14話 『あの頃のこと』
フューズ宅にお客さんです。
「カノン出てー」
「自分ちでしょー」
「人の家で遠慮なくくつろいでる人に言われたくないわー。早くー」
「はーい。どちら様――」
見知った、懐かしい顔があった。
「――先生!」
「お久しぶりね、カノンさん」
「え、先生?」
彼女たちにも学生の時間があった訳で。
【無理です】
「わぁ! 先生久しぶりぃ。元気ぃ?」
「えぇ。カノンさんは、聞くまでもありませんね」
先生ことアテナ、竜族の女性。カノンたちの高校時代の担任である。スナッファーとは遠い親戚らしい。
「ところでぇ、ここはぁフューズさんの自宅で間違いないでしょうかぁ?」
「はい、私の家ですが」
「てっきりカノンさんと結婚したのかと思いましたぁ」
「先生、言っていい冗談と悪い冗談があります」
「そ、そんなに嫌でしたぁ?」
【お願い?】
「それで、今日はまたどうして」
「実はぁ、皆さんに先生をして欲しいと思いましてぇ」
「なるほど――はい?」
「先生からのクエストですっ」
「ですっ、じゃないですよ!」
【飴と鞭】
「先生ねぇ、来月からこの町に赴任するんですよぉ」
「来月って、来週じゃないですか! え、待ってください。この町に学校なんて」
「新設されるんです。登録所裏に新しい校舎が建ってるはずですけどぉ」
「あの和風家屋みたいなの学校だったんですね」
寺子屋っぽい奴。
「そんな訳で――」
「先生、飛ばされたんですか?」
「カノンさぁん? 久しぶりにあなたとゆ~っくりお話するのも悪くはありませんねぇ」
「お菓子が出るタイプのでお願いします」
「"げんこつ"飴ってご存知ぃ?」
【人による】
席について詳しい話へ。
「そんな訳でぇ、皆さんに協力して欲しいなぁと」
「ですが、私たちは教員証がありませんよ?」
「実はですねぇ、今回新設される校舎は、アドバンス高校の分校でしてぇ、小中併設の付属クラスと、諸事情で本校に入れなかった方のための秋期クラスの二クラスなんですねぇ。付属クラスは別として、秋期クラスは来年の春に本校へ転入することが前提となっています。つまりぃ、半年で一年分の学習が必要になるんですねぇ。そこで可能な限り一人一人に付いてあげたいと言う話なんですぅ」
「――アシスタントみたいな感じですか?」
「はぁい」
「先生と言われたのでてっきり前に立つのかと思いましたよ」
「その方がちょっと聞こえが良いかなぁと」
「それで釣れるのはカノンくらいかと」
【こいつを糧に】
開校当日――。
「どんな子たちだろうね」
「結構楽しみ?」
「まあ、僕たちの後輩だからね」
「私に掛かれば立派な冒険者になれるよ!」
「そうね」
「意外な反応ですわね」
「ここまで分かりやすい反面教師もいないわ」
【アンバランス】
初めに向かった職員室。アテナの他に人影がある。
「おっ、やっときたか」
「メディ、それにクレアさんも」
「トッキーも来てるし」
「そんなに生徒がいるんですか」
「いえ、三人ですよ」
(過多じゃね?)
【バランス】
「言っとくけど、うちらは店もあるからな。武器とかアイテムの特別授業に週一だけさ」
「ストックさんもですか?」
「彼女には付属クラスを担当していただきまぁす」
「それでも多いような」
「私が教壇に立ってぇ、皆さんには一人ずつ付いてもらうのでぇ、ちょうどですよぉ」
「ちょうどっ――ああ。カノンか」
「私本当に悪いお手本なの⁉」
【解答はありますか?】
「今日は入学式ですから、体育館に参りましょう。ストックさん、生徒たちの誘導をお願いします」
了承して職員室を後にするストック。
「私たちは先に向かいましょうか」
「うー、緊張する」
「フューズさんはいつも通りで問題ありませんわ」
「そうだよ。本物の冒険者なんだからありのままを見せたらいいんだよ!」
「カノンさんは問題ですわよ」
【始めが大事】
体育館ステージ裏の面々。
「少ねぇ」
「三人だね」
「秋期クラスしかいないじゃない」
「付属クラスの受け入れは春ですよぉ」
「そっか。あっちは併設ってだけで普通の学校なんだ」
「ところで皆さん、カノンさんを知りませんかぁ?」
「先生、前、前」
秋期クラスの待機席で。
「やぁ後輩諸君、私はカノンだよろしく!」
「あぁ……、かかわりたくない」
【普段、人とね?】
連れ戻して再開。
「皆さん、入学おめでとうございまぁす。私が教員代表のぉアテナでぇす。仲良くしていきましょうねぇ」
元気の良さと、やる気のなさ、恥ずかしさが返事に乗る。
「では、先生方の紹介を始めましょう。どうぞぉ」
「付属クラス担当のストックです。クラスは違いますが、気軽に相談してくださいね」
「んで、うちがメディ先生ね。担当はアイテム系。普段は店にいるから寄って来いよー。それからこっちが」
「その、えっと。待ってね」
「ここでそれ発揮するのかい」
【いつもと、場所がね?】
「武器の授業、担当、クレア、です。その、真面目に勉強、して、欲しい。危ないものだから」
「おう、そろそろ姉貴が危ねぇから下がろうぜ」
「じゃあ先生のアシスタントの皆さんにもやってもらいましょうか。そうね、スナッファーさん、お願い」
中央へ歩く姿に気品があふれる。一呼吸おいて――。
「スス、ス、スナッファーですわ! あ、えっと。よろ、よ、よろしくお願いしましましてよ!」
「お前もかい!」
慣れないていない場所ではめっぽう弱い。
【志】
手番交代。
「こほん。僕はウィール。分からないことは遠慮なく聞いてくれて構わないよ」
「男の子?」
「女だよぉ――まぁ、僕って言っちゃってるしね」
「じゃあ次は私が。フューズです。皆さんとは……」
自己紹介の中、内緒話が耳に届く。
「あの人、人間だよね。お前と一緒じゃん」
フューズは気にしていなかったが、恥ずかしそうに返事をしていた少女が自分と同じ、人間だと気付いた。
(あの子も、きっと……)
「私はできる限りサポートしていきます。冒険者を、目指しましょう」
「――はい!」
【流石だね!】
「じゃあ最後にカノンさんお願いねぇ」
「待たせたね後輩君! 私がこの町の――」
「バカだ」
「バカだな」
「バカなの?」
「え、ちょっとみんな」
「カノンはバカだ」
「バカだな、カノン」
「……、バカノン?」
「私は、どこで間違えた」
「最初よ」
【鏡】
「皆さん気を付けて帰ってくださいねぇ」
「先生さよなら」
「じゃあなぁバカノン」
「せめて呼び捨てだけにしてぇ!」
男子組は早々に帰って行った。
「あなたはまだ帰らないの?」
「私、なれますか?」
「――なれるよ。私だってなれた。今日から半年、全力でサポートする」
「――――よろしく、お願いします!」
「うん」
あのころの自分を思い出したフューズだった。




