赤の兄貴
今回はチカ目線です。
兄貴に連れていかれるがまま兄貴の家に着いた、カイの家が14階で兄貴の家が10階、前来た時は違う家だったから引っ越したんだと思う。
部屋の中は兄貴そのものって感じ、銀を貴重とした家具ばっかりで生活感の欠片もない、無駄に几帳面に揃えてあるし、兄貴はこんな家に住んでて疲れないのかな。
兄貴は冷蔵庫から飲み物を取り出して、コップを3つ取り出した。
「コウ、俺はいいよ、コウのシスコンの邪魔しちゃ悪いだろ」
「今の発言の方が問題ありだ」
「ハヤ君も残って、ハヤ君に話したい事があるの」
「チカ嬢もしかして俺に惚れてたとか?」
兄貴の裏拳が飛ぶ、でもハヤ君は軽々と体を反って避けた、懐かしい光景だな。
アタシはハヤ君と兄貴を座らして話した、話す事は沢山あるけど重大ニュースから。
「ハヤ君落ち着いて聞いて。まず、ユキが死んだ」
ハヤ君は机を叩いて立ち上がった、でも兄貴がハヤ君の腕を掴んで無理矢理座らせる。
「島に行くフェリーでマミ姉をかばって海に落ちた、それで行方不明の捜索打ち切り、事実上死んだ事になった」
「ユキが、マミコをかばって?」
「ユキとマミ姉は付き合ってた、でも本題は違う、マミ姉がそのショックで喋れなくなっちゃったの」
ハヤ君は頭を抱えてうつ向いてる、兄貴は無表情で腕を組んで椅子に背を預けてる、端から見たら冷たい奴かもしれないけどアタシには分かる、腕を掴んでる手に力が入ってる、兄貴も辛いんだ。
「時間が経てば話せるようになるらしいけど、それがいつになるかは分からない。でも言葉が喋れないだけでマミ姉はマミ姉だよ」
「マミコなら大丈夫だよ、絶対に話せるようになる、俺の自慢の妹だから」
ハヤ君はうるんだ目で笑った、ハヤ君が大丈夫って言ったんだから大丈夫だよな。
「暗い話をした後は明るい話を、風間詩織さん、アタシ達はフウちゃんって呼んでるけど、フウちゃんが島の中学で先生やってる」
「「シオリが!?」」
二人の表情が驚きに変わった、そんなに驚く事かな、確かに少し頼りないけどそれなりだと思うよ。
「シオリに先生なんて出来るのか?」
「用務員の先生とかだったりして」
「英語の先生だったよ、アタシ達3年の担任もやってたし」
「「担任!?」」
そこまで驚くことなのかな、アタシは今のフウちゃんしか知らないから分かんないけど、あの天然っぷりが酷かったとか?
「だってあれだろ、確かシオリは妄想が行きすぎて授業中に鼻血出して失神したよな」
「後はハヤに告白する時に、呼び出した所を自分が間違えてた」
「マラソンの授業で迷子にもなったよな」
「数学の時間はXを全部×(かける)って読みやがった」
「国語の時間は縦読みじゃなくて横読みしたよな」
フウちゃん酷すぎるよ、いくらアタシでもフォローしきれない、あれで治まった方、っていうか劇的進化だよ。
「シオリはどうなんだ?」
「今は元生徒と付き合ってるよ、天然もそこまで酷くないし」
「残念だったなハヤ」
「いや、付き合ってたの?俺ら」
「キスまでしたんだから付き合ってたんだろ」
ハヤ君は難しい顔をして顎に手をあてた。
「でも告白される前だし、告白する場所間違えて来なかったもんな」
「ハヤ君は何でフウちゃんと付き合う前にキスしたの」
「キスしたい人とか言ったから、冗談半分で手を上げたらキスされた。それが俺もシオリもファーストキスだったんだよね」
フウちゃん恐るべし、ファーストキスを挙手であげるなんて、天然を通り越してただの馬鹿だよ。
「チカ嬢はあのイケメンの彼氏とはどこで会ったの?」
兄貴の目がピクッて動いた、冷静を装ってるけど内心あのガキとか思ってるんだろうな。
「カイは島に来たの、アタシが東京にいる兄貴に会いに行った時に、ひったくりにあって泣いてるところを助けてくれたの、そのお礼に島に呼んだんだ」
「って事はチカ嬢はカイ君に会いたくて東京の学校を受けたの?」
「いや、カイはそれからずっと島にいたよ」
二人とも頭の上にクエスチョンマークが浮かんでる、これ言ったら兄貴怒りそうな気もするけど、大丈夫かな?
「カイは島にいる時に親に捨てられて、ユキの家に居候っていうか、ユキの義理の弟みたいな状態だね、ユキの両親の事もおとぉおかぁって呼んでるし」
「カイ君も辛い人生歩んでるんだな」
そういえばハヤ君ってもの凄く涙脆いんだよな、確か島出る時なんかは泣きすぎて部屋から出てこなかったんだっけ。
「でもいざとなったらチカを置いて逃げ出すんだろ」
「そうでもないよ、アタシがストーカーにあった時なんて、刃物出したストーカーに立ち向かって行ったんだから、ほっぺたの傷はその時に付いた傷。それ以外でもアタシが不良の先輩に襲われた時、カイは一人で不良の山に飛び込んで行ったんだもん、その時は3日くらい意識が戻らなかったよ」
「コウ、負けたな」
兄貴も下を向いちゃった、ハヤ君は頭の後ろで手を組みながら笑ってる。
カイはアタシの自慢の彼氏だもん、たとえ兄貴がなんと言おうとアタシはカイを手放せない、カイより良い男なんて絶対にいないよ。
「でも酒癖は悪いだろ、そういう奴に限って豹変するんだ」
「お酒は自分でセーブするよ、むしろ悪いのはアタシの方だよ」
「酔った彼女を思って自分は我慢する、なかなか出来ないよ」
兄貴は頭を抱えて何か汚点を探そうとしてる、カイの悪いところなんて無いよ、カイより完璧な人がいるなら知りたいくらい。
「でも頭悪いと将来苦労するぞ」
「それも大丈夫、テストは常にトップだから。それに料理はもの凄く上手で案外家庭的なところもあるよ」
「頭が良くて料理が出来てイケメンで彼女思い、男の理想像だね」
兄貴は更に必死に考えてる、アタシとハヤ君は笑いながら兄貴が次はどんな質問をしてくるのか待ってる。
無理なのに、兄貴が可哀想に見えてきた。
「でも不良に負けたって事は喧嘩弱いんだろ、運動出来ないんだ」
「そうでもないよ、相手はバット持ってたし、8人くらいいたもん。運動はサッカー部で2大エースって言われてるよ、県の選抜に呼ばれたけど断ったらしいし」
「運動も出来るなんて、コウ、諦めろよ」
ハヤ君は兄貴の肩にポンと手を置いて慰めてる。
カイ、兄貴に勝ったよ、やっぱりカイは最高の彼氏だよ、モテすぎてたまにヤキモチやいちゃうけど、それはしょうがないよ、カイにも色々我慢させてるんだもん。
「だからって俺は認めないからな」
「コウも意地っ張りだなぁ、カイ君より良い男なんていないぞ、チカ嬢の幸せを思ったら今のままがベストでしょ」
「クソッ、好きにしろ」
兄貴は部屋に入って行った、少し悪いことしちゃったかな、後で謝っておこう。
それにしてもハヤ君の髪型は凄いなぁ、確か美容師なんだよね、ハヤ君もマミ姉と同じように綺麗な顔立ちなんだよ、モテるんだろうな。
「何だよチカ嬢、そんなに俺の顔ばっかり見て、惚れたか?」
「違うよ!ただ、モテるんだろうなぁ、って思って」
「モテるよ、職業柄女の人が多いし」
ハヤ君自分で言っちゃったよ、少しは謙遜して欲しいけど、ハヤ君らしいって言えばハヤ君らしいな。
「彼女はいるの?」
「いないよ、会う暇が無いし必要ないかな、って」
「兄貴はいるの?」
「気になる?」
アタシは無言で頷いた、やっぱり妹として気になるんだよね、妹が言うのもなんだけど兄貴ってクールな感じで、そういうのが好きな人には良いと思うんだよね。
「いないんだよね、理想が高すぎて出来ないんだよ」
「やっぱり」
「でもモテるよ、同年代じゃなくて10代のガキと30代お姉さまから」
「どういう意味?」
「同年代には取っ付きにくいって牽制されるんだけど、ガキにはカッコイイってモテるし、お姉さまに良くあるのは『貴方の乱れた顔が見てみたい』だって」
兄貴も案外凄いんだな、そんなディープな世界にいるなんて。
その日はハヤ君も泊まって行った、アタシはもう一室あるからそこに布団を敷いて寝た、ハヤ君はソファーで寝てる、久しぶりの兄貴も変わって無かったな。
でもみんなと話してる間もカイとツバサの事が気になってた、まだアタシの中でツバサは親友、カイの妹としては考えられない、だから少し嫉妬しちゃう、早く慣れないとな。