青とママさん
今日は25日、一日中チカといたいんだけど、アオミのをバックレたら後が怖すぎる、チカには悪いけど今日は昼だけで。
ツバサの家のインターホンを押すとすぐに走る足音が聞こえた、もの凄い勢いで扉が開いてツバサが現れる、一歩退いてなかったら今頃顔がまっ平になってたよ。
「なんだカイっちか」
「コテツじゃなくて悪いな。チカいる?」
「それが昨日の今日だから、部屋に篭っちゃって」
「二日酔い?それともそれ以外?」
「それ以外」
そりゃそうだよな、記憶があれば凹むよな、でもいつまでも凹まれてたら困る、今は一分一秒でも大事なんだから。
「入っていい?」
「良いけどまだ昼だよ」
「大丈夫、それが目的なら昨日あのまま一緒に帰ってるから」
「そっかぁ、なら良いよ」
ってかツバサは何を考えてるんだよ、まだ昼だよって、俺はそんな事ばっかり考えてるように見えるのかな?
俺はチカの部屋のドアを開けた、別にノックとかめんどくさいし着替中も無いだろ。
チカは布団を抱きながら噛んでる、泣いてたのか目が真っ赤でうるんでる。
「カイ〜〜〜」
「何泣いてるんだよ、今から外に行くってのに」
「怒ってる?」
「何を?」
「だから、き、昨日の…………」
そのまま口ごもった、何かイジるの楽しいな、もう少しチカをイジってから出ても時間は余るし。
「昨日の事?有り過ぎてどれの事だか分かんないんだけど」
更に落ち込んだ顔になって泣きそうになってる、俺はベッドに腰かけて後ろに手をつく、丁度チカを見上げる感じになる。
「みんなの前でキスした事?それとも俺を押し倒して、服を脱いだ事?それとも…………」
「ゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンゴメン!」
もう無いんだけどね、チカは布団を被って丸まってる、もう少しイジったら終りにするか。
「チカが無理矢理キスするから皆に見られちゃったもんな、それが一回ならまだしも何回もキスするんだもん、俺は酒飲んで無いから言い訳出来ないじゃん」
「ゴメン〜〜〜〜」
すすり泣く声が聞こえたからこれで終了、すでに可哀想だからな、半分嘘で半分本当なんだけど、これ以上時間を削ると俺が凹む。
「でもさぁ、今までの話が全部嘘だったらどうする?」
「え?」
「別にそんな恥ずかしい事はしてないよ、今までのは全部作り話、普通に酔ってただけだよ、家に帰ってからは記憶があると思うけど」
「キスは?」
「一回だけツバサとヒノリの前で、二人とも呆れてただけだけど」
“ゴツ!!”
殴られた、布団を思いっきりとって振り向き様に殴られた、せめてパーだろ、只でさえ力が強いからグーは無しでしょ。
「痛いって」
「うるさい。それで今日はアタシをからかいに来たの?」
「違うよ、夜はアオミのせいで会えないから、せめて昼くらいはチカに俺の時間をあげたいな、って」
チカの怒った顔が徐々に笑顔になった、チカは目に溜ってた涙を拭いてベッドを下りて俺の前に仁王立ちする。
「許す!」
「ありがたきお言葉」
「じゃあ支度しなきゃ」
「そうだな」
チカは何故か俺の前に笑顔で立ったまま、意味が分からないからとりあえず俺も笑顔を返しす、その瞬間頭に拳が落ちてきた。
「何だよ!?」
「女の子の着替えを堂々と見るつもり?」
「あっ」
「せめて覗け」
「大丈夫、覗きもしないよ、酒飲めば勝手に脱いでくれるんだもん」
「……………馬鹿」
チカは顔を真っ赤にして俺を部屋から押し出した、とりあえず俺はリビングのソファーに座った、ツバサもソファーに座ってる。
「大丈夫だった?」
「二発ほど殴られたけど」
「変な事言ったんでしょ?」
「当然!」
俺の自身満々の回答にツバサはため息をついた、そのため息と共に家の扉が開く音がした。
扉の前には派手な服を来た綺麗な人がいる、大人の色気というかなんというか、とりあえず綺麗の一言に尽きる。
女の人はバッグをリビングに投げ捨てて迷わずキッチンに行った、コップを取って冷蔵庫の水ついで一気に飲み干す、そしていきなり俺を見る、目が合って離せない、女の人は近寄って来て俺の顎を掴んで上から睨むように見る、顔が近くて香水と酒の匂いが漂ってくる。
「ツバサ、この男は昨日泊まったのか?」
「はぁ!?」
「違うよママ、コレはチカチカの男のカイっち」
「チカの男か」
「ツバサ、‘コレ’ってなんだよ‘コレ’って」
更にツバサママの顔が近くなる、角度を変えれば唇同士が重なるくらいの近さ、ツバサママは確かめるように顔を撫でまわす、その手付きがなんかいやらしい。
「良い男じゃないか、フリーだったら私が食べちゃいたいくらいだよ」
「ママ、チカチカの後はカイっちのお姉ちゃんが順番待ちなんだから、ママはその次」
「姉との禁断の恋なんて、若者、良い玉つけてるな。私も一時期は不倫に燃えたねぇ、あのギリギリの綱渡りが更にゾクゾクするんだよ」
ってかこの二人は俺の意思そっちのけかよ、勝手に色々と人生設計されてるんだけど。
「おばさんは……………」
「あぁ!?」
俺の一言でもの凄いスピードで胸ぐらを掴んで来た、しかもマイク・●イソンも裸足で逃げ出す顔で。
「カイっち、ママにそれは禁句だよ。因みにチカチカは‘ママさん’って呼んでる」
「ママさんはどんなお仕事をしてるのでしょうか?」
「よろしい。私は夜の世界で体を…………………」
そりゃそうだよな、女の人が一人で子供を育てるのは辛いもんな、なんか悪い事聞いちゃった気がする。
「なぁんてな、そんな顔するな若者。私はテレビ関係の仕事だ、そんな女の落伍的な仕事するくらいなら工場でも勤めてる」
この人はどんだけ俺をからかえば気が済むんだよ、それともチカのツケが回って来たとか?
それに‘ママさん’ってやっぱり夜っぽいよな、でもこの男っぽい喋り方でテレビ関係って、想像できない。
「ママさんは綺麗だけどいくつなんでか?」
「若者、女に歳を聞くのはセクハラだぞ」
「セクハラは業務上でしか適応されないですよ」
「口だけは達者だな」
「そうでも無いですよ、綺麗な人が目の前にいるから緊張してるんですけど」
ママさんは俺の頭を腕で固めて頭を拳で擦りつけた、胸がかなり当たってるんですけど。
「気に入ったぞ若者!私は30、ツバサは私が15の時のガキだ。若者、名前は何ていう?」
「やだなぁママったら、カイっちだって言ったじゃん」
「それはアンタが付けた、最低最悪のあだ名だろ、本名を聞いてるんだよ」
「四色海」
「四色?」
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
俺が四色って言った瞬間に顔が変わった、別にそこまでは気にならないけど。
チカはかなり長めの支度が終わって出てきた。
「何だチカ、これからデートか?」
「ママさんいたんですか、これからデートですよ」
「じゃあママさん、俺らはこれで」
「一発やってこいよ、じゃないと家に入れないからな」
「ななな、何言ってるんですか!?」
真っ赤になってるチカの手を引っ張って家を出た。