序章1 平穏な日常
ここは巨大なドームに囲まれた都市クルト、俺が生まれて今住んでいる場所
詳細は知らないけれど昔はこの都市に外とを隔てる壁はなかったらしい
壁が造られたのは外の世界でもう生物が生きられないから
「……い…レ……」
原因は様々で酸性雨、氷河期、砂漠化、空気がなくなった、とか嘘か本当かわからない
明確な情報が残されず不思議に思うが住民は俺も含めてさほど気にしていない
ああでも、それは少し間違いだ
確かに俺たちは壁の起源はどうでも良いが外の世界には好奇心でいっぱいだ
どんなところなのかと胸を躍らせ
生物の住めない環境というのを忘れて 草原や海、ここと似ながらここよりも開放的な都市の数々 数多な動植物 少ない情報をもとに想像する
「…お…?……イ…」
空を覆うガラス片を集めたような壁は脆く頼りなさげに見えるのに決して俺たちに外の世界を見せることのない強固な隔たりだ
外と変わりのないように太陽と月を模したホログラムが設定された通りに動きこの都市の感覚的な時間を決める
公園に行けば草花や木も植えられ稀にだが雨だって降る
けどどれも上を見上げれば偽物に見えてしまう、少なくとも植物も都市の外れにある牧場などの動物も俺たち、人も生きていて本物の筈なのに
それすら…
こう思うのはただ単にここが平穏過ぎて身近にありながら届かないモノを欲してしまう無い物ねだりなのかもしれない
「おい!レイ!」
「へ?」
突然の声で思考が現実に引き戻される
「突然じゃねーし、何ぼーっとしてんだよ」
「あ!ごごめん!」
ジト目で睨んでくる相手に笑いで誤魔化しながら謝るが
「えーと、なんだっけ?」
「………」
返事がない
「その…ちょっと昨日寝不足で?」
「………」
返事がない
「あはは…今日は良い天気だね」
「………」
返事がない
「すみませんでした!!」
潔く謝ることにした誠意を込めての90度直角で!!大声で!勢いよく!
どうでも良いが今一斉に冷ややかな視線が増えた気がする
だがしかし俺が今やるべきことは早急に目の前の相手の怒りを鎮めることだ!出なきゃ明日から俺の飯はパンの耳オンリーになる!
「声が大きい!」
「ぐっ!?」
脳天に拳が降り降りた
昼なのに星が見えるな
「…ぼ暴力反対」
「折角の休み、レイの課題で潰されてんのに本人がやる気ないからだろ」
ほんとすみません
だけどやる気無いわけじゃないから!
見捨てないでください!
「…ま、そろそろ昼だし休憩するか」
「やったー!昼飯ー!……はっ!」
休憩宣言に喜びの声を上げるが途端に空気が一変、気づくも時すでに遅し
「……サク、ストッぐふ!?」
「うるせー!!」
サクの拳がまた頭にぶち当たる…せめて頭は止めてもらえないだろうか
これ以上馬鹿にはなりたくない、それと口が裂けても言えないが絶対サクの方が声大きい…