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ダンジョンランカー  作者: 魔桜
神様の箱庭編 4
19/28

19話 かつての友を失った者はお仕置きされる

 レイユが消えてからしばらく経たない内に、ルナは無事目覚めた。

 ずっとレイユに操られていたリオーレは、やはり覚醒にはまだ時間がかかるようだったので、寝ているリオーレを背負ってビルゴダンジョンを脱出することになった。

 昨日のルナといい、女の子を背負ってばかりだ。

 ルナが何故か怒ったように、

「私が代わりに背負う」

――と言い放ったが、まだフラフラだった。

 歩くことはできるようだが、どう見てもリオーレを背負えるほど元気になったわけではなそうだった。

 無理をするなと注意して、結局は、リオーレの足をラックスが抱えることになった。

 道すがら、ルナには事情を話した。

 ルナの全身がコーゼル金貨になっていてことから、あの日記のことまで。

 とにかく時間だけはあったから、あの城で自分が知っていることは全部話した。

 それにしても、消えてしまった城からここまで結構歩いているのに、モンスターの影を見たのは皆無だった。

 やはりそれは、レイユのおかげだろう。

 実体のない幽霊だから自分の身を隠せる。

 存在感を失くす力は、ヨトゥンと似ているが、城ひとつ隠すほどの力は持っていなかった。

 それだけ、レイユの魔力が――想いの力が強かったのだろう。

「うぅ。気分が悪い……」

「まあ、全身がコーゼル金貨になってたんだ。無理をするな、と言いたいところだが、さっさと帰らないとイティも心配しているだろうし、リオーレの身体も心配だ。さっさと学園に戻って一応身体の中まで健康かどうか診てもらわないとな」

 傷は治せるが、状態異常になった人間の細部までは把握できない。

 あのレイユがアフターケアを怠るとは思えないが、一応だ。

 適切な治療は、なるべく迅速に行った方が治りやすい。

 それに、この現象がいつまで続くかも分からない。

 モンスターが現れず、そして吹雪も入ってこないこの綺麗な道がいつ消えてもおかしくないのだ。

 ここは、ルナに無理をしてもらってでも、早く帰らなければならない。

「せめて、メモリーキューブを持っていれば……」

「俺だって持っていれば使っているが、あれ、高いんだよなあ。リオーレぐらい家が金持ちだったら、ダンジョンに入る時は、帰る時用に一個は常備しておくぐらいはできるかもしれないけどなあ。俺も変えないことはないけど、高価なうえに市場にはあまり出回らない代物だからな」

「私だって、持とうと思えば……でも、やっぱりあんな人の力なんてなるべく……。というか、それより、リオーレさんはまだ起きないの?」

「ああ。そろそろ起きてもいい頃だけど、全然起きる素振りがないな。お前も病み上がりみたいなもんだが、俺だって戦闘の後に人一人背負って歩いているんだから、あんまり文句いうなよ」

「べ、別にそんなつもりで言ったわけじゃ……。ただちょっと密着しすぎというか……」

 こちらには聴こえないぐらいの小声で、まだブツブツ言ってやがる。

 何がそんなに気に喰わないのか。

「……ねえ、そういえば――どうして、リオーレさんをそこまでして助けたの?」

「……またか。お前、結構頑固なところあるな……」

「なんとなく、納得できないだけよ。これで訊くの最後だから……」

 最後か。

 そう言われてしまうと、言ってしまいたくなるのはどうしてだろうか。

 押して、押して、ちょっと引く。

 商品の値引きとかで使われる手法だ。

(いい商人になれるかもな。――なんて、冗談はさておき)

 なんとなく、今のルナになら言っていいような気がした。

 ルナとは、何度も一緒に死地を乗り越えてきた。

 だったら、たまには口が軽くなってもいいような気がする。

「……強いて言うなら――リオーレは俺の友達だったんだ」

「友達……だった……?」

「ああ。俺はイティの義理の弟ってだけで、コレクティ学園に入学した時は同じ新入生からは注目の的でな。良くも悪くも避けられてた。イティだってそりゃ、注目されていたさ。だけど、あいつは周りの目なんか気にしないタイプだからな。悪く言われてもあまり気にしなかったみたいだけど、俺はそんな強くなかった」

 その辺を歩いているだけでも、学園内では注目されることが多かった。

 だから、用事がない時は部屋に閉じこもっている時間も長い。

 そうしていると、発散できないストレスが溜まっていって、どんどん気分も沈んでいった。

「周りの連中は俺の粗を見つけようと躍起になっていたよ。雲の上の存在であるイティに言っても無駄だから、俺になら言えるって感じで。手軽に悪口を言えたんだろうな。直接はそこまで言われなかったけど、影では散々言われた。イティの弟の癖に、なんでモンスターを倒せないのかって。イティの指導力はそんなものかってな。確かに俺自身が悪く言われるのは辛かった。だけど、それぐらいだったら耐えられた。――だけど、俺のせいで、イティまで悪く言われるのは耐えきれなかった……」

 弁明のチャンスなんてなかった。

 陰口を言っている奴らに話しかけても、ちゃんとした返答をしてくれる奴はいなかった。だいたいは、そそくさと逃げていく奴らばっかりだった。

「だけど、リオーレは違った。あいつは孤立していた俺に一番に話しかけてきてくれて、友達になってくれた。気も合うし、一緒にいるのは悪くなかったよ。……そう、思っていた。だけど、あいつには別の友達ができた」

「トロワと、カトルのこと?」

「そうだ。その時俺は、まだジェミニアとは仲良くなくて、一緒に話せる相手ってのがリオーレしかいなかった。イティは教師だから学園ではあまり立場上仲良くなるってのいうのもできなくてな……」

「え? あれで仲良くしてなかったの? じゃあいったい二人きりの時はどれだけイチャイチャしてるの?」

「茶化すなよ。そういう意味じゃなくてだなー」

 ふー、と息を吐いて、頭上を仰ぐ。

(――なんて説明してやればいいだろう――)

 少し考えてから、

「トロワたちの影響で、リオーレは俺とあまりつるまなくなった。俺なんかと一緒にいちゃだめだって、あいつらに吹き込まれていたよ。今思えば、二人はリオーレから俺を遠ざけたかったんだろうな」

「……どうして?」

「多分、自分たちの思うがままにリオーレを操りたかったから、それを邪魔しそうな奴はなるべく排除したかったんじゃなかったんじゃないか? その時はリオーレに避けられ始めたのがショックで、気がつけなかったけどな……」

 どうにかしてリオーレの目を覚まさせてやりたかった。

 だけど、あまり強くはいえなかった。

 リオーレが異性だったのもあったのか。

(それに、元々俺は他人とは線を引くタイプだしな……)

 リオーレのためを思うなら、あまり強制してはいけない。彼女自身が、彼女の交友関係を決めるべきで、こっちが口出ししてはいけない。

 そう言い聞かせていた。

 だけど、本当は踏み込むのが怖かったのかもしれない。

 あいつらがいざという時になって、リオーレを見捨てて逃げるような連中であることは分かりきっていた。

 そしてその後になって、リオーレは別にそのことを恨むような奴じゃない。

 とんでもないお人よしだ。

 でも、だからこそ、そんな彼女のことを助けるべきだった。

 助けるべきリオーレにどれだけ罵られることになったとしても、ほんとうはあいつらを引き離すべきだった。

 そしたら、こんなことにはならなかったはずだ。

 だが、まあ。

 今となっては、もう手遅れだが。

「意外……」

「は? 何が?」

「なんか、ラックスって結構冷静というかシビアなところあるじゃない? 金が大切だっていうところとか、戦闘でも常に最善策をすぐに思いつくところとかあって。なんだか、ちょっとほっとした。年相応の葛藤とかするんだなって……」

「――なんだ、それ? 自分でいうのもなんだか、ただ単純にひねくれているだけだよ、俺は。穿った見方ばかりして、斜に構えていて。冷静というよりは、ただ冷めているだけだって」

 大人びているというよりは、背伸びをしているだけだ。

 少しでも、イティに近づきたいから。

 そんな風だから、イティにより子ども扱いされるっていうのに。

 でも、焦燥は簡単に消えたりなどしない。

 いつだって余裕はない。

 早く成長して、一人前だと彼女に認定されたいのだ。

「リオーレにはトロワたちから縁を切ることなんてできなかった。それは、あいつにとて友達を裏切ることになるからな。そうして、どんどんトロワたちの言うことを聞いていったリオーレと、俺が友達じゃなくなったって時があった。そんな決定的な瞬間は、とんでもなく単純だけど、道端ですれ違っても挨拶をしなくなったことかな?」

 目線を下に逸らして、ラックスはそそくさと立ち去った。

 それをやる度に、なんだか後ろめたかった。

 妙な罪悪感が胸の内に湧いた。

「……なんか、前から思ってたんだけど、あなた妙に、リオーレのこと庇い立てするわね。あなたこそ、裏切られているようなものでしょ? なんでもっと怒らないの? リオーレに対して。そもそも、あの人がもっとあなたと話しさえすれば良かっただけでしょ?」

「いいや。あいつは、悪くないよ。一番悪いのは俺だ。最初はあいつだって話しかけてくれようとしたんだ。だけど、その度にトロワたちに止められてた。俺みたいなはぐれ者と話すのはよくないみたいなことをリオーレに忠告してた。それで、どっちの味方につけばいいかわからず右往左往しているリオーレがいて、それを見て思ったんだ。どうやったらリオーレが一番傷つかないで済むのかなってな。そして、俺は、ついにリオーレのことを無視し始めた」

「…………」

「どれだけ挨拶されても無視して。それでも根気よく話かけてきたあいつのことを、俺は受け入れなかった。それが、あいつのためにもなるってな。ほんとうは、あいつのためじゃなくて、あいつを助ける勇気がない自分のためだった癖に、そんな言い訳を勝手に作っていた」

 ほんとうは、もっとリオーレ話していたかった。

 だけど、何を話せばいいのか分からなかった。

 今だってそうだ。

 リオーレを救ったつもりだ。

 だけど、彼女はどう思うだろうか。

 今更歩み寄っても、迷惑なだけではないだろうか。

 何度もこちらから拒絶してしまったのだ。

 こんな奴に救われるぐらいだった、死んだ方がましだったと言わないだろうか。

「――だったら、また友達になればいいじゃない」

「ん?」

「自分のダメなところ、そこまで分かってるなら、きっと改善できるわよ。ここまで命を張って、リオーレのことを助けたんだもの。リオーレだって、あなたの気持ち分かってくれるわよ。ラックスがどれだけ自分のことを考えていたかって」

「……そうかな、いや、そうかもな。こいつが起きたら、また友達になってくれないかって訊いてみるよ。直接訊くには、こっぱずかしいけどさ。――それでも、言葉じゃ伝わらないことがあるように、言葉じゃないと伝わらないことがあると思うから……」

 確かに、そうかもしれない。

 避けて、無視して、拒絶して。

 そんなことをやってしまったけれど、だけど、リオーレは底抜けにいい奴だ。

 剥き出しの胸中を伝えたら、もしかしたら許してくるかもしれない。

 許してくれなくても、しょうがないわね、って笑ってくれるかもしれない。

 きっと、すぐにはあの頃のように気軽に話しかけられない。

 でも、それでいい。

 二度と元通りにならないかもしれないけれど、また新しい関係になれるはずだ。最初はきこちないぐらいでいいんだ。少しずつ歩み寄って、できる限り謝って、そして、また、友達になれたらいい。

リオーレが起きたら、そしたらきっと――

「……レイユさんも」

「え?」

「レイユさんもさ、良かったわね。リオーレとラックスが和解できることもめでたいけど……。レイユさんも旦那さんと百年越しにあの世で和解できたんでしょ。……なんか、そういうのって凄いロマンチックよね……」

「あ、あー、そうか?」

 しまった。

 まさか、レイユのことを蒸し返されるとは思わなかったので、どうやって演技して誤魔化そうかノープランだ。どうやって別の話題に変えてやろうか。

「そうよ。だって幽霊になっても好きでいつづけた人と、死んでから結ばれるなんて。とっても悲しいけど、なんだかいい話じゃない。そう思うでしょ?」

「うん、まあ、いい話? な、なのかもな……」

 意外に純粋なルナの夢を壊すのは憚れる。

 どうしたものか。

「なに? さっきから奥歯に物が挟まったような物言いは……。旦那さんが残してくれた日記に遺言めいた愛の告白文! それがあぶりだしで、今、ようやく、現れた! そしてレイユさんはそれを読んで、ついに旦那さんの本心に気がつけたっ! それって凄いことじゃないっ!! その時私は何も見聞きできない状態だったけど、あんたはその瞬間に立ち会えたんでしょ? だった、私なんかよりも興奮するはずでしょっ!? それなのに、どうしたの、さっきから? なんだか私に隠していることあるんじゃないの?」

「いいや、隠しているというか。その、あの、日記に書かれていた旦那さんと本音。あのあぶりだしの文章っていうのがさ、実は――」

 いやー、ほんと胸が痛むなー。

 だってあれは――


「ぜっ――んぶ、大嘘。俺が日記の内容を捏造したんだよ」


 最初から最後まで全部創作だった。

「は、はあああああああああああっ!?」

 こっちが耳鳴りしそうなぐらいの大声。

 ベロンッと、いたずらに成功したクソガキみたいに出していた舌を引っ込める。

「えっ、ちょ、どういういこと? ね、捏造って?」

「ああ、あぶりだしとか、そんなのはなかったよ。あの文章自体俺が考えた創作。旦那さんの隠された心情なんて、あの日記には一文字たりとも書かれていなかったよ」

「で、でも、どうやって?」

「ページを引き裂いて、そして俺の『鍛冶合成屋(ブレイクリメイク)』で直したんだよ。もちろん、元の形に戻すんじゃなくて、文字を入れ替えて文章になるようにな。レイユに見せたのは、ほんの数ページ。もしも確認のためにあの日記を奪い取られて見られたら、終わってたなー。いやー、間一髪だったな。まあ、結果的には丸くおさまったからよかったな。一番大変だったのは、旦那さんの文章を考えることだったよ。旦那さん本人が書いたものだと思い込まさせるために、結構何度も推敲したんだよなあ」

「ま、ま、ま」

「……ま?」

 ブルブルとこちらを差した指を震わせている。

 顔は伏せているせいで、どんな表情をしているか分からない。

 声も次第に小さくなっているし、このままでは聴こえない。

 なんだなんだと顔を近づけると、

「丸く収まってないじゃないっ!! 全然っ!! どういうことっ!? ちょっと、なんでそんなことしたのよ!?」

 物凄い勢いで喋りだした。

 近寄ったせいで痛む耳を押さえながら、至極真っ当なことを意見する。

「じ、自分の命を助けるためにだよ、もちろんな」

「なっ……」

「騙して何が悪い。俺達は殺されかけたんだ。どんなことをされても、あいつに文句を言われる筋合いはない。こっちが騙さなきゃ、俺たちは殺されていたんだよ。それに、あいつだって騙されて幸せだったんじゃないのか?」

 どれだけそれらしい理屈を並べても、レイユがやらかしたのは殺人未遂。

 理由があっても殺人をしていいはずがない。ある意味、理由なき殺人よりもタチが悪い。

 そして、真実をそのまま述べていれば、レイユはあのままこの世をさまよい続けていたはずだ。そして、被害者をさらに出していたはず。

 あの『特異魔法』はどんな強者でさえ拘束し無力化する力を持っていた。

 被害は一人や、二人で済むはずがない。

「そ、それはそうだけど、でも、やっぱり私は納得できない。ううん、納得したくない。ねぇ――レイユは結局救われなかったの……?」

「…………それは、どうかな。確かに俺は最後の文章を捏造した。でもな、あのレイユが。あの狂気にも似た愛を持っていたレイユが、この俺の薄っぺらい嘘に騙されると思うか? 俺はそうは思わないね」

「あ、あんたが嘘って言ったじゃない」

「ああ、言ったな。だけど、日記を読み進めている内にやっぱり、あの城の城主は、レイユのことを愛していたんじゃないかって思ったんだよ。俺のついた嘘は、本当は真実だったんじゃないかって。本当は、城主も本心を隠していたんだよ。そんな優しさを持つことを、レイユは知っていた。だから、騙されたんだよ」

「そんなの、分からないじゃない。騙されたかったから騙されたのかもしれないじゃない。ラックスの捏造したあぶりだしの文章が正しいか、正しくなかったのか。そんなものも判断できないぐらい、死にながら生きることに疲弊してたかもしれないじゃないっ!!」

「……そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないだろ。どうせだったら俺は、ロマンチックな展開の方を信じるよ。俺は俺の考えを信じるよ。城主は、レイユの旦那さんはあいつのことを本当は愛していたってな」

「………………」

 百年も前のことなのだ。

 真相はとっくにやぶの中で、どれだけ考えても答えなどでない。

 だけど、どれだけ時間が経っても色褪せない恋だってあると思うのだ。

 お金よりも価値のある恋が――きっと――。

「あっ、あれっ!!」

 ルナが叫んで何事かと思って、視線の先を辿ってみると――イティがいた。そして、その後ろには他にも人影があって、恐らくは探索チーム。強い『特異魔法』を持った教師陣だろう。

 なにせ、被害者はリオーレ一人どころか、ラックスに、ルナと増えている。しかも一日経っても帰ってこなかったのだ。

 きっとこの階層を随分と探してくれたに違いない。

 随分と遠くにいるが、どんどん近づいてくる。

 イティがこっちに向けて一心不乱に走ってくる。

「ラックスゥウウウウウウウ!! このばかがああああああああああああああ!!」

 イティは怒りながらも、嬉しさを隠しきれない笑みがまじっているようだ。

 イティの瞳にはじんわり涙が染みだしてきているのを見て、こちらもつられて泣きそうになる。

 やっぱり、心配してくれていたようだ。

 怒りと嬉しさがこみ上げるような声を上げてくれるぐらいには。

「イティだ。助けに来てくれたんだ――おっと」

「ちょっと、大丈夫?」

「大丈夫。安心したら気が抜けただけだ」

 足元にあった石に気がつかず、こけてしまいそうだった。

 リオーレを背負っているのだ。

 いくら雪のクッションがあるとはいえ、転倒するわけにはいかない。

「帰ったら、絶対説教だろうな……」

 イティのことだ。

 正座をさせながら、永遠に小声を言うに違いない。

 あれだけ危険行為はするなと口を酸っぱくして言っていたのに、勝手なことをしたのだ。自分が想像する以上の罰も用意されているかもしれない。

「大丈夫。私も一緒に怒られるから。そしたら、怒られる量だって半分になるでしょ?」

「……ああ、そうだな」

 ルナがいるなら、きっとイティもそこまできついお仕置きはできないだろう。

 それに、隣にルナがいるなら、ある程度のことならば耐えられそうだ。

――そう思っていたが。

 大粒の涙を流しながら、助走をつけて突っ込んできたイティの頭突きをまともに腹に喰らってしまった。

 それがきっと、一番最初のお仕置き。

 リオーレを背負ったままで、しかも疲労のピーク。当たり前のように避けられずに、

「ぐふっ」

 白眼を剥いて、膝をつく。

 なんとか、背負っていたリオーレを横に優しく放ると、イティに抱きしめられたまま気絶する。

 意識がある時に聴こえたのは、ルナが最大限に困惑した絶叫だった。

「ラッ、ラックスゥウウウウ――――――――!?」


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