黒と手話
フェリーは徐々に減速して着岸の準備に入った、俺とチカは自分達の席に戻って荷物の準備をしてる。
島に着いたらとりあえずマミ姉に会いに行く予定だ、元気だとは思うけど、何か変化があれば儲けもんだろ、そんなに早く治るとは思って無いけど。
乗客は次々に降りて俺らだけになった、船内の客がいなくなったのを見計らって、俺らも船を降りた。
降りてビックリ、ハヤさんとマミ姉がいた、いや、ビックリしたのはそれじゃない。
「マミ姉、その髪の毛どうしたの?」
マミ姉は笑って自分の髪の毛を触った、以前のマミ姉なら髪の毛は指に絡む。
「俺が切ったんだ、可愛く出来てるだろ」
ハヤさんはマミ姉の頭を撫でながら笑った。
マミ姉の髪の毛、夏休みまでは綺麗なロングの黒髪だった、でも今はベリーショート、チカよりも短くて若干はねてる、そこらへんの男よりも短い、でもそれが似合うんだから凄い。
『似合ってる?』
マミ姉は手話で話しかけてきた、夏休み俺らが島を出る前の約束、マミ姉には手話が出来るように、俺とチカは理解出来るようになること。
「凄く似合ってるよ、可愛いし」
「凄い、アタシよりも短い。でもさすがマミ姉だよ、どんな髪型にしても様になる」
『ありがとう』
「なぁなぁ、俺を抜いて話を進めるなよ」
そっか、ハヤさんは分からないんだよな、逐一通訳しながら話せば良いか。
それより何でハヤさんがココにいるんだろ、ついこないだマンションで会ったのに、地味にストーカーとか?
「ハヤさんは何でいるんですか?」
「チカ嬢にこの事聞いていてもたっていられずに、あの後仕事そっちのけできちゃった」
仕事をほったらかしにして来るなんて、かなり無茶苦茶な人だな、でも、マミ姉が心なしか元気そうだし、兄貴様々だな。
「こんな所で立ち話もなんだろ、俺達の家に来なよ」
「じゃあ荷物置いたら行きます」
俺とチカはとりあえず荷物を置きに帰る事にした、マミ姉には色々話したい事があるしな。
俺はチカを迎えに行ってからマミ姉の家に行った、チカの家はマミ姉の家に行くときに、丁度通るからな。
家につくとハヤさんが出てきた、満面の笑で通されると、居間にはマミ姉がこれまた満面の笑で座ってる、笑顔の絶えない良い兄妹だな。
俺らが座るとハヤさんは飲み物をくれた、机を真ん中にしてマミ姉の左にチカ、右にハヤさん、正面が俺だ。
「マミ姉、四色蒼海って覚えてる?」
マミ姉はビックリした表情で頷いた、気付いてると思うんだよな。
「俺の姉貴」
『もしかしたらと思ったけど、ホントにカイ君のお姉ちゃんなんだ』
俺は簡潔に通訳しながら聞いた、ハヤさんのために。
『アオミちゃんって可愛いよね』
「極度のブラコンだけどね」
マミ姉は首を傾げた。
「弟Loveなんだよね」
『そうなんだ、始めて知った』
アオミの事だから無駄に自慢してると思ったけど、軽い罪悪感で話せなかったのかな、俺の事を見捨てたって思ってたらしいし。
「でもさぁマミ姉、カイったらアオミさんと学校で抱き合ってたんだよ」
「あれはアオミが無理矢理抱きついてきたんだよ!」
「学校では浮気って噂されてるんだぞ」
「大丈夫だって、俺にはチカだけだから」
「そんな事言ってもダメ!」
「フフッ」
「「「笑った!?」」」
今マミ姉が笑った、あの声は聞き慣れたあの声だ。
マミ姉は喉を押さえてもう一回声を出そうとした、でも出てくるのは空気だけ、悲しい顔した後にまた満面の笑になった。
「大丈夫だよマミ姉、良くなってる証拠じゃん」
マミ姉は笑顔で頷いた。
「良かったなマミコ」
ハヤさんはマミ姉の頭を撫でて笑ってみせた、マミ姉のこんな子供みたいな笑顔は始めて見た、いつもは大人っぽい笑顔なのに。
「マミコも落ち着いたし東京来るか?」
マミ姉はビックリした顔でハヤさんを見た。
「マミコも落ち着いただろ、それに東京に行けば親友もいるし、チカ嬢やカイ君もいる、なんだったら俺ん所でバイトも出来るし」
マミ姉は悩んでるみたい、そりゃそうだよな、話せないのに東京に行くのはキツイもんな。
「やっぱり嫌か?」
『お兄ちゃんに迷惑がかかるよ』
俺はハヤさんに通訳した、マミ姉らしい理由だな、でもハヤさんなら………。
「俺がそうしたいんだよ、マミコをココに一人で置いておきたく無いんだ、俺と同じ所で仕事すればずっとマミコと一緒にいれるだろ」
『でもお兄ちゃんに迷惑だよ、友達とかもいるでしょ?』
「大丈夫!コウやチカ嬢、カイ君やアオミちゃんっていう親友もいるんだろ、こっちにいるより楽しいだろ」
この人は俺らに相談無しに決めてるよ、まぁ少なくとも俺は大丈夫だな、アオミも喜ぶと思うし、俺は万々歳。
「俺は大丈夫だよ」
「アタシも、兄貴も喜ぶと思うし」
「マミコは?」
マミ姉は笑顔になって頷いた、ハヤさんは喜んでマミ姉の頭を思いっきり撫でてる、頭を撫でるのってハヤさんの癖なのかな。
「じゃあ年明けに戻ろう」
マミ姉はハヤさんに撫でられてるから小さく頷いた。
「じゃあマミ姉に毎日会えるの!?」
「さすがに毎日は会えないだろ」
「何で?」
「マミ姉はハヤさんの所でバイトするんだし、俺らにも学校がある、それにそんな毎日マミ姉に会われたら、俺がマミ姉にヤキモチやくし」
「わぁお、今のコウが聞いたら青筋立ててキレるだろうな」
チカは顔を真っ赤にしてうつ向いてる。
こうやって話してるとハヤさんとユキってホントに似てるな、でもハヤさんには悪いけど、ユキには敵わないんだろうな、まぁハヤさんの存在が治癒に一歩近付いてるのも確かだ。
東京に行って、マミ姉が少しでも言葉を取り戻せば良いんだけどな。