1話 『カノンは冒険者です』
ここは冒険者のいる世界。枝木の上で寝ているエルフ、彼女も冒険者である。すると、二人の少女が近づいてきた。
「寝てる」
「どうしましょうか」
「起こす。はぁ!」
強烈なキックで、小振りな木が揺れる。振動の伝わった枝は、少女を支えることを諦めた。
「ごはっ、う」
「お見事ですわ」
「ふんっ」
【やったこと】
「いったーい! 何、モンスター?」
「人を呼びつけといてモンスターにしてんじゃないわよ」
「あ、フューズ、スナちゃん。もう来たんだ」
「カノンさんからクエストのお誘いだなんで珍しいことですわ。少し足早になっていたかも知れませんね」
「で、アンタなんの準備もしてないじゃない」
「してたさ!」
「何を」
両手を腰に当てるカノン。
「ちゃんと動かずに待ってたじゃん」
「支度の分は動きなさいよ」
【やってなかったこと】
「できたぁ」
筒とバッグを背負って立ち上がる。
「じゃあ行きましょう。場所は?」
「え? 知らないよ」
他二名が疑心の目を向ける。
「リクエスト登録したでしょ」
「あ、ごめんまだだった」
「アンタねぇ!」
「ごめんなさーい!」
言い争う二人を眺めて、ある人に念話するもう一人の少女。
「もしもし、スナッファーですわ。カノンさんがやってくれましたので、登録所で会いましょう」
【集合】
登録所に着いた一行。一人の少女を見つけて手を振る。
「何やってるの?」
「ごめんごめん! すぐ書くから待ってて」
係の人から書類とペンを受け取るエルフの少女。
「えっと、エルフのカノンと、人間のフューズ、ドラゴヴァンプのスナッファーで、ニンフのウィール、っと。クエストは、竜の卵を持ってくる」
一同驚嘆。
「え、今何て?」
【依頼人は?】
登録所を後にした一行。
「アンタ、なんでよりにもよってそんな面倒なリクエスト受けて来たのよ。第一、この辺でそんなこと頼むのって誰よ」
「洋食屋のおっちゃん」
「え、使うの? 竜の卵」
指を振るエルフの少女。
「ただ使うだけなら私だって今頃寝てるさ」
「いや、流石に起きてなさいよ」
「実はその卵で――」
極めて真剣な顔。
「――試作品を食わせてくれるんだ!」
(釣られたのかよ!)
【紹介①】
カノン。エルフの少女。自身の種族に関わらず魔法が使えない。代わりに、抱えるタイプの大筒型の大砲で遠距離砲撃を行う。大体言い出しっぺで、一応リーダー。
「ところでカノン」
「どしたの?」
「それの弾持って来た?」
「もちろん! ちゃーんとバッグに――」
固まるカノン。
「――忘れた」
「だと思ったよ」
魔法が使えない原因は、頭が足りないかららしい。
【紹介②】
フューズ。冒険者では珍しい人間の女の子。他の三人とは、冒険者の学校時代からの仲。
「カノンは高校のときから変わんないわね。はい、私のあげるわ」
「わーん、ありがとー!」
突出した能力はないが、基本まとめ役を担っている。身内への気配りは、むしろ彼女がリーダーだと思わせる。
「でも、自分が使わないのに持ち歩いてるなんて、フューズもバカだねぇ」
無言でノールック裏ビンタ。
「痛い! 何で!」
カノンへは特攻持ち。
【紹介③】
スナッファー。ドラゴヴァンプのお嬢様。吸血鬼の母と龍族の父の間に生まれたハーフ。混血故か、血を必要としない。代わりに魔力を吸い取り、少し火が吹ける。高貴ではあれ偉ぶらず、種族による差別はしない。
「カノンさんはずっと変わりませんわね」
「スナちゃんもその変な喋り方のままだよねぇ」
「燃やしますわよ」
「え?」
種族による差別はしない。
【紹介④】
ウィール。ニンフの女子。ニンフの中では小柄で、人間であるフューズより身長が低い。無言実行が多く、感情の波が比較的緩やか。
「そう言えば、カノンさんを待ってる間、また可愛いって言われてましたわよね」
「ちょっとスナッファー」
「いいよフューズ。別に気にしてないから」
体格に関して言われることは慣れている。むしろ、良い意味合いであれば嬉しかったりする。
「ウィールは"ちび"だもんねぇ」
「今日はあなたのサポートしない」
「え、何で!」
露骨に言われると怒る。
【戦闘①】
ワイバーンの巣を発見した一行。親竜は寝ているようだ。
「フューズ」
「分かってる。ウィールが魔法で衝撃緩和、歩く音を消して。私と二人で手前の卵を奪取――」
作戦は基本的にフューズが考える。ある程度の対策は準備をするが、実際には計画通りにいかないことも多い。そのためその場で組み立てるようにしている。
「――カノンとスナッファーは後衛で待機し……」
「隙あり! これでもくらえぇ!」
放たれた砲弾はワイバーンの背中で爆発した。
(あほーーー!)
その場で考えても、計画通りにいかないことが多い。
【戦闘②】
重機を彷彿とさせるワイバーンの咆哮が響く。
「もういっぱーつ!」
カノンの持つ大砲は中距離から遠距離、爆発する弾で物理支援を行う武器だ。
「どーんどーんっ! 最後はゼロ距離で――」
無傷のワイバーンが尾を振り、爆炎ごとカノンを吹き飛ばす。
「あぁー……、げふっ」
「アンタその癖直しなさいよ」
カノンが至近距離を好むため、あまり性能がいかせていない。
【戦闘③】
「来るよ」
「くっ、スナッファー援護お願い! 合わせてウィール」
「了解」
ウィールは魔法、特に回復や障壁に特化している。対象に手をかざし、見える範囲を支援する。
「リベンジだぁ! ウィール、私にも――」
「そっち行った!」
「え?」
盛大に吹っ飛ぶカノン。
「げふっ。ちょっとウィール!」
「ああ、スナの方やってた」
魔法は片手で一つまで。
【戦闘④】
ワイバーンが巣から離れたのを見計らい、卵を抱えたフューズ。しかし察知したか、巨体を旋回したワイバーン。だが、突如としてその背が燃え上がる。
「あら、その鱗は耐熱性かしら」
スナッファーの魔法は攻撃特化、後方からの支援で火力をサポートする。戦力に数えればサポートの域ではとどまらない。
「うーん、止まってくれませんわねぇ。仕方ありませんわ」
迫る竜を全力で殴り飛ばすスナッファー。
(えぇ……)
「しょっと。存外容易に沈みましたわね」
彼女は魔法より打撃の方が強かったりする。
【こだわり】
「何はともあれ、クエスト完了ですわ」
「ふぅ、お疲れみんな」
達成感に浸る中、声を大にする人が一名。
「ちょっとぉ!」
「あら、何ですのカノンさん」
「それ初めからやってよ!」
「それでは美しくありませんわ。それに、魔法だけでもカノンさんよりは貢献しましたわ」
「ぐぬう」
ぐうの音も出ないカノン。意地になって言い返す。
「ゼロ距離射撃は男のロマンだよ!」
「アンタ女じゃない」
【後のことを考えて】
「それにしても、このワイバーンどうしよう」
「リクエストは卵だけでしたわね」
「おっちゃんに料理してもらおう!」
「食おうと思うアンタにビックリよ」
一同困惑。
「こんなことなら討伐クエストも一緒に受けとけばよかったわ」
「あっ。それ受けたよ」
「――え?」
「期日長めだったから、僕が受けといた」
(流石です、ウィール先輩)