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冷奴

作者: 長井瑞希

「冷奴って、ぞくぞくする言葉だよねー」

「……は?」

 高校からの帰り道。夕日に照らされた道を、幼なじみと一緒に歩いていた。

 そんな時に、突然このようなわけのわからないことを言われても、対応できるはずがない。

「冷奴って、ぞくぞくする」

「聞こえてるわ!」

 俺は知っている。こういう時の彼女は非常に面倒で、そしてなかなか解放してくれないということを。

「……で?」

「ん?」

「どうして冷奴がぞくぞくするかって聞いてんの!」

「あ、うん」

 なんだよその反応。そっちが切り出したんだろうが。

「っていうか、そんなこともわからないなんて……アホなの?」

 え、なに喧嘩売ってんの? 男の俺に、女のお前が?

 いいだろう。昔はいいようにやられてたけど、今は違うってところを見せてやる!

「そういえば……」

「……?」

 なんだ? 力の差を理解して命乞いか?

「ベッドに隠してあった本……」

 ……ん?

「いつでも見れるように本棚に戻しておいたから」

 どうやら命乞いをするのは俺の方だったようだ。

「あの……頼むから俺のお宝を見つけてもそっとしておいてくれませんか……?」

 全国のお母さんはエロ本の類の隠し場所を熟知しているらしいから結局は効果が薄いんだろうけど、ばれてないって可能性もあるわけだから少しは俺のことを考慮してそっとしておいてほしい。大事なことだから二回言いました。

「あ、おばさんもお姉さんも知ってるから」

「え……?」

 そんな……まだばれてないっていう希望が精神安定剤の働きをしていたのに……こんなのってないよ……。

「大丈夫。おじさんは知らないから」

「オヤジィ……」

 のけ者にされてかわいそう……でもないな。むしろ家族全員にばれてなかっただけでもよしとしよう。

「冷奴って、ぞくぞくする言葉だよね」

「結局そこに戻るの!?」

 そういえばこいつはこういうやつだったな。

 通知表にも『マイペースな娘です』って書かれるくらいマイペースで、こっちのことなんか気にも留めない。

 そして大抵の場合俺に被害が及ぶ。どうしてなんだ。

「ひややっこ。別の読み方をすると、れいど」

「まぁ、そう読めるけどな」

 だからと言ってぞくぞくしないと思うが。

「とりあえず、れいどって十回言ってみて?」

「れいどれいどれいどれいどれいどれいどれいどれいどれいどれいど」

「どう? わかった?」

「あー、もしかして……」

 れいど。つまり……

「奴隷って、そういうことか?」

「ピンポーン、だいせいかーい」

「くだらねぇな!」

 小学生で卒業する類の遊びだぞ!?

「奴隷。奴隷。奴隷……」

「えっと……おじょうさん……?」

 なんでだろう。さっきから寒気がするな。夏なのに。

「お前は、ワタシの、ドレイ、ダ」

「片言ー!?」

 お前さっきまで日本語ペラペラだったじゃん! つーか生粋の日本人だろうお前!

「ムチトバツデチョウキョウヲ……」

「それを言うなら飴と鞭だからな!」

 これは逃げではない。戦略的撤退だ!

「さらばだっ」

「ニガサナイ」

「ヒィィー!」

 命をかけた、鬼ごっこの始まりである。

 いつか、立場が逆転することを切に願う。

 ……あるよね? そんな未来、あるよね?

豆腐が晩御飯だったので書いてみた。

それにしても、かつお節とか味のりとか結構おいしいよね。

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