青との同居
何で俺はヤヨイさんに呼ばれたんだろ、いきなり携帯に電話がかかってきて出たら『バーに来い』それで終りだぞ、俺に発言権と決定権は無いらしい。
俺は一人でバーに向かってる、アオミはマミ姉が来てるから着いてきて無い、俺一人って案外重荷なんだけど、酒飲まされるんだろうな、確実に。
着くと既に飲んでるヤヨイがいる、隣に行くと何故か酒が出てきた。
「飲め」
しょうがないから飲む事にした、飲めないわけじゃないし付き合いならしょうがないだろ。
「何ですか?」
「ツバサの事だ」
「何ですか?実は弟もいましたとか?」
「フッ」
鼻で笑われた、ヤヨイさんならありえない事もないからな。
それにツバサの事って?もう俺に関係あるツバサの事なんて無いだろ、いや、無いでほしい。
「私はアメリカの本社に行く事になった」
「凄いじゃないですか!」
「前々からあった話だ、問題はそこじゃない、私がいない間ツバサを預かれ」
え〜と、俺の思考回路が止まりかけた、何とか理解は出来たよ、でもまた強制かよ。
「チカはお兄さんの所に行くらしい、だからツバサを預けられるのはカイとアオミの家だけだ」
「そうですけど………」
「大丈夫だ、アイツになら何しても良い、襲っても文句は言わない」
今の発言は親的に問題があるだろ、それに俺が心配してるのはその逆なんだよな、アオミだけでも毎日がサバイバルなのに、ツバサが加わると地獄だ。
「金もある程度は仕送する、それでも不満か?」
「いつからですか?」
「明日」
「明日!?何でもうちょっと前に言ってくれないんですか!?」
「アオミに言った」
アイツ、俺に通せよ俺に、アイツの家だから強く文句は言えないけど、妹とはいえツバサは女だぞ、それと暮らすのかよ。
「どれくらいで帰ってくるんですか?」
「最低で3年だ、でも確実に延びるだろう、たまには戻って来るけどずっと向こうにいる可能性もある、ツバサは了承済みだ」
いや、了承済みっておかしいだろ、一生ツバサと住めと?俺に一線を越えさせるつもりかよ、確実に一回は襲われる。
「大丈夫だな?」
「分かりました、一緒に住みますよ、引越しはどうするんですか?」
「明日荷物をカイの家に送る、ツバサは明日の昼には着くから」
「分かりました」
最悪だ、ツバサが嫌いな訳じゃない、怖いんだ、地獄ロードの幕開けだよ、今でさえアオミが週に2回は朝起きると布団に入ってるんだから、単純計算で一人での気持良い目覚めは週に3回になる。
「そういう事だ、何かあるか?」
「何も無いです」
「私からも何も無い」
俺はそのまま帰った、憂鬱です、ツバサとの生活が不安。
次の日、休日だから俺は家にいる、アオミはマミ姉と買い物行ってる、こういう時に何でいないんだよ。
家のロックが外れる音がした、そのまま走る足音と共に部屋のドアが開き、ツバサが飛んで来た。
「お兄ちゃん!」
ナイスキャッチ俺、ツバサは思いっきり抱きついて離れない、コレに慣れてる俺が悲しいよ。
「お兄ちゃん、今日から一緒に住めるね!」
「そうだな」
「毎日こうやってお兄ちゃんといれると思うと僕嬉しい!」
何で親と別れたばっかりなのにこんなにテンション高いんだよ、普通なら凹んでるべきだ。
「そういえばお姉ちゃんは?」
「マミ姉と出かけてる」
「じゃあ僕とお兄ちゃん二人だけか!何する?」
「何もしないよ」
「何かお兄ちゃん冷たくない?僕の事嫌い?」
「好きだよ、でも兄妹としての好きだからツバサが望んでるような事は出来ない」
ツバサは泣きそうな顔をして俺の顔を見てる、頼むからそんな顔で見ないでくれ、ツバサに一般常識すら通じないのかよ。
「お兄ちゃんは嫌なの?僕と暮らすのが」
「別に暮らす事自体は嫌じゃない、でもツバサがそれ以外の事をしようとしたら俺は拒否する」
「じゃあ生活するだけなら良いんだね!?」
「そうだよ」
何だ言えばちゃんと聞くのか、それなら大丈夫だな、ツバサも何もしなければ可愛い妹なんだけど、その奥に潜むアオミと同じ血が怖い。
アオミは外で食べてくると電話が入った、つまり俺とツバサの二人きり、さっきから何もしてこないから何も無いと思うけど、何故か胸騒ぎが。
「お兄ちゃん!今日のご飯は何?」
「オムライスとかは?」
「本当に!?僕オムライス大好きなんだ」
「それなら良かった」
オムライスが好きとか微妙に子供っぽいとか思うのは俺だけ?まぁ人の好みはそれぞれだから偏見で決めつけちゃいけないよな。
「それより、何でキッチンにいるの?」
「だって1秒でも長くお兄ちゃんと一緒にいたいんだもん」
「これから飽きるほど会えるんだから良いだろ」
「飽きないもん!お兄ちゃんとずっと一緒でも大丈夫だから」
それは俺が困る、それにコテツの事はそっちのけかよ、絶対におかしいって。
「ツバサ、もう出来るから椅子に座ってろ、大人しくしてないと食わせないぞ」
「ヤダ!オムライス食べる!」
「なら大人しくお座り」
「は〜い!」
扱い方はガキ同然だな、扱い易くて俺的には良いんだけどね。
俺はテーブルの上にオムライスの乗った皿を置くと待てをされてる犬みたいな目で俺の事を見てくる、こういう時に妹って可愛いなとか思っちゃうんだよな。
「食べたい?」
「早くぅ〜、僕、我慢出来ないよ」
「それじゃあさぁ、俺から離れろ」
ツバサは俺の腕を掴んで離そうとしない、俺も右利きだしツバサも右利き、だから俺が食えないんだよね、仮に食えたとしてもうっとうしい。
「でも僕はこうじゃなきゃいや」
「なら、食べさせない」
「ダメダメ!離すから食べさせて!」
「分かったよ、食べて良いよ」
「いただきまぁ〜す!」
ツバサは一気に口に掻き込んだ、そして左手を頬に置いて震えてる。
「おいしい!お兄ちゃん凄く美味しいよ」
「当たり前だろ、ツバサのタメに作ったんだから」
「僕のタメに!?でもそれと美味しいのとどう関係があるの?」
「料理ってのはただ作るだけじゃ美味しいだけなんだ、『美味しく食べてほしい』とか『この人のタメに一生懸命作ってる』とか思って作ると美味しいだけじゃなくて暖かいんだ、本当に美味しい料理ってのは心が篭ってる、当然このオムライスにも」
彼女とかに作ってもらった弁当がそんな感じかな、よっぽど不味くなきゃ無駄に美味く感じるもんだろ、だから俺は大衆的なデカイ店よりもこじんまりとした店の方が好きなんだ。
「お兄ちゃんの料理は美味しいだけじゃなくて暖かいんだ、じゃあ僕がコテツに作った料理とかも心が篭ってればもっと美味しくなるの?」
「そう、コテツの喜んでる顔やコテツに誉められる事、そんな事を考えながら作れば美味しくなる」
「そっかぁ、頑張ろう」
何だ、ちゃんとコテツの事も考えてるんじゃん、やっぱりツバサはブラコンの前に一人の女の子なんだな。
「お兄ちゃんご飯付いてる」
「マジで?最悪」
「取ってあげる」
ツバサは俺の顔からご飯粒を取ろうと体を乗り出した、でもツバサの膝が俺の股を思いっきり踏んで俺とツバサはそのまま後ろに倒れた。
「痛ぁ〜い!」
「ツバサ、いいからどけ」
「でもまだ付いてるよ」
ツバサの顔が徐々に近付いてくる、俺に逃げ場は無くツバサを突き飛ばす訳にはいかない、ツバサは顔を傾けた、そして…………、俺の頬を舐めるとご飯をそのまま食べた。
「ドキドキした?」
「当たり前だろ、顔がマジだったんだから」
「だって途中まで本気だったんだもん、でもお兄ちゃんがダメだって言ったから我慢した、偉い?」
「言った事を守ったのは偉い、でも舐めたのは偉くない」
ツバサはフグみたいになって座り直した、マジで怖かったし、なんかツバサと目が合った瞬間かなしばりにあったみたいな状態になった。
でもツバサも俺の言った事を少しずつだけど守ってくれる、それは兄として嬉しい。