青の幕開け
今年も残り2時間ちょっと、なんか年寄りっぽいけど1年って早いな、今年は色々ありすぎて楽しかった、来年はもっと楽しくなる、ハズ。
今年はマミ姉はハヤさんと一緒だから俺とチカだけ、去年もだけど今年も俺の両親はいない、何が言いたいかっていうと、只今家には俺とチカだけ、他には誰もいないし誰も来ない。
まぁ、チカに何をしようって訳じゃないんだけどね、臭いかもしれないけど、隣にいればそれで良いじゃん。
「カイ、今年もソバ作るの?」
「もう作ってあるよ、後は茹でるだけ」
「ホント!?」
チカが何故か喜んでる、無駄に嬉しそう。
「どうしたの?」
「カイのソバだぞ、あれを食べるタメに一年間過ごしたようなもんだもん」
「大袈裟な」
「大袈裟じゃない!」
隣にいたチカは俺の顔を覗きこみながら、頬を膨らまして怒ったフリをした、俺は膨らんだ頬を両手の人指し指で潰した。
「カイのソバがどんだけ美味しいか知らないのかよ!?」
「知らないも何も俺が作ってるんだけど」
「あのソバを食べたら、死にかけた人も奇跡的回復をするよ!」
普通にスルーされた、しかも奇跡的回復って、過大評価もそこまでくると妄想だろ。
でもそんなに期待しててくれてたなんて嬉しいんですけど。
「アタシだけじゃなくて、みんなにも食べさせたいくらいだよ」
「みんなって」
「ツバサとか」
「じゃあそれは来年だな」
「うん!」
チカは覗きこむのを辞めて普通……、じゃなくて俺の腕を抱いて座った。
テレビは紅白がやってる、この番組も飽きずによくやるよな、実際楽しくもないのに国をあげて騒いで、俺にはそれが理解出来ない。
「今年も終わっちゃうな」
「悲しい?」
「いや、楽しかった、ツバサもヒノリもコガネもコテツも、最高の親友なんだもん。それにこんな最高の彼氏がいれば、今年よりも来年の方が楽しいに決まってるよ」
「じゃあ楽しくするタメにソバ食うか!」
俺はチカの頭に手を置いて立ち上がった、俺がそのまま手をどけようとしたらチカが手を掴まれた、チカは俺の手を引っ張って立ち上がる。
「アタシも手伝うよ」
「もう茹でるだけだけど?」
「うん」
まぁ良いか、別に茹でるのに上手いも下手もないもんな、それに二人で作った方が楽しいし。
キッチンに行くと冷蔵庫から麺を取り出した、ダシはもうとってある、俺は鍋に水を溜めてダシの鍋と同時に火を付けた。
キッチンに暖房器具は無いから寒い、火を付けててもそんなすぐに暖まるもんじゃないし、とりあえずありえないくらい寒いから家なのにチカと手を繋いでる。
「カイ、沸騰したから麺入れて良いよ」
チカは麺を熱湯の中に入れた、徐々に部屋も暖まってきたけどチカが手を離す気配はない。
客観的に見ると変な光景だよな、ソバ茹でながら手を繋いでるなんて、でも他人から見て変とか馬鹿が二人にとっては幸せなんだよな。
「湯切りするからちょっと離すよ」
「それアタシがやる」
「大丈夫か?」
「当たり前だろ」
「分かった、怪我するなよ」
チカはタオルで取っ手を握ってザルにソバを流した、寒いから余計に湯気が立ち上ってチカの顔を覆ってる。
「ゲホッ!ゲホッ!」
湯気でむせてるよ、鍋を置いてせきごんでるチカを見てたら笑えてきた、俺が腹を抱えて笑ってると、チカは顔を真っ赤にして俺を睨んでる。
「もう笑うな」
「ゴメンゴメン、湯気でむせてるのなんて始めて見たから」
「涙出るまで笑わなくてもいいだろ」
やっと落ち着いてチカの顔を見ると泣きそうになってる、俺はチカの頭に手を置いて、髪の毛をクシャクシャにした。
「泣くなよ、可愛い顔が台無しじゃん」
「………………馬鹿」
「もう出来るから用意してて」
チカはのそのそと歩いて行った、俺はソバを取り分けてチカの後を追った。
紅白を見ながらのソバ、定番中の定番だな。
「いただきまぁす」
「いただきます」
俺らは同時にソバを口に入れた、チカがまたむせてるけど今度は我慢、ソバをくわえて震えながらがまんした。
「落ち着けよ」
「熱い」
「当たり前じゃん、冷たいと思ったの?」
「違うけど。お茶取ってくる」
チカは冷蔵庫を開けて飲み物を取り出して、食器棚からコップを出して戻ってきた。
部屋に入る手前の段差でチカがつまづいた、俺は慌ててチカを支えると、チカは両手を広げた状態で止まった。
「大丈夫?」
「大丈夫だから離して」
俺はチカを抱き締めてた、離してって言われても、何か離したくないんだよな。
「嫌だ」
「ソバが伸びるだろ」
「だってチカあったかいんだもん、このまま年越す?」
「一時間近くあるよ、無理だって」
「それもそうだな」
俺はチカを離して座った、チカも隣に座ってコップについだ麦茶を一気に飲み干す。
そんなに暑かったのかな、俺は暖かかったけどね。
「後一時間だよ、年越したら最初に何してると思う?」
「ハッピーニューイヤーとか言ってるんじゃない」
「あ、そっか」
「チカはむせてそうだけど」
その瞬間チカが俺の背中を思いっきり叩いた、いや、叩いたんじゃない、コイツ、グーで殴りやがった。
「カイがむせてるぞ」
「そりゃ殴られればむせるって」
チカは自分で話をふっておきながらシカトしやがった、最近チカの絡み方の強弱が激しいような気がする。
テレビがカウントダウンモードに入り、今年も残すところ数分。
年を越したところで何も変わらないけど、思い出を去年に残すのは悲しい気がする、同じに見えて違う数分後。
「カイ、カウントダウンまだかな?」
「なんなら今からする?455…454…453…452」
「辞めよう、10秒前でいいよ」
俺は渋々カウントダウンを終了した、時間に終れてる感があって良いのにな、残り450秒。
たった10秒ないし5秒、それだけの短い間だけど日本中が同じ事をする、それって凄い事だよな、ワールドカップよりも、オリンピックよりも、政治批判よりも日本中が揃うそんな数秒、俺はそんな流れに逆らいたいとか思うひねくれ者だったりする。
「カイ!始まるよ、10…9…8…7…」
「「6…5…4…」」
「さん、むぅ!」
俺は残り3秒でチカの唇を俺の唇で塞いだ、テレビの番組が年を越して騒いでる最中、俺とチカは長いキスをしてる。
俺らは息が切れるくらい長いキスをした、顔を離すとチカは今年一番の赤面度だった、そりゃそうだよな、今年はまだ一分くらいしか経ってないもん。
「年越しキス成功」
「するなら言ってよ」
「いや、こういうのはいきなりやるから楽しいんだよ、打ち合わせしてキスするのは日本中に呆れるほどいる、でもサプライズでやられたのはそんなに多くは無いだろ、チカはそんな幸せサプライズされた内の一人なんだぞ、もしかしたら最初で最後かもしれないじゃん、そう思うと凄くない?」
「ドキドキする」
そうだよ、キスはいつでも出来る、365日いつでも、だけど今俺がやったのは一年の内一瞬、しかも一回したら翌年は気付かれてる可能性がある、って事はこのドキドキは一生に一度かもしれない、俺らはそんな事をしてた。
「今のキスが去年最後のキスで、今年最初のキス、凄くね?」
「一回のキスなのに思い出は2年分か、何かカイの事もっと好きになりそう!」
チカが飛び付いて来た、俺は倒れながらチカを受け止めると、チカは最高の笑顔を見せてくれた。
こんな最高の笑顔で始まったら今年はどんだけ楽しくなるんだろ、最高の幕開けだ。