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ダンジョンランカー  作者: 魔桜
神様の箱庭編 4
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16話 かごの中の鳥は片翼の居場所を知らない

 風呂に入ったばかりだというのに、恐怖で汗だらけだ。

 ポタポタと汗を地下室の階段に落としながらも、上がっていく。

 壁の仕掛けを外し、一階に戻ると、廊下に出るためにドアを開ける。

 ドアの隙間から確認するが、誰もいないようだ。

 パチリ、と目蓋を瞑る。

 リオーレの『特異魔法』を借りて、廊下の奥まで視認するが、レイユの影は見当たらない。

 ほっとして、なるべく遠くまで確認してみるが、外に出るための扉がない。

 目蓋を開けて、歩きながら探してみるが、窓しかない。

「ちっ。もう、扉を探す時間なんてない。だったら――」

 仕方ないので、壁に手を触れて『特異魔法』でぶっ壊す。

 どこまでも広がる雪の絨毯に足を踏み入れる。外からの方がルナのことを探しやすいはず。それから二人一緒に、リオーレのことを探そう。――そう、思っていたのに――


 外に出たはずなのに、いつの間にか屋敷の中に逆戻りしていた。


「――――なっ!?」

 絶対に、踏み込んだはずなのだ。

 外の世界へと足を伸ばしたはずなのに、まるで自分が外から屋敷の中へ入ったかのような動き。

 そう、まるで逆の動きをしていた。

 誰かに『特異魔法』でも使われたのか?

 傍に誰もいないことは、リオーレの『特異魔法』で確認済みだ。

「どう、して?」

 もう一度外に出ようとすると、やはり、屋敷の中に逆戻りしている。

 自分の意志ではなく、意識はハッキリとしている。

 催眠や幻覚の類ではない。

 手を軽くつねるが、痛みはある。

 どうしたものかと立ち尽くしていると、

「待てよ。……どうして、壁を壊したのに、寒くないんだ?」

 ようやく、初めに気がつくべき不審なことを発見した。

 吹雪の音は聴こえるし、実際にかなり激しく吹き荒れている。

 それなのに、雪が一片たりとも室内に入ってこない。

 前髪一本をかきあげる風も入ってきていない。

 まるで、この城だけが、ビルゴダンジョンから隔絶されているようだ。

「まさか――」

 身体全体で出ようとするから分かりづらいのだ。

 外に向かって恐る恐る腕を伸ばしてみると、

「なんだ、これ……」

 腕が、どこにもない。

 消えてしまっている。

 出し入れしてみるとよく分かるが、壁の外に出した瞬間腕が消失してしまう。空間ごと切り取られているこれは、まるでルナの『特異魔法』のようだ。

 だが、ここまで安定して空間を維持するなど、ルナでもできない。

 どんな『特異魔法』を持っているかはまだ不透明。

 だが、仕掛け人は分かっている。

 問題なのは、どうやらこの城からはちょっとやそっとのことでは逃げられないということだ。

「クソッ!! とにかく、ルナを探し出して――」

 踵を返してこれからという時に――ガクンッと膝が笑う。

 こけたわけじゃない。

 この症状は、つい最近受けた『特異魔法』と類似している。

 まるで自分の身体ではないように自由が聴かない。

「なん、だ、これ……? まさか――毒?」

 いや、これは多分、毒じゃない。

 少なくとも、発汗して全身が蝕まれるような痛みに苛まれていないということは、ムシカの毒ではない。

 押し寄せてくるのは痛みではなく――眠気。

 強烈な眠気に支配され、視界がブレる。

 徐々に眠くなるなら分かるが、こんな唐突に眠気に襲われるということは、誰かから一服盛られたのか?

(だけど、レイユから出された食事に、俺は一口も手を付けていないのに……)

 それなのに、どうしてこんな症状が。

 寝ている間に血管に注入されたのか?

(いや、そんなことをしている最中に俺が起きて、それを見てしまったら言い訳の仕様がない。それに、俺がそのことに気がつけば、眠気を取っ払うために何かしらの対策を取られてしまう。そんな危険を冒すとは考えづらい……)

 だが、そういえば、そうだ。

 この城に来てから、たった一口だけレイユから出されたものを口にしてしまった。

「そうか。あの赤いお茶を飲んだから……」

 ルナも既に眠気に襲われているのは間違いない。

 あれだけ豪快に飯を食べていたのだ。

 盛られた眠り薬を大量に摂取している分、もしかしたら既に倒れているかもしれない。

 ルナが危ない。

 すぐにルナを助けに行かなければ――。

「ぐぅっ!!」

 眠気を吹き飛ばすために『鍛冶合成屋(ブレイクリメイク)』によって、両手の爪を全て弾くように剥がす。

 少しはましになった。

 治してしまうとまた眠くなってしまうので、血を流したまま進んでいく。

 だが、今にも倒れてしまいそうだ。

 もしも廊下で倒れているところをレイユに発見されてしまったら、眠っている間に何をされるかわかったものではない。

 どうして、毒薬ではなく、眠り薬なのかは分からないが、殺されないと高をくくるのは危険すぎる。

 実際に殺されそうになったし、殺されないにしても敵意を持っていることは明らかなのだ。

 だったら、どこかに隠れるか、籠城しかない。

「レイユに見つかっても、ここに入ってこられないようにしないと……」

 どこか適当な部屋を見つけて、ドアを閉める。

 鍵なんて都合のいいものは落ちていない。

鍛冶合成屋(ブレイクリメイク)』で周りの壁を壊して、ドアの前に新しい壁を急造する。これで、そう簡単にこの部屋に侵入できないはずだ。一応窓にも、壁を取り付ける。

 本当だったら、この部屋以外にも壁を造って、すぐには逃げ込んだ先を知らないように攪乱しようと思ったのだが、もう、無理だ。

 意識が遠のいていく。

 そうして、視界がシャットダウンする前に、部屋の中に立っている柱を見て気がつく。

 やはり、ここの柱も、木造の柱の外側に、煉瓦と石材の柱がとってつけたように造られている。

 だが、覚醒した時に見た柱と違う点が一つある。

「これ、は……」

 なにやら紙の束のようなものが間に挟まっている。

 壊れかけの柱をさらに破壊すると、その紙の束がでてくる。

 何かレイユの正体を知る手がかりになるかと思って中身を見ると、そこには日付と、日々の出来事について書かれていた。

「日記……? 一体、誰……の……?」

 見つけ出した日記。

 それが、起きている間かろうじて記憶している、最後の記憶だった。


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