蒼とのクリスマス
予定より遅くなっちゃったな、アオミが怒ってなければ良いんだけど。
チカといる時間があっという間すぎて予定時間をオーバーしてた、俺は走ってマンションまでついた、カードキーで自動ドアを開けてエントランスを行き、エレベーターの上のボタンを押す、ってかこういう時に限って遅いんだよな。
やっときたエレベーターに乗り目的の階を押す、階につくと走って家の前まで行きカードキーでドアを開けて中に入った。
「アオミ、遅れてゴメン!」
リビングまで慌てて走って謝る、準備は進んでてあとは料理を待つだけの状態になってた。
「ゴメン、準備を手伝うって言ったのに」
「別に良いわよ、どうせチカちゃんとの会話に花が咲いてたんでしょ?」
「ゴメン。今から手伝うよ」
「大丈夫よ、もうすぐ出来上がるから。主役は座って待ってて」
「悪い」
俺は言われた通りに座って待つことにした、それにしても一人で全部やったにしてはかなりこってるな、アオミは作りながら笑ってるし、何か良いことでもあったのかな?
「なんか楽しそうじゃん、何で?」
「カイとのクリスマスよ、それは張り切るわよ」
なんか色んな意味で申し訳ないな、こんな全部やらせちゃって、それにアオミって案外尽くすタイプなんだな、プライドがなかったら良い恋出来るのにな、邪魔してるのは俺なんだけど。
アオミは出来た料理を次々と並べてく、見た目も匂いもかなりうまそう、これを女子高生が作ったとは思えない。
「食べて、カイ」
「いただきます」
俺は一番手前にあったものから手をつけた、色々ちょこちょこ食べた結果。
「美味い!めちゃめちゃ美味いよ」
「ホントに!?」
「ホントホント、これなら男は一発でおちるよ」
「カイはおちないの?」
「弟をおとしてどうする」
将来アオミに出来るであろう彼氏は嬉しいだろうな、俺が言うのもなんだけどこんな綺麗な奴にこんな料理作って貰ったら。
「カイとのクリスマスなんて何年ぶりだろ」
「何年ってか始めてじゃない、ガキの頃はそんなイベントある事も知らなかったし、大きくなったらなったでそんなに家にいなかったじゃん」
「そっか、そうだよね、行事なんてあってないようなものだったもんね」
小さい頃は一年のうちに行事なんてものは存在しなかった、親は家にいないし、子供だけじゃなにも出来ないし、だから世間がクリスマスで騒いでても俺には違う世界の出来事に感じた、サンタさんがプレゼントをくれるとか騒いでても俺達は好きな物を買い与えられてた、だからそんなものはいらなかった、今思うと冷めたガキだったんだな。
「私達って可哀想だったのかな?」
「世間一般から見たらそうじゃない、でも俺は今が楽しいからそうは思わないけど」
「私もかな、唯一の家族とこうやってクリスマス出来るんだもん」
唯一の家族か、確かにそうだよな、親がいた時よりも姉弟の時の方が幸せってのは変な話だよな。
「アオミは昨日何してたの?」
「親友と遊んでた、女だけの悲しいイヴよ」
「早く彼氏作れよ」
「カイが私の彼氏よ、カイより良い男なんて日本にはいないわよ」
「アホか」
弟の立場としたら早く恋して欲しいんだよな、邪魔とかそういう意味じゃなくて可哀想じゃん、弟なんて近いようで遠い存在だから。
「みんなレベルが低いんだもん、ルックスとかじゃなくて考える事が浅はかなのよね」
俺と似てる、唯一違うのそういう奴らをはねのけるか受け入れるかの差だな、男なんて特に馬鹿な生き物だからな。
「馬鹿も楽しいぞ」
「飾らない馬鹿はね、背伸びしてる馬鹿は見てて可哀想」
男はみんな可愛い人を前にすると自分を良く見せたいもんな、アオミはそれが大っ嫌いなんだろ、それで飾らないユキに惚れたのか。
俺らは食べ終っていつものようにソファーに座ってテレビを見た、どの局もクリスマスの特番だ、テレビまでうんざりするくらいクリスマス、さすがに嫌になるよな。
「何でクリスマスって祝うんだろう」
「アオミからそんな言葉が出るとは思わなかった」
「何で?どうせカイもそう思ってるんでしょ?」
「そうだけど、アオミって軽くロマンチストなところあるじゃん」
「そうだけどキリストの誕生日だよ、たかが人一人の誕生日を世界中で祝わなきゃいけないの?」
「じゃあアオミは何で今日俺を誘ったの?」
「誘いたいから?」
「それだよ、打ち上げと同じで只の口実だろ、バレンタインとかその類だよ。二人で今日という日を過ごす、それがステイタスになるんだろ」
「そう思うと馬鹿みたい」
クリスマスを二人で祝っときながら、こんな冷めた話する姉弟もどうかと思うけどね、こんな冷めた話をしてる二人でも、波に思いっきり呑まれてる、クリスマスってそんな魔力の事なんじゃないかな。
「じゃあくだらないクリスマスのプレゼント」
アオミは俺の前に袋を出してきた、大きさに比べて軽い、しかもふわふわしてる。
袋を開けて中の物を取り出した、中にはパーカーが入ってる。
「カイに似合うかな、って思って」
「さすがアオミだな、俺の趣味ど真ん中だよ。ありがとう」
礼を言うのと同時に俺もプレゼントを渡した、アオミのプレゼントはかなり悩んだんだよね、全然好きな物とかも分からなかったから直感を信じて、かな。
「手袋だ。凄い、何で私が欲しいのが分かったの?」
「いや何となく、いつも手を暖めてたし寒いからかな」
「ちゃんと私の事見ててくれたんだ」
「当たり前だろ、現時点ではアオミの事を誰よりも知ってるんだから」
「カイ!!」
アオミが飛び付いて来た、ソファーから落ちないようにするのが精一杯で、拒否する余裕がない、アオミは俺の首に腕を回して顔は肩に乗ってる、これだけ喜んでるアオミを突き放すほど酷い心を持ち合わせてないもので、背中を抱き返しちゃった。
「やっぱりカイは私の自慢の弟、誰にも渡したくない」
「チカでも?」
「今後しだいね」
コイツは娘を手放さんとする親父かよ、ブラコンもここまで来るとペットだよな。
「でもカイがチカちゃんに惚れた理由も何となく分かるよ、彼女といると不思議とあったかくなるのよね、不思議な娘よ」
「俺の彼女だもん、普通の女な訳ないじゃん」
「私にもそういう事言って欲しいなぁ」
甘えるような声で言ってくる、これはチカには無いテクニックだな、メチャクチャ可愛い。
「アオミも良い女だよ」
「あぁ〜ん!カイ〜!」
更に強く抱き締められた、これがスキンシップとして慣れてる自分が怖い、前までははねのけてたけど、今は受け入れたってか諦めた、禁止したらもっと過激な事をしそうなんだもん。
「じゃあ誓いのキスを」
「何の誓いだよ!?」
「愛」
即答でしかも一文字で済ませやがった。
「姉弟愛はあってもそれ以上は無いし」
「キスしてぇ!キスキスキスキスキスキスキス!!」
うわぁ、ジタバタしはじめた、しかもなんか今日はしつこいな、いつもなら引き下がるのに。
「分かったから!目を瞑れ!」
「ホントに!?」
「良いから早く!」
アオミは目を瞑った、ゴメンな、姉弟とかそういうのじゃなくて普通に唇には出来ないよ。
俺はアオミの前髪を上げて額にキスをした、アオミは半分怒ったような表情で睨んで来た。
「唇は無理、今ので限界だから」
「何で?姉弟だから?」
「チカがいるからだよ、相手が誰であれキスなんて出来る訳ないだろ。今ので罪悪感感じてるんだから」
「じゃあいけない関係になったって事?」
「オーバーに言えばね」
「……………弟との情事」
もうつこっむのもかったるくなってきた、情事って何だよ情事って、しかも半強制的にアオミがやらしたんだろ、なんかアオミと話してて疲れた。
でも、安らげる少ない居場所もアオミ、俺が守らなきゃいけないものがまた一つ増えた。