秀能の神ゼウス
「この世ももう終わりだ。この世の住人は皆、実用に押しつぶされて終わるだおう。」
世界の天秤は黒く染まっていた。
もう、このままだと人間の欲望が溢れだし、世界が成り立たなくなる。
そう、私の仕事はこれらかだ。
「ですが!!」
「私の仕事はこの世を見届けるまでだ。この世を壊してしまうまでが私の命をつなぎとめ、縛りつける唯一の鎖。私の力もそろそろ限界だ。なら、ここで終わらせるべきだとは思わないか?」
そう、私の命はこの世のためにすべてをささげられる。
この世界があり続ける限り、私の命が消滅することはない。もちろん、この力が尽きることも・・・・。
が、それでも生命という意味ではやがて寿命が来る。
それは霊力でもなく、身体的なものでもない。
「でも、この世はまだ始まって2000年近くしか・・・・!!」
「この世の人間どもはそれほど欲深かったという事じゃないのか?」
精神的なものか・・・・。
それとも、最高神というくらいからの最後のお土産か。
「----------」
***
ゼウス様は行ってしまった。
天秤はもう、本来の色をしていない。
まるで隅が飛び散ったように汚れ、濁っている。
「・・・・・・・・・・・っ」
元はわたくしも、一人の人間でした。
わたくしの世界は5000年の年月で滅びました。
その世界の最高神様はアマテラス様と言いましたか・・・。
アマテラス様はとても冷酷な方だと聞きました。
ジヒル様は、彼の世話役だったと言っていました。
『水だ!水が出たぞぉぉぉおお!!』
一人の男が悲鳴にも似た叫びをあげる。
水なんて何処にも無い。
ゼウス様の能力だ。
「人間どもはあれを水と呼ぶ。傍から見れば面白いものだ」
そう言ったゼウス様の顔は決して楽しみを感じさせないものだった。
「ゼウス様っ!」
「いい、もうこれですべてが終わりだ」
「でも!!」
「もう放っておいてくれないか?」
ゼウス様の顔は、すごく悲しそうだった。
ゼウス様が今、どんな気持ちでこの地球を終わらせているのかはわからない。
『この子に、この子にその水を与えてください!この子だけでいいですから!!』
小さな子供の背中を押す、おそらく母親であろう女性。
それによって欲に目をぎらつかせたものがその少女を見詰める。
『いいだろう、お嬢さんほら、この水をお飲みなさい。ただし、一口だけだよ?』
少女は気づくのか・・・。
この世の中で、次に神の位へ昇格するのはだれか・・・。
「リネ」
「はい」
「お前はもう一度、最高神の世話役を果たせ。その仕事が終わればお前も自由の身だ」
「もう一度この仕事をしろというのですか?!」
『・・・・・・・・・み・・・・・・・・ず・・・・?』
幼い少女の困惑の声が聞こえる。
「そうだ。あの娘の気持ちを大いにわかってやれるのは、きっとお前だけだろう」
「あの・・・・娘・・・?」
ビジョンに移る少女を見つめる。
『まって・・・・・これ・・・』
少女は男が救った得体のしれない液体を拒もうとする。
「あの娘は、私の力ももろともせず、幻覚を見ていない」
それでも、こともは大人の力には勝てない。
少女はそのまま、身体をぐっとこわばらせ・・・―――
「次の、神の位への昇格否、最高神となるのはあの少女・・・・」
「まさか・・・・そんなっ!」
「全知全能の存在、最高神セリア」
ゼウス様は、今までの度の最高死よりも優れた霊力を持っていた。
が・・・その先、秀能の存在ゼウスの子とされる神こそが、
“全知全能の神 セリア様”
「あとは任せたぞ」
ゼウス様は天秤へ手を伸ばす。
「・・・・・っ」
顔をゆがめ、全身がこわばっているのがわたくしにもわかる。
「ゼウス様・・・・私・・・・っ」
淡い光が彼を包む。
「私の娘であり、全知全能の神であるセリアの力ならば・・・・」
最後の言葉は聞き取れなかった。
「好きです・・・・・・っ」
“セリアが全てを変えてくれるだろう”
―――・・・静かに息を引き取った。