女神と使徒は狂い始める
無子です。女の子じゃありません。男の子です。
今、パシらされています。購買で「焼きそばパン」二つと「ピザパン」二つを俺の現金で買い、教室に戻る…
「買ってきたよ。こっちが、焼きそばパンで、これがピザパン」
「おうおう、ワリィなぁ〜(ゲラゲラ」
彼の名前は、犬井 勝成
「しっかし、オセーヨ。あらよっと!」
「グハッ!?」
そして今、俺を蹴ったのが、猿概邦仁
「確かにな、けれど態々買いに行ってくれたんだ。御褒美あげねぇとなッ!」
さっきの蹴りで、倒れてる俺にここぞとばかりに蹴りを入れ込む。
「ガッ…ハッ」
どうやら、肺に当たったらしく上手く呼吸が出来ない。
「犬井〜、お前は、優しいなぁ〜。俺も見習って、御褒美ダッ!」
「…っ…。」
もう、呼吸が出来ず声すら上げれなかった。
しかし、こんな状況でも周わり見てるだけ。蔑んだ目で、俺を見る。ゴミを見る様な目で俺を見る。
周りは、俺が傷付いているのを見て笑っている。
そして、俺は改めてクズだと自覚する。
「おい、邪魔だ…どけっ!」
ふと、女の声がする。そして、顔面を蹴られた。邪魔な物を乱暴にどかすかの様に。
「いやー、生徒会長クールだねぇー」
猿概は、俺を蹴った女に向かって言う。
「ふんっ」
生徒会長は、鼻で笑ってスタスタと教室を出ようとする…が『バンッ」と勢いよく教室のドアが閉まった。
そして、空いていた窓も全部勢いよく閉まり窓の鍵も閉まる。
誰も、触れていないのに…
当然、何が起きたのだとパニクる。
そんな中、生徒の1人が…「ドアも窓も開かないぞ!?閉じ込められたっ!」と叫ぶ。すると、周りの奴らも、窓やドアを開けようとするが鍵が開かない。「マジかよ…」「うそでしょ?」と呟く。
そんな、パニクる状態である訳だが…俺は「閉じ込められた」という事より生徒会長に蹴られた左目の方が気になっている。
「あー、潰れたな」
左目からは、出血していて触ってみると凹んでいるのが分かる。うん、まさか左目を17年で失うとは思わなかった。さらには、蹴り一発で目が潰れるものだと知った。バイク用のヘルメットでも買おうかな?
そして、自分の身体を自己診断し始める。
「肋骨は、ヒビが入っていた1本は遂に折れたって感じだな。残り二本は骨折のままですんでる」
我ながら、よく生きているなと感心する。
潰れた左目だが、周りに知られたくない。ハンカチを頭に巻いて左目隠そう。厨二病が疼く。
ポケットからハンカチと取り出し巻こうとした時…。
床が光り出した。しかも、光りはみるみる明るさが増していく。
そして、教室内は床の光によって呑み込まれたのである。
『皆様、私の声が聞こえますか?』
いきなりの声に驚き、声のする方へと身体を向ける。そこには、身長は170はあるだろう。髪はピンクで目は碧色。白いドレスを着ている女性が立っていた。
『聞こえてる様ですね?』
改めて、周りを見渡すと景色が青色で澄んでいる。そして、床(白)である。
平べったい世界?な雰囲気がある。
『初めまして、私は愛と美貌の女神リディーナと申します』
愛と美貌の女神かぁ〜、確かに美人だね。大人の色気がムンムンである。
『まず、皆様には謝罪を申し上げます。もう、皆様を故郷に返す事は出来ません。これから、皆様は剣と魔法の世界に行ってもらい魔王を打倒して貰います』
うん。何となく予想はしてた。
「はぁ?ふざけんなぁ!!」
「そうよ、さっさと私達を返しなさいよ」
「何で、俺らがそんな事しなけれならないんだよ」
「「「「そうだ、そうだ!!」」」」
ああ、やっぱりこういう奴らもいるよな…。
『待って下さい。これから行く世界にはステータスとう物があります。ステータスとは「ゲームて知ってる」あ、はい。』
女神様…がんばれw
『まず、皆様のステータスを平均値の100倍に。それと、願い事を三つ叶えて差し上げます。願い事に関しては、それと予め、言っておきますが「元の世界に戻りたい」や「不老不死」など叶えられない願いも多々御座いますので…其れだけは御容赦を』
「つまり、チート+願い事ってことか…」
「……。(ニヤニヤ」
「よし、俺は魔王を倒すぞ!」
「俺もやるぞ」
「私もやるわ」
1人が2人、2人が4人と増えていき俺以外全員立ち上がった。みんな、勇者に憧れてるのかね?
『まず、1列に並んで下さい』
どうやら1人ずつ対応する様だ。周りにいた奴らは全員、1列に並んで今か今かと待っていた。どうやら、1人目が終わった様だ『シュッン』と何かに吸い込まれかの様に消えた。どうやら、異世界とやらに飛ばされた様だ。
俺は、最後尾に並ぶのもアレだから皆が終わるまで座って待っていることにした。
『あなたの番ですよ!』と声をかけられる。どうやら、いつの間にか皆終わっていたらしい。重い身体に鞭を打って立ち上がり女神の前へとふらつきながらも歩いていく。
『っ……。』
この時、女神は絶句した。目の前の少年の状態を。何度も神眼を使い見返す。だが、何度見ても変わらない。
少年の身体は、痣だらけ…いや、痣の身体という方が正しい。身体全体が青紫になっている。
それだけじゃない、足の骨は幾つものヒビが入っており強い衝撃を加えればバラバラになってしまうだろう。手に関しては、指は全て骨がない。無いのである。おそらく、粉砕骨折で粉々になった骨を吸収したのだろう。腕は両方とも折れていた。顔は傷だらけであり、片目が潰れている。
彼女は、少年に恐怖すら覚えた。普通なら、痛みで立つことすら出来ない筈なのに。それなのに、目の前の少年は歩いているのだ。
彼女は、この時初めて人間に殺意を抱いた。今まで、慈愛に満ち溢れていた女神が…。
彼女は、人を好いていた。「出来ないから」と諦めずに努力し続ける強さ。見知らぬ誰かを「助けよう」とする優しさ。心の底から誰かを「愛し」時には愛の為に命も惜しまない愛の強さ。挙げたらキリない程のモノを女神は知っている。故に人を好いていた。
その彼女が…
神々の中でも最も人を好いていた彼女が…
人間に殺意を抱いた
彼女は、心の中で叫ぶ。「何故、この様な事が出来るのか」と…。
しかし、返答はない。
そして、心の中で叫ぶ「感情を持った生物がやる様な事ではない」と…。
しかし、返答はない。
そして、心の中で叫ぶ「何故、同じ種族をここまで…」と…。
しかし、返答はない。
そして、幾度となく返答のない叫びを繰り返す内に心の中で沸々と煮え滾り其れが、だんだんとマグマ様に心から溢れてくる。
そう、憤怒だ
殺意と憤怒が、彼女の理性を溶かしていく。彼女自身さえ驚いている。あれだけ好いていた人間に殺意を向けているのだから。
「女神さま?お願いごと聞いて欲しいんだけどなぁ〜」
「ハッ」、と我に返る。今までの自分を振り返り畏怖をした。なんて、恐ろしい事を…と。
「女神さま?」
『あ、御免なさい。少し考え事をしてしまって』
「いやいや、問題ないよ。女神様に都合はあると思うしね(ニコ」
少年は、にっこりと笑う。
しかし、彼女知っている。笑顔を作るだけでも、相当の痛みが少年を襲っているのを…。
それなのに、それなのに、それなのに、少年は悲痛を表に出さずに…。それどころか自分を気遣っているのだ。もっと、気遣うべき人が居るのに。
何故、目の前の少年は傷付かなければならなかったのか?
ふと、疑問を抱く。しかし、返答はない。
何故、優しい少年を傷付けるのか?
ふと、疑問を抱く。しかし、返答はない。
何故?
疑問を抱く。しかし、返答はない。
何故?何故?
疑問を抱く。やはり、返答はない。
何故?何故?何故?
疑問を抱く。当然、返答はない。
「女神様にお願いその1」
「何かしら?」
彼女は、少年と会話している間も永遠と疑問を抱き続けている。「何故?」と…。
「質問に答えて欲しいんだ」
「質問なら、別にお願いじゃなくても良いのに…」
「答え辛い質問かも、知れないでしょ?」
つまり、彼が言いたいのは答え辛い質問でも「お願い」に入っていれば答えてくれる確率が高くなるだろうと。
「流石に、答えられない質問も有るけれど…其れでも良いなら大丈夫よ」
少年に微笑みながら告げる。
「分かった。其れでは、質問。魔王を倒すのにクラス全員必要?」
「うぅん、そうですねぇ〜。半数入れば問題ないと思いますよ」
「そう。なら二つ目のお願い」
「えっ、質問はもういいのですか?」
まさか、一つの質問の為に願い事を使うなんて…。
しかし、この時はまだ彼女は知らない。一つ目の願い事には、どんな意味が込められているのかを…
「うん。十分だよ」
「そうですか…」
「じゃ、二つ目ね。女神様」
「何でしょう?」
「抱かせ『ドスッ』」
女神の拳が少年の腹にめり込んだ。
結果…少年の身体の何かが砕けた音や何かが刺さる音が響き渡り。我に返った女神が大慌て少年の身体を治寮し始めたのは言うまでもない。
身体の治療中、
少年はずっと魘されていた。そして…少年は、涙を流しながら呟いた。
「死にたい」
少年が、言った一言。その一言は、女神のナニカを突き刺し、女神の心に異物を植え付けた。
「誰かぁ、俺を殺して…」
「もう、辛いんだ」
「生きたくないんだ」
「頼む」
「誰か…誰かぁ」
治療していた彼女は、目の前の少年をただ見つめる。顔は、苦しそうに、何かに耐えるように無意識に歯を食い縛っている。震えながら、死を仄めかす。涙を流して…
彼女は、誤解していた。
少年には、もう生きる渇望が無いという事を。
少年は、身体の痛みより心の痛みが遥かに上回っている事を。
少年は、心が砕け散って灰になっていた事を。
今なら分かる。少年の人生がどれだけ残酷で。無慈悲で。。。…。
「ううっ…」
むくりと少年が起き上がる。どうやら、目が覚めたらしい。
『お目覚めですか?』
起きた少年に気付いた女神は、少年に声を掛ける。
「…(こくり」
少年は、頷く。そして、手の指を触り始めて何かに気付く。胸や足を軽く押し始める。そうして、数分。身体中を触り終えた少年はポツリと呟く。
「意味無いのに…」
しかし、この時女神は少年の言葉を誤認した。「また、同じ状態になるだけ」とそう解釈した。
『少し頭を撫でさせて貰って宜しいでしょうか?』
「?別に良いけど…」
少年は、頭に?を付けている。
『では、御言葉に甘えて』
少年の頭に手置く。
『記憶解析』
そう、知らなければならない少年の記憶を。一体、何があったのか。何故、少年は、変わったのか。どうやって生きてきたかを。どういう感情を持って生きてきたのかを。そして、知る。彼の人生を…
『うっ…うぅっ。オェッ」
吐いた。只々、吐いた。愛と美貌の女神は、嘔吐物で顔を汚しながら絶望した。更に、追い打ちを掛けるかのように心で叫んだ返答が返ってくる。少年の記憶を通じて。
ゴミ、能無しのクズだから。価値がないから。人間として扱っていないから。無駄な命だから。…だから。……だから。……だから。………だから。
今まで、返って来なかった返答が次々返ってくる。。。
返って来た返答は、丸で矢の様に女神の心に刺さっていく。
『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
女神は、遂に耐えられなくなり。発狂し始める。
すると…
「り、リディーナ様、お気を確かに!?」
何処から、ともなく現れた少女。背中に、翼のある。所謂、天使であろう。160ぐらいの身長で髪、肌、翼、服、全てが純白の白だった。但し、目だけは真紅であるが。
「貴方、リディーナ様に何をしたのですか!!」
「い、いや何もし『嘘ですね』」
最後まで、言い切る前に目の前の天使によって遮られた。
「貴方が、リディーナ様に何をしたかは知りませんが即刻退場して貰います。命有るだけでも感謝して下さい」
「えっ、で、てもまだ最後に願い事を…」
「貴方のような、人間の願いを叶えるとでも?冗談は、貴方の存在だけにして下さいませんか?」
「待っ『さようなら』」
天使は、指を『パチン』ならした。すると、少年のいる床が光だし『ストン』と落ちていった。少年の言葉は、最後まで響くことはなかった。
天使は、仕事が終わったと喜びリディーナの元へ近づく。
「リディーナ様、大丈夫ですか?」
少年とは、打って変わって優しい声でリディーナに語りかけつつ背中をさする。
「あ、あああ」
まだ、落ち着きがない。リディーナが、落ち着くまでには暫く時間を要した。
落ち着きを取り戻したリディーナは、少年がどうしたのかと天使に尋ねた。
「ミエル、あの子は?」
「強制送還させました」
「なっ、!?」
天使の回答に頭が真っ白になる。
「何か問題でもありましたか?」
「当然です!まだ、彼の願いを聞いてませんし【勇者】の称号も与えないのですよ!!」
「大丈夫ですよ。勇者達は、集団で転移させたんですよ?1人称号がなくたって勇者扱いしてくれますよ」
エミルは、ご最もな意見を言ったが…リディーナは、全く逆の考えだった。あの人間達が、そんなご都合通りの事をする筈がない。彼女は、心配で仕方なかった。そう、彼女の頭には彼の事しか入っていないのだ。
「彼は、何一つ力がないのですよ?」
「それも、大丈夫ですよ。それは、世界が補正してくれますよ。何せ、神界から直接飛ばしたので」
そう、神界から飛ばすという事は神からの恩恵を授かっているという事を意味する。コレだけでも、選ばれし者であり上位種扱いだ。だが、神界に居るだけで十分に上位種扱いとなる。
補正とは、本来ならば恩恵を受けた者には関係無い。詰まり、受けれなかった者に意味を成す。
補正、それは[神からの恩恵]が与えられなかった者に[世界から恩恵を与える]というものである。まぁ、簡単に言えば神界に行けた御褒美というわけだ。但し、与えられる恩恵はランダムである。
「ミエル、確か神晶玉が持っていましたね」
「は、はい持っています」
「それを渡しなさい」
優しい笑顔だった。正に、美貌の女神だと確信出来るものがその顔にはあった。
「え、いえ、ですが…」
ミエルは、断ろうする。し、か、し、…
リディーナは、『ガッ』と右手でエミルの首を鷲掴みにし自分の顔の位置まで持ち上げる。そして、徐々に力を込めていく。笑顔のまま。
この時、リディーナとミエルの身長差は10cm以上ありミエルは自分の重さで更に首が強く閉まっていく。
「リディー…ナ……さ…ま。ぉ…やぁ…めぐだ…さ…ぃ」
「ならぁ、さっさと神晶玉を渡しなさい」
笑顔を絶やさず優しい声で語りかける。しかし、ミエルの首を掴んでいる右手はまるで天邪鬼かの様に握る力をが強くなる。
ミエルは、ワンピースにあったポケットから直径30cmはある水晶玉らしきものを取り出した。これが、神晶玉である。
それにしても、ポケットより大きいものをポケットから取り出す光景は何ともシュールである。おそらく、空間を広げる事が出来るのだろう。さすが、神の使いだろう。
「ふふっ、さっさと渡してくれれば温厚で済みましたのに」
そう言って、神晶玉を受け取り握っていた右手を放す。ミエルは、重力に従うように床に落ちた。
「…ゲホッ……ゲボッ」
呼吸が出来るようになりつつ咽せる。
「ふんっ、」
鼻でミエルを嘲笑う。
「……ゲホッ…ゲホッ、ゲホッ…」
ミエルは、息をしては咽せ、息をしては咽せるその繰り返し。
「天使ミエル、先程の少年の奴隷なりなさい。そして、少年に尽くしなさい。少年の身の安全、食事など全てミエルが貴方が負担しなさい。これは、命令です。そして、二度と神界には来てなりません。分かりましたか?」
「…………。」
彼女は、無言で頷いた。いや、頷くことしか出来なかった。今、首を横に振ったら何をするか分からない。ミエルは、初めてなのだ主神が怒りを露わにするのを見たのは…。なので、何をするのか未知数であるリディーナ様《主神》をこれ以上怒らせてはならない考えた。そもそも、怒りを優しさに変え首を締めるなど普通のリディーナ様ではあり得ない。
「ミエル、一時的に彼を任せます。私も、やる事が終わり次第そちらに向かいます。もし、彼に何かあれば…」
女神は、天使の頬にそっと手を添えてから線をなぞる様に顎まで手を運んでいき人差し指で顎を『クィッ』と持ち上げ上げられた。そして、女神と顔が合う。
「っヒッ…!?」
思わず、恐怖で声を上げてしまった。笑顔のだった。しかし、その笑顔からは恐怖しか感じられない。
「ミエル、頼みましたよ?それと、彼の記憶やこれからの情報を頭に流し込みます。耐えて下さいね?壊れないで下さいね」
女神は、ミエルの顎に添えていた手を頭に乗せて『【強制】』と呟く。すると首周りが光だし輪っかが出来る。
「ああああああああああああああ」
ミエルが、叫ぶ。悲痛と苦痛と感情、痛み。そして、途方もない情報量が彼女の頭をオーバーヒートさせる。普通の人間なら頭がパンクして「じえんど」だろう。
「うふふふ、素晴らしいは!なんて、素晴らしいのでしょう!!」
「あ、ああ。ああああ。ああ」
「まあまあ、そんな綺麗顔してどうしたのですかミエル。美しいですよ、悲痛と苦痛、そして彼に向けた罪悪感が混じった顔は素晴らしい程に美しいですよ」
既に、ミエルの頭は情報処理が終わっていた。ならば、何が彼女を狂わせているであろうか?
それは、罪悪感である。
罪のない少年を冤罪にし非力の少年を無理やり魔王と闘わせ様としている私。彼の記憶からは周りの人間達は反吐が出る程のカス達であった。少年がカス達によって虐げられるかも知れない…もしそうなったら、非力で送った自分の責任。使徒である私の責任である。もしかしたら、今もカス共に虐げられてるかもしれない。何の罪もない優しい少年を…。
彼女の頭の中は、罪悪感で溢れていく。人間への殺意や憎悪もまた溢れてくる。そして、様々な感情が、今の彼女を壊していく。それと同時に、壊れた彼女を創り変え(し)ていく。凶々しい何かに…
彼女の頬に雫が落ち始めた。彼女は、何故自分が泣いているのか分からない。 リディーナは、その何だか、分からない雫を舌で丁寧に舐め取っていった。
たが、罪悪感を感じてるのは何もミエルだけでは無い。リディーナもまた罪悪感で溢れ帰っている。「彼を、生かしてしまった事」「生き地獄を与えてしまった事」
彼女は、最初の質問と呟きを…
ずっと気になっていた。
そして、彼女は彼の記憶により。知らなくて良かった真実を。彼が言う筈だった、3つ目の願いを…
『死なせて欲しい』
魔王打倒は、別に自分が居なくても倒せる。
別に身体を治して貰わなくていい直ぐに死ぬのだから。
彼の心が、彼女には聴こえたのだ
『死なせて欲しい』と…。
しかし、彼の記憶が彼の心の声に彼女な届けたのだ。
そして、届いた声によって…
彼女の何かが溶けて崩れた…。
マグマとは全く別の、
冷たい何かによって、
溶かされた。
そして、植え付けられていた
ナニカが芽吹き
花を咲かせた。
今なら分かる、彼をあの時『殺す』べきだったと…。こんな事を考える私は、きっと変わってしまったのだと思う。その様な事を思いつつミエルの雫を舌で舐め取り続けた。
〈 この日、1人の少年によって創り変えられてしまった女神と天使の姿がそこにはあった…〉