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王族直属教育係に任命されました。  作者: 銀朱
第四章 魔法使いと二つの鏡
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捕まる

 ありきたりな展開だと重々承知しているが、私は今、城の地下の牢獄に閉じ込められている。石壁でできた窓一つない空間で、牢獄と言って想像する薄暗い雰囲気はあながち間違っていない。

 柵で仕切られた内側の、私が閉じ込められている空間は申し分程度の寝具のみ。ふかふかなベッドに慣れているせいか、布切れを乗せた木の台に寝たら確実に体を痛めそうだ。

 柵を越えた向こう側には見張りの任務を任された元・王国軍の兵士たちと、突然様子が変貌したセアドさんがいる。彼は大臣をやっていた頃と変わらない笑顔を浮かべたまま、自由の利かない私を見ていた。


「手荒な真似をして申し訳ございません。勿論あなた様をこのまま処刑しようなどとは考えておりませんので、命の危険はなきものとお考えください」

「……じゃあ、なんでこんなこと」

「あなた様が自由に行動されては計画に支障をきたしますので。ご了承くださいませ」


 悪びれもせず言うセアドさんに言いたいことは山ほどあるけれど、私が口を出したところで彼が真実を答えてくれるかといったら確証はなかった。

 一番に聞きたいのは、セアドさんの『計画』とやらだ。一体何を考えて国を侵略するのか。彼が国や国王に対して恨みを抱いていた様子は見受けられないし、復讐でないとしたら理由なんて思い当たらない。それとも自分自身の目的ではなく、これも誰かの命令で動いている可能性もあるけれど、背後に黒幕がいるとも思えない。

 彼がこれから何を仕出かそうとしているのか。牢獄に入れられてしまった以上、確かめるすべはない。

 次に、カイ君の安否だ。

 セアドさんの命令で兵士たちに捕まった私たちは、それぞれ別の場所へと連れて行かれてしまった。私とゲルハルトさんは共に地下牢獄へ、カイ君は一人城の上部へ。

 王様の安否もわからない以上、カイ君が無事かどうかも怪しい。まさかセアドさんが王族の殺害なんて考えているとは思えないけれど、無事と言い切れない以上は安心していられない。

 とにかく、何とかしてここから出なくては。


「ここから出せ! 貴様の行動は国に対する反逆に値するぞ!」


 隣の牢からゲルハルトさんの声がした。

 隣同士とはいえ、私とゲルハルトさんの間には分厚い石壁が挟んであるので、お互いの様子を見ることはできない。だけど彼の怒りを孕んだ声だけははっきりとわかる。

 セアドさんは私の前からその横へとゆっくり歩みを進め、ゲルハルトさんの方へと向く。


「残念だがゲルハルト、ここはもう君の知るレーゲンバーグではないんだよ」


 それはゲルハルトさんの心に傷を負わせるには、充分な言葉だった。

 王様もいない今、この国を支配しているのは実質セアドさんだ。

 何を思ってこんなことをしているのかはわからない。だけど、セアドさんがわざわざ王の座を奪うためにこんな侵略をしているとは、なぜだか思えない。

 なんて、色々考えたところで、牢屋の中では今何が起きているのかも伝わってこない。早く何として、この場から抜け出さなければ。

 それに、あれからカイ君がどうなったのかも気になる。まさかもう殺されているなんてことはないだろうが、変わり果てた国を目にしてショックを受けた彼が、落ち着いているとも思えない。


「カイ君は無事なんですか」

「ええ、無事にございます。まさかとは思いますが、わたくしが王族に恨みを持ってこのような暴動に走ったとお考えならば、訂正なさってください。王族を殺すのが目的であれば、もっと楽に殺していますし。それに殺したところで何の意味もありませんので」

「じゃあ、なんでカイ君を……」

「『計画』を遂行するために、王子の協力は必要不可欠なのです」


 一体何の計画なのか、ますますわからない。だけど今のセアドさんの言葉は嘘ではないと思えた。

 『計画』がどんなものにせよ、セアドさんにとってカイ君が必要不可欠なのには理由がある。一つはカイ君が王族であるということだ。彼の出自、王族というだけで権力になるのだから、この先セアドさんの計画に反対する者が現れたとしても、王族を盾にすれば面倒な争いになりづらい。

 もう一つは、カイ君の魔法使いとしての能力。その能力が『計画』とどう結びつくのか見当もつかないが、召喚魔法が何らかの役に立ってもおかしくはない。

 だからしばらくは、カイ君は無事だ。ただ、無理矢理連れていかれて平常心を保っているとは思えないけれど。

 とにかく、その『計画』のためには王国に忠誠を誓うゲルハルトさんとカイ君の教育係である私が邪魔だったから、監禁なんてしたのだろう。


「それにしても、こんな状況下でさえ王子の心配をなさるとは、本当にあなた様は教育係の鏡と呼ぶべきお方ですね」


 おかしそうに笑うセアドさんに対し、私は笑わない。

 確かに、自分の置かれている状況を考えれば他人の心配なんてしていられない。だけどなぜか、牢獄に閉じ込められている今、それほど不安を感じていないのだ。目の前にいる事の首謀者が顔馴染みだからとか、そんな単純な理由ではないだろうけど、不思議と落ち着き払っている。

 ここに来たばかりの頃なら、突然牢獄に入れられて泣き喚いていたかもしれない。

 むしろ今抱えている不安といえば、このまま変貌しつつある国の城に閉じ込められながら、元の世界にも戻れず一生を過ごさなければいけないという不透明な将来だ。

 ここに来てから随分と経ったけれど、一向に元の世界に戻れる気配もないし、この世界で死を迎えるという最悪の可能性も現実味を帯びてきた。

 だけど同時に、この世界では就職もしなくていいし、面倒くさい社会のしがらみに縛られることもないと安心している自分もいて、何だか無性に腹立たしい。

 そんな心情を忘れるためにも、自分ではなくカイ君の心配をしているのかもしれない。


「ところでアンナ様。あなた様はご自分の生まれてきた世界へと戻るのが目的だと存じ上げておりますが、本当にこの世界から戻れると、信じていらっしゃいますか?」

「……どうして、そんなこと聞くんですか」

「あなた様がこの世界に訪れてから長い時間が経過しておりますが、一向に手掛かりすら見つからないからですよ」

「……それは」

「本当は不安を感じていらっしゃるのではありませんか? いつまで経っても元の世界に戻れない現状に、焦っているのではありませんか?」


 まるで心の中を覗かれているような気分だ。

 今まで異常なほどに落ち着いていた気持ちが一転、大きな動揺が生まれる。別にもうこの世界から帰ることができないと言われているわけでもないのに、不安と絶望が一気に押し寄せるような感覚に鳥肌が立つ。

 そんな私の心の変化すらもお見通しと言わんばかりに、ますますおかしそうにセアドさんは笑う。


「まるで心の中を読まれている、ですか……わかりやすい反応ですね」

「え、ほ、本当に心を読んでるんですか!?」

「あなた様の顔に書かれているだけですよ。まさかそんな大層な能力など持ち合わせておりませんからね」

「どうだろうな。貴様は前にも未来を予知するような言動が目立っていた」

「おやおやゲルハルトまで。わたくしはあくまで凡人だというのに、まるで魔王のような扱いだな」


 確かに私の動揺から大体の心情は読みとれるかもしれないが、本当にそれだけとは言い難い。ゲルハルトさんがそこまで疑うのもわかる。

 だけど心を読めるか読めないかは置いて、どうして今「元の世界に本当に戻れるのか」なんて聞く必要があるのだろう。私の心を読んだのなら無理矢理納得はできるが、あの口振りでは元の世界に戻れない理由を知っているみたいだ。

 実際、知っているのだとしたら、やっぱり私はここから出なければいけなくなるのだけど。


「話を戻しましょうか。そう、今のところ、アンナ様が元の世界に戻れる方法はございません。王子も召喚術をお使いになるとはいえ、転送することはできないようですしね。となると、アンナ様はこの世界で一生を過ごさなくてはなりませんね」

「……」

「あなた様は、それでもいいとお考えですか?」

「そんなこと、思うわけないじゃないですか。私には家族がいます。友達もいます。もう一生会えないなんて、耐えられません」


 今まで色んなことがありすぎて意識もしてなかったけれど、家に帰れないというのは思っているよりもずっとつらいものがある。

 当たり前のようにそこで寝て、起きて、出掛けて、そしてまた帰ってきて眠りにつく。毎日自分の家で生活していれば、別段特別なことでもない。だけどもう家を出てから随分と長い時間帰ってきていない。それだけで言いようのない寂しさを感じるのだから、帰れなくても大丈夫なんて思わない。

 セアドさんの言う通り、私はおかしい。

 普通なら自分の欲求を優先するはずなのに、今帰ってしまったらカイ君はどうなるかなんて、他人の心配ばかりしている。家に帰れなくて寂しいはずなのに、今だって離れ離れになった王子様の心配をしているのだから。


「そうでしょう、寂しいでしょう。しかし帰れない以上はどうしようもないと無力を嘆く他にない……あなた様はそう思っていらっしゃるのでは?」

「さっきから……何が言いたいんですか?」

「ですから、あなた様の意思を確認しているのです。事と次第によっては、『計画』に賛同していただけるかもしれませんからね」

「……『計画』って、一体何なんですか」


 今なら真実を教えてくれるような気がして、ついに聞きたかった言葉が口から零れる。

 セアドさんは笑いかける。いつも見てきた笑みだというのに、今はなぜかそれがとてつもなく恐ろしく見える。笑っているはずなのに、その目はまるで睨んでいるかのようだ。


「戻せないのなら連れてくればいい。それだけにございます」

「連れて……どういうことですか」

「どうもこうも、言葉の通りなのですがね。つまり、王子は異世界から人間を召喚できても転送することはできません。ならば、わざわざ戻す必要をなくしてしまえばいいという主旨なのです」

「戻す必要を……まさか、」

「そのまさかにございます」


 もし私の予想が正しければ、彼は今、まさに今、大変なことをやらかそうとしている。勿論今までの侵略だって大変なことだけれど、それとは話の次元が違う。もっとこの世の常識が、すべての世界に共通することわりが捻じ曲がってしまうようなことを仕出かそうとしている。

 だけど、異世界人でも何でもない彼がそんな危険な真似をしようとしている意味がわからない。なぜ彼がそんな真似に走るのか、理由もなしにする行為とは思えない。

 それくらいに彼の『計画』は常識を超えていて、異常で、ある意味とても稚拙ちせつだ。


「戻れないのであれば、連れてくればいい。あなた様の世界の人間を、こちら側に召喚すればすべて解決する話なのですよ」


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