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王族直属教育係に任命されました。  作者: 銀朱
エピローグ 魔法使いと教育係
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好きになる

 カイ君が魔法を完璧に扱えるようになるには、その本人が自分自身をより深く知らなくてはならない。

 ロルフさんの助言もあって、私たちは本格的に召喚魔法を完成させるべく動き出した。動き出したといっても、実際に何をすればいいのかはっきりと見えてはいない。結局模索しながらだけれど、普段カイ君が行っている魔法がどんなものなのか、知ることが大事だと思う。

 とはいえまだ城が元通りになったわけでもないので、復興作業を手伝いつつの行動だからそれほど時間が割けないのも現実だ。

 合間の時間にカイ君のもとを訪れては、まず彼が魔法を発動するときのことをより深く聞いてみることにした。


「いつもどんなことを考えながら魔法を使ってるの?」

「どんなことって……そりゃ、魔法で呼び出す対象のことを思い浮かべてるに決まってんだろ」


 聞かなくとも何とはなしに想像がつくことを聞いてしまった私も私だけれど、案の定答えは予想の範疇を越えなかった。

 大体、それは私が教えたことでもあるのだ。対象の実態をよく知ったうえで想像することで、魔法の力によって召喚することができる。一言で説明づく話でもないが、そもそも魔法なんて説明できる現象ではないのだ。

 別に当たり前のことを聞きたかったのではなくて、少し昔のことを聞きたかったのだと思い出す。

 少し昔というのは、私がカイ君の教育係になってから間もないときのこと。彼が幻の怪物を召喚して、この国を壊してしまおうと思っていたときのことだ。結局カイ君も改心したというか、そんな物騒な欲求はなくなったし、怪物の召喚にも成功した。

 だけど問題はもっと前のことで、それまで失敗した挙句に別世界の人間を召喚してしまった、そのときのことを聞きたかったのだ。

 言い方によっては彼を傷つけてしまうかもしれないけれど、そこにヒントがあるような気がした。


「あの怪物を召喚しようとしてたとき、何を考えてた? 何か、別の思いがあったりしなかった?」


 魔法の完成を妨げているとしたら、それくらいしか思いつかない。目の付け所もそこであっているはずだ。

 召喚魔法を完成させるには、召喚の対象を思い描くことが大事だ。逆に言えば、他の雑念は魔法の妨げにもなる。カイ君ほどの腕の持ち主が失敗するなんて、何か他に思うことがあったとしか思えない。

 なるべく優しい口調で尋ねたつもりだったけれど、案の定彼は表情を曇らせた。今まで散々つらいことがあって、それを今まさに乗り切ろうとしている状態だというのに、私はなんて無神経なのだろう。

 それでも彼は、迷うように小さな声を絞り出した。


「よく、覚えてねえけど……母親のこと、考えてたと思う」

「お母さん……?」

「あのときはまだ、フレーメとは戦争を休戦してた時期だし……国を壊せば襲撃される必要もなくなると思ってたけど、やっぱり無理だったんだ。あんまり記憶にねえし、大した思い出もないけど……母親が死んだ事実を、受け入れられなかったっつーか」


 フレーメが再び接近してきたときに、ゲルハルトさんから聞いたこの国の過去を思い出す。

 圧倒的な勢力を誇るフレーメ帝国が休戦協定を持ち掛けてきた、その条件。それは、この国の王族の血を引く者の処刑だった。

 今考えれば、フレーメ側からすればカイ君の母親ではなく第一皇子であるカイ君の死を望んでいたのだろう。後継ぎがいなくなれば、何もしなくても国家滅亡の危険は強まる。

 だけどきっと、彼の母親はそれを拒んだのだ。国王である夫が死ぬわけにもいかない、かといって向こうの狙いである息子を殺したくなどない。必然的に、自らの死を受け入れたのだと思う。

 当時のことはカイ君もまだ幼かったのではっきりと記憶にないようだが、後にフレーメと戦うことになるかもしれない未来を背負うカイ君に、王様は歴史の事実を教えたのだ。憎しみを植え付けたのだろう。亡き王妃の仇を取らせるために。

 結果、王様の思い通りには育たなかったけれど、カイ君は母親の死を今まで引きずってきた。そして戦争ではなく、国を滅亡させて自滅してやろうと考えたわけだ。

 そうさせたのは、すべて母親への気持ちだと気づかずに。

 だから、怪物を召喚するときも母親のことが頭をよぎって、うまく集中できなかったと考えれば納得できる。


「でも今は、フレーメは嫌な奴に変わりないけど憎いほどじゃない。向こうの事情も知ってるし……それに、セアドの奴に国を滅ぼされかけて、自分が今まで考えてたのはこういうことだったんだって、ちょっとわかった」

「じゃあ、今は……」

「今はもう、何かを滅ぼすなんて考えたくない。きっと母親も、それを望んでる」


 今までに見たことのない優しい笑顔に、柄にもなく胸が高鳴った。

 これで一つ、彼の召喚失敗のもとを見つけられたわけだけど、これでもとの世界に戻れるようになったかどうか決まったのではない。

 といっても、今ここで試してとお願いするのも気が引ける。ここで試して本当に戻ってしまったら、別れの挨拶を言う暇もない。

 伝えたいことは、まだたくさん残っているのだ。そう思うと自然と喉から言葉がこぼれた。


「あのね、カイ君。私、カイ君のことが好きだよ」

「……はあ!?」

「本当はずっと前からそう思ってたと思う。気づくのが遅くなっちゃったけど、もとの世界に戻る前にちゃんと伝えておきたくて」

「な、なな、何言ってんだよ! 今の流れでなんでこ、告白すんだ!?」

「いや、カイ君ヘタレだから流れとか待ってたら告白するチャンスなんてないし」

「誰がヘタレだ! つーかヘタレって何!?」


 嘘を言ってしまった。本当は気づくのが遅くなったんじゃなくて、気づこうとしなかっただけだ。

 所詮私たちは本来出会うはずのない存在だから、本当に好きになってしまったとしても言うつもりもなかった。だけど、そんな私の気持ちにセアドさんはいち早く気づいて教えてくれた。

 別に後押しされたから言うとか、そういうつもりでもない。今まで告白なんて数える程度どころか五本の指にも収まる回数しかしたことがないし、されたことなんて勿論ない。だから随分と子供じみた言葉になってしまったけれど、カイ君相手に格好つける必要もなかったようだ。

 当然、告白したところで私たちが結ばれるなんてことはない。それは向こうに受け入れてもらえるかどうかではなく、私がこの世界から帰らなければいけないから。

 いくら好きの気持ちが嘘じゃないからといって、愛に生きるほど幸せな思考回路は持っていない。

 言い逃げのようになってしまうけれど、だからといってそれで終わりにするつもりはなかった。


「カイ君のことは好きだけど、この世界にはいられないから……だから、もとの世界に帰ったら、もう一度私の世界のカイ君に告白してみるよ」

「な、なんだよそれ……」

「セアドさんと影武者さんを見て確信したんだけど、この世界と私の世界には、同じであって同じでないもう一人の自分がいるんだと思う。だから、もとの世界に生きているカイ君と、この世界のカイ君も同一人物だと思う。同じカイ君だから告白するってつもりでもないけどさ」


 勿論、告白した結果が保障されるとも思わない。同じカイ君とはいえ、もとの世界の教え子であるカイ君は私を家庭教師としか思っていないはずだ。成功確率なんて存在しないようなものだ。

 そう考えてしまうと、この世界を離れるのはやっぱり名残惜しい。とはいえ、恋だけに現を抜かしはなしない。向こうに戻ればまた大学生活が始まって、バイトだってしなければならないのだから。振られたら振られたで、切り替えればいいだけだ。

 結局告白するだけして一方的な流れを作ってしまったなんて考えていると、しばらく動揺を隠せずにいたカイ君から思わぬ返事が来た。


「……も、……だった」

「え?」

「っ、だから! 俺も好きだったっつってんだよ馬鹿!」


 半ば逆ギレされながら返事を言われて、今度は私が驚く番だ。

 彼の気持ちや心境の変化にまったく気づかなかったといえば嘘になる。人より世間知らずな部分があるとはいえ、王族である彼が私にここまで心を許してしまっているというのは、違和感を覚えない方がおかしい。とはいえ彼は今まで心を閉ざして交流を拒絶してきたのだから、私に対する感情は、恋愛というより母親への感情に近いものだと思い込んでいたのも事実だ。

 だから拒まなかったし、それを嫌だとも思わなかった。まあ、十代後半の男の子に母性のようなものが芽生えたとも言わないのだが。

 そこで今、とても驚いている。私が一方的に気持ちを告げて終わらせようとしていたこの件(カイ君には悪いと思うが)は、思わぬ変化球としてこちらに戻ってきたわけで。

 彼の気持ちを「そうですか」と無下にするわけにもいかないし、かといって私たちが両想いになれば、より一層別れがつらくなる。

 それよりも、王族と一般人、それも異世界の人間との恋愛なんて認められるとも思えない。いくら私がこの国のために少なからず尽力したところで、それが免罪符になるなんて自惚れはしない。

 そんな動揺など露知らず、カイ君は勢いよく捲し立てる。


「本当はこんなこと言うつもりなかったのに、なんで女のお前が先に言うんだよ! つーか、なんでそんなこと言うんだよ! 本当にもとの世界に戻る気あんのか!?」

「そこまで言わなくても……だって、言いそびれちゃうのも嫌だったし」

「俺が嫌なんだよ! こんなこと言ったら……別れが、つらくなる」


 悲痛そうに歪めた顔を見せまいと、カイ君は俯いた。

 カイ君を悲しませるために言ったのではない。結果として今は、彼を傷つけてしまったけれど。大人になったらわかるなんて偉そうなことを言うつもりもないし、何も考えずに告白なんかしていない。

 何も考えずではないということは、何かがある。だけどこれも、カイ君のためかといえばそうは言い切れない。

 結局、ただの自分勝手なのかもしれないけれど。


「私とカイ君は一緒にいられないけど、離れ離れになるわけじゃないよ。さっきも言ったよね、この世界と私の世界には同じようで違うもう一人の自分がいるって」

「……それって、まさか」

「この世界の私を見つけてあげて。一緒に過ごした記憶はないけど、本質は私であることに変わりないから」


 この世界のどこかに、容姿も声もまったく同じ『アンナ』がいる。それは私であって私でない、性格も趣向も全然違う人物かもしれない。それでも、私がカイ君を好きでいるなら、彼女もカイ君をきっと好きになる。

 代替品で勘弁してほしいなんて言うつもりはない。でも、できればカイ君の好きな人は『私』であってほしいと思う。一緒にいられないから、せめてこの世界の私と一緒にいてほしい。

 やっぱり我儘なだけだ。

 私の言わんとしていることがわかったのか、一度は複雑な心境を伺わせるカイ君も、最後には渋々といった具合に頷いてくれた。


「絶対見つけてやるから、お前も俺意外に目移りすんなよ」


 人と話すことも嫌がっていた王子様が、まさかこんな格好いいことを言うようになるとは。

 成長したんだと思うと同時に、嬉しいやら恥ずかしいやらでついにやけてしまう。きっと「何にやけてるんだよ」とか言われるに違いない、なんて思っていたら、案の定一字一句違わぬ言葉が飛んできた。


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