぁ」
「私が知らなかったみたいになってるわよ」
【そう言うことなら】
「次いでだからお姉さんに会わせてよ」
「姉貴は今工房だから邪魔できんのよ」
「なら、また今度でいいわ――はい代金」
「ほいほい、ご贔屓にぃ――ほいお釣り」
「武器、作ってもらいたかったのだけれど」
ぴくりと反応。
「仕方ないなぁ。特別に取り持ってあげるよ」
「目が金貨になってるわよ」
【ちょっとお時間】
店の奥の扉、その先の階段を下ると工房がある。
「姉貴ぃ、お客さん連れて来たぁ」
「今日の予約は入っていないはずよ、メディ」
「そんなこと言ってもいいのぉ? 姉貴だってお客さんだよぉ」
「私が?」
振り向くとフューズと目が合う。
「どうも、クレアさん」
「間に合ってます」
「押し売りじゃないです」
【問題ない】
クレアは鍛冶師をしている。数日前に材料の依頼を出していた。
「そっか、あの依頼受けたのフューちゃんだったの」
「はい。まだ達成はしてませんが」
「期日はまだあるから。でも、フューちゃんが引き受けてくれるなら直接頼んだ方が登録料が浮いたかしら」
「すみません?」
「大丈夫。リクエスト出したから気づいてくれたわけだし」
「クレアさん」
「その分は、武器の依頼人に請求するわ」
「クレアさん⁉」
【呼び方】
「メディ、こっちは分かったから上に戻って」
「ほーい、じゃあごゆっくり。フューちゃん」
「その呼び方やめて」
「なんでさ」
恥じるフューズ。
「冒険者っぽくないじゃない」
「ごめん。フュー、ズちゃん」
「あぁっと、クレアさんは大丈夫です!」
「なんでさ」
「なんか、大丈夫!」
(この人、元が静かだからちょっとのことですごい距離を感じるのよねぇ)
【本題】
「それで、何の用事だった?」
「私にも、武器を作ってくれませんか」
「そんなこと。お安い御用」
「ありがとうございます!」
「それで代金だけど、受けてるクエストの報酬をカットで、材料を集めてくれる?」
「いいんですか?」
「うん――儲けは出ないけど」
「は、払いましょうか?」
【職人魂】
「どんな武器が欲しい?」
「えっと、魔法が使えて、片手で持てる、近距離武器、でしょうか」
「なるほど」
クレアが腕を組み、暫し悩む。
「試してみたい武器があるわ」
「試す?」
「腕が鳴るわね」
(火をつけてしまったようだ)
【期待大】
後日。
「ごめんください」
「いらっしゃい、ってフューズかぁ。姉貴?」
「そうよ。頼まれた分、持って来たわ」
「待ってて呼ぶから」
地下に向かって声を張る。
「姉貴ぃ。フューズ来たよぉ」
クレアが勢い良く駆け上がってきた。
「来て。待ってた」
口調に反して。
(すっごい息切らしてるー)
【君が欲しい】
材料を渡し、早速開始。インスピレーションに任せて武器を製作中、ちょっと手詰まり。
「うーん」
「どうしたんですか?」
「ここなんだけど」
クレア説明中。フューズは何か気付いたようだ。
「これ、……したらどうでしょう」
「そうか、良い線。いや、正解かも知れない」
「良かっ――」
「うちに来て!」
「え、私冒険者ですけど」
「やめて来ない?」
「夢叶えた人に何てこと言うんですか」
【新しい武器】
「できた」
美しいストーンナイフだ。
「魔法剣、と言うには小振りだけど、どうかしら」
「流石です。クレアさんの鍛冶師の腕は本物ですね」
「そんなに褒めないでよ」
「本当のことですよ?」
「ほんとに?」
「本当です」
「ちょっと待っててね。もう一本作るから」
「え?」
双剣になりました。
「えっと、ありがとうございます?」
クレアはとても満足そうな表情をしている。
【叶えました】
お礼の後、フューズの顔を心配そうに見つめるクレア。
「フューちゃん。冗談じゃなく冒険者をやめたくなったら、いつでもうちに来て。人間の女の子だと、大変でしょう」
クレアを見つめ返すフューズ。その目には決意が見える。
「ありがとうございます。でも、なろうと思って、本当になれたことですから。それまでは目一杯頑張ります。じゃないとせっかくの武器が台無しですから」
(あらら、少し出過ぎた真似だったかしら)
【その気持ち届きました】
「大丈夫そうね。上まで一緒に行くわ」
「気に掛けていただいてすみません。でも、急に雇ってもらっても足を引っ張るだけかと」
「メディよりは絶対に仕事できるのよ」
「それ本人の前で言ったらだめですよ?」
(あれ? 扉、開いてる)
お客さんが来るまで地下への扉を開けていたメディ。上がってきた二人はその顔にすぐに気が付いた。
「聞こえてたよ?」
フォールハートでおごって許してもらいました。