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3話 『スナッファーは磨くのが好き』

 カノンたちの暮らす世界では、住人が依頼を持ってくる。直接冒険者に頼んだり、登録所に申請したり。特に登録所に申請した依頼はリクエストと呼ばれ、要点ごとに分けて条件を付けて貼り出される。これがクエストだ。基本的にはものが欲しいと言うクエストが多く、冒険者のほとんどは代わりに入手してくることで報酬を得ている。

「あっつーい!」

「我慢しなさいよ」

 今日はカノンたちは洞窟に来ていた。


【せっかく来たなら】

「だるいー、寝るー、寝れなーい、暑いー」

「余計に暑いわよ、黙って」

「私は涼しいって聞いたから洞窟に来たのぉ」

「普通はそうじゃないかな。ここは近くで温泉が湧いてるから」

「え!」

 ウィールの耳より情報にカノンが分かりやすく反応する。

「依頼が終わってからよ」

「温泉たまご! 温泉まんじゅー!」

「そっちかよ」


【欲しいもの】

 楽しみは増えたが、まだまだ不満があるようだ。

「そもそもこれ受けたの誰ぇ?」

「わたくしですわ」

 暑さに気力を持っていかれたカノンとフューズに対し、スナッファーは上機嫌だ。

「なんか嬉しそうね」

「ええ。今回の依頼、鉱石の採掘ですが、余分に得た分やその鉱石以外はいただいて良いとのことですわ」

「そっか宝石だね! 金貨がいっぱい――」

「何故金貨にしますの?」

(あぁ、そっか。買った後のものを売ることもないか)

 とりあえずお金に。過程が目的になる典型例である。


【体質】

「て言うか、暑くないのぉ?」

「龍族の血を受けていますから」

「ずるーい。私も欲ーしーいー!」

「アンタはエルフなんだからまだいいでしょ。使えないにしても多少は魔法で調節できるんだから」

「あれ? ウィールも平気そう」

「聞きなさいよ」

 そっとフューズに水を渡すウィール。

「妖精の種族は暑さ寒さは感じないんだ」

「それもずるーい!」

「だから温泉は楽しめないんだ」

「それは、辛いね」


【ひと休み】

 人一倍荷物の多いフューズに限界が来た。

「ごめん。ちょっと休憩」

「僕たちには気にしないで。あそこ座ったら?」

「人間は不便ですわね。女性ですと力もありませんし」

「司令塔任せてる方が大きいと思うけど」

「私もきゅーけー」

 フューズと違い、床に座るカノン。

「あっつーい!」

(カノンの世話で持っていくもの増えてるんだろうなぁ)


【目的】

 暫く奥へ進むと気温が下がってきた。

「あれ? なんか暑くない。むしろ涼しいような」

「この辺りの鉱石は熱を吸収しますの」

「へぇ、この青いの?」

「そうですわね。ちなみに、今回の依頼はその鉱石ですわ」

「え! じゃあ集めて帰ろうよ」

「大きさに指定がありますの。確か、三十メートル」

(は?)

「ではなく、三十センチ以上でしたわ」

(ボケだろうか。ツッコみづらいけど、ボケっだったのだろうか)


【温度調節】

 更に奥へ進むと、徐々に大きな鉱石が増えてきた。

「さ、寒いっ」

「涼しいとこに行くって思ってたなら羽織るものくらい持って来なさいよ」

「これは、涼しいじゃないよ。寒いだよ、うっ」

「さっき汗かいたからねぇ」

「脱ぐ」

「それはそれで寒いんじゃ」

「あっ、なんかあったかくなってきた。良かっ――あっつーい!」

「火加減間違えたかしら」

(これが善意な辺り強く言えないなぁ。焼けたのカノンだし)


【父も母も】

 結局フューズに服を借りたカノン。

「皆さん、お疲れ様です。ありましたわ」

「わーい! 帰ろー。温泉行こう!」

「その、わたくしの分も探し良いでしょうか」

「えぇ!」

「いいじゃない」

「僕は構わないよ」

「なによぉ。寒くないのぉ」

「吸血鬼は寒さに強いんですの」

「こいつ、完全体か!」

「なんのよ」


【どうせなら】

 自分好みの鉱石を探すスナッファー。暫くして幾つか抱えてきた。

「お帰り。あれ?」

「それ宝石? 言い方は悪いけど、あんまりきれいじゃないね」

 依頼にあったような青い鉱石より、黒ずんで鈍い石を抱え、スナッファーは嬉しそうだ。

「これは原石ですの」

「原石?」

「自然に生成された結晶は誰が見ても美しく輝きますわ。でも、原石は隠れたまま。磨き上げた人にだけその光を教えてくれますの」

 語る表情は宝石よりきらめいた。二人はそう感じた。

「スナちゃん暇なんだね」

「その服が借り物でなければ、真っ赤に照らして差し上げているところですわ」


【ちょうど良いですわ】

 依頼を達成するために近くの宿まで来たカノンたち。

「こちら依頼の品ですわ」

「はい、確かに。形もきれいで、一回り大きい。報酬は上乗せしましょう」

「感謝いたします。では」

「ええ、どうぞうちの温泉でごゆっくりなさってください。お土産は後程客室へお持ちします」

 状況が飲み込めないカノン。

「もぁ?」

「要するに、今回の報酬が温泉と部屋を無料で提供ってことよ」

「ああ、あっ! そうか。わーい!」

「ちょ、走るな!」

(子ども……)


【成長】

 脱衣所にて。

「汗かいて温泉入るなんて、計画的だねぇ」

「ウィールみたいね」

「それは嬉しいですわね」

「ちょっとやめてよ」

 時間帯からか貸し切り状態の更衣室に女の子四人が声を奏でる。

「ウィール、身長伸びた?」

「え! 本当なら希望あるよね」

「女の子なら背より胸でしょ! ほら」

「アンタは太っただけでしょ。動きなさいよ」

「そんなことないよ! ねぇスナ――あ」

 美しい、壁があった。


【きれいにしましょう】

「温泉だー! 入る前からあっちっちぃだけど」

「カノンさんが悪いんですのよ」

「いや、ごめんって」

 こんがりカノンを横目に、入り方について話し始める。

「フューズは体先に洗う?」

「私は先かな。出た後に軽く流す。ウィールも?」

「僕は掛け湯だけ。妖精だから汚れはじくし」

「あまり気にしなくとも良いかと。ここは源泉かけ流しですから、多少の汚れはその内流れて行きますわ」

 そこへ話し声をかき消す猛襲。

「一番風呂いっただきぃ」

 しぶきを立てて飛び込む。

「穢れの方も流してくれないかしら」


【良いもの】

「ふぃ~」

「気持ちいい」

「ですわねぇ」

「ね」

 ふと思い出すフューズ。

「ウィール、気を遣ってない? 温度が分からないなら」

「ううん、嘘じゃないよ。水とかお湯の感覚は分かるし」

 ウィールの顔が心の底から優しくなった。

「何より、みんなと入ってるからね」

「ウィール」

「うぇはっはーい! 気っ持ちーい」

 お構いなく泳ぐカノン。

「次はプールかな」

「それもそれで心配だわ」


【自分も】

 風呂上がりに部屋に訪れたカノンたち。追加報酬のお土産を受け取り、ひと休み。

「涼しーい」

「わたくしたちが持って来た鉱石のおかげですわね」

「あの青い?」

「ええ、冷房の代わりあの鉱石を使用しているのですわ。定期的に依頼が出ますのよ」

「じゃあ何回か来てるんだ」

「もちろんですわ。原石だけでなく、自分も磨けるのですから」

「お嬢様って大変だよねぇ」

「アンタはもっと女の自覚を持ちなさいよ」


【こっちもお好き】

 ほてりが覚めてきたころ、フューズはウィールの顔を眺めた。

「体汚れないみたいなこと言ってたけど、言われてみれば肌きれいよね」

「恥ずかしいな」

「ちょっと触らせてよ」

「いいって言う前に触ってるじゃん」

「顔も、腕も、脚も、うわ背中すごいきれい!」

「ひゃっ! そこ、くすぐったいよ」

 浴衣がはだけ、女の子たちがじゃれ合う。

「いいですわ。とてもいいですわ!」

「スナちゃんって女の人好きだよね」

「失礼ですわね! わたくしが愛しているのは美しさですわ。可愛らしい女の子の絡みは美しいのですわよ!」

「愛しちゃったかぁ」

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