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白の弔い

ユキが消えてからかなりの時間が過ぎていった、おとぉは抜け殻状態で毎日を虚ろに過してる、おかぁは満面の笑を浮かべた遺影に話しかけてる、俺とチカは海にいるマミ姉の側で海を見てる、マミ姉はあれ以来海をずっと無表情で見てる、何も喋れないから波の音だけを一日中聞いて終わる事もある、最初の頃は話すと一応笑ったけど今は無表情のままだ。

今日はこの島にいる最後の日ということでサーフィンをやることにした、楽しむためじゃなくてユキの弔いだ、ユキがサーフィンする時に使ってたものを俺が使ってサーフィンをする、この道具達もご主人様を無くして存在価値を無くしたからな、俺が離れる前に使ってやらないと、それに四十九日の前にユキとサーフィンがしたかった。

「マミ姉、最高のサーフィンしてくるからちゃんと見ててよ」

俺はチカとマミ姉を置いてユキとサーフィンに出た、海は多少荒れてるけどこれくらいなら大した事はない、むしろ波が力を持ってるから乗りやすい場合もある、暫く波待ちをしてると良さそうな波が来た

「ユキ、行くよ」

俺はパドリングで波を捉えると同時に立ち上がった、その瞬間波じゃない何かに押された、多分ユキだったんだよな、俺はそう信じたかった、しかもいつもよりサーフィンが出来たし、ユキは海で生きてるよな。

浜に戻るとマミ姉が微笑んでた、その笑顔はユキが死んでからの表面の笑顔じゃなくて心の笑顔だと思う、そして何故か唖然としたチカがいた

「どうした?」

「今のサーフィン、ユキの癖とか、ユキ特有の上半身の使い方がそっくりっていうかユキそのものだった、ユキのサーフィン見てるみたいだった」

あの時の不思議な感じはそれだったのか、サーフィンやってる時、いつもとは違う感じがした、非科学的だけど俺は何だか気持ち良かった。


その日の日暮れ時、俺とチカは入り江にいた、この島に来ていろいろありすぎてこれなかったけど、最後くらいは見ないとな、ちょうど道が出来てきて入り江が朱に染まる

「ユキはこの海で死んじゃったんだよね?」

「あぁ」

「綺麗なのに……」

チカは悲しい顔をしながら笑った、綺麗な海なんだけど今は悲しくなる、大好きな海なんだけど今は恨めしくなってくる、ユキが愛した海だけど何でユキを嫌った

「カイ、泣いてる?」

「ゴメン、情けねぇよな、彼女の前で泣いちゃって……!」

気付くと今までに味わった事がない圧迫感が顔にあたった、それがチカの胸に抱かれてるって気づいたのは暫くしてからだ、始めての安心感に強く泣いてた、離れてチカを見るとチカも涙を流してた、チカの顔が徐々に近付いてきてチカがキスをしてきた、そのまま次は俺が強く抱き締めた、顔を離すとチカが思いっきり笑って涙を拭った

「ユキに見られちゃったな!」「あっ、そういえばそうだな、まぁ俺らも見ちゃったから帳消しだな」

何となくふっきれた、雪は海に還ったんだ、ユキカイの中で生き続けるんだよな、俺はそう信じる事でユキの死を乗り越えた。




今日でこの島ともお別れだ、あっという間だった気もするけど濃かった、フェリーに乗り込むと港からマミ姉が手を振ってた、マミ姉は学校を辞めてこの島で過ごすらしい、東京暮らしも寂しくなるな

「今度は俺らが戻ってくるから!待っててよ、ユキとマミ姉の分まで歐歌してくるから!」

船が出て甲板で潮風を感じながらチカと話した、人がそんなにいないから周りを気にする必要がない

「やっぱり外はきもちいい!」

「夏の暑い日でも潮風だけは涼しさを運んでくれるからな」

今日はいつもより暑いのに甲板は最高に気持良かった、冷房なんか比べ物にならないくらいに涼しい、でも俺らが通ってるこの海にユキが眠ってるんだよな、まぁいつまでもグダクダ引きずっててもユキが帰って来る訳じゃないし、ユキのタメに前に進まないとな

「何ニタニタしてんだよ?」

「別に普通だよ」

「そうは見えないけどな」

俺は空を眺めてたらいつの間にか瞼が重くなってきた、そして意識が飛んだ。


“ドスン!”

「〜〜〜〜〜!」

頭の上に何か重い物が落ちた、ってか首の骨が折れると思った、目を開けて見てみると俺のカバンだ、そんで目の前で笑ってるのはチカ、新手の目覚ましか

「おはよ!」

「……おはよう」

「ほら早く降りるぞ、もうアタシ達だけだよ」

「嘘!?マジで!」

俺は荷物を持って走った、そして船の端の方に行って気づいた、まだ海の上だ、港は見えるけど停まってない、完璧チカに騙された

「チカ、降りたらシャレになんないんだけど」

「へへへ、アタシの経験上カイを着いてから起こしたら遅いって事が分かってね、先手を打った訳ですよ」

右手の人指し指を立てて自慢気に解説してるチカにデコピンをしてその場に座った、なんだか必要以上にエネルギーを使った気分だよ

「イッタ〜!何するんだよ!?」

「お返し、人間焦ると必要以上にエネルギーを使うんだよ、そのエネルギー消費量を痛みに加算するとそうなる訳だ」

ムスッとしたチカをいじってると今度は本当に港に着いた、港にはコガネ達がいた、俺とチカは人がある程度降りてから降りた

「お出迎えありがとう」

「カイ、何だ、その〜、ご愁傷様」

俺とチカは顔を向き合って無言で審議会をひらいた、そして出た答えはユキの事だ、やっぱりみんな知ってるんだ、でも俺も多分チカも大丈夫だな

「もう大丈夫だよ」

「ホンマかいな?家族やろ?」

「ユキはシンミリしたの嫌いだから、島の人とかみんなブルーだから俺らだけでも明るくしてないとユキが可哀想だろ」

「なら良いけど。ミスは?」

コガネのミスっていうのはマミ姉の事だ、コガネは本人の前でもミスって読んでる、マミ姉は嫌がってないから良いんだと思うけど

「マミ姉は学校辞めたよ」

みんな驚いてた、俺はマミ姉の事を全部話した、どうせツバサがいれば遅かれ早かれバレると思うし、流石のコテツとツバサでも黙りこんじゃった

「別に気にしなくても良いよ、ショックによるものだからいつかは喋れるようになるらしいから」

「カイはなんでそんなに平気でいられるんだ?」

「チカのお陰かな?」

チカの頭に手を置いて笑った、あの時チカの前で泣いてなかったら正直きつかったかな、それに周りがあれだけ落ち込んでたら俺の落ち込む分まで取られたような気がしたし

「こんな所で話してたら邪魔だろ、うちに行って昼飯食べよ、荷物も置きたいし」

「そやな、行きましょか!」

コテツありがとう、みんなに同情されるのは嫌じゃないけど重い空気が嫌いなんだよな、コテツが明るくしててくれれば少しは変わるだろ。



家に着くとポストにはいろいろな郵便物がはいってた、ユキへの手紙が多い

「カイはん、まだココに住むん?」

「そうだけど、なんで?」

「いやぁ、樹々下はんも蘭はんもおらへんやろ、ちゅう事はチカはんと二人だけやで」

『あぁ!!』

俺とチカはフリーズした、ユキの事でいっぱいいっぱいで親達すら気づいてなかった、今まではユキとマミ姉がいたからどうにかなったけど、流石に二人だけはヤバすぎる

「……ヤバいな」

「チカチカ大丈夫?男は野獣だよ!危ないよ、なんなら僕の家で……」

ツバサ、ヨダレを垂らしながら言われたらツバサの方が危ない人に見えるよ、でも確かにヤバい、いくら彼女と言えども高校生にして既に同棲とは

「カイは俺んとこ来いよ、一人暮らしだからどうにかなるだろ」

「じゃあチカチカは僕の家に決定!」

「大丈夫なの?コガネは一人暮らしだからカイがいても邪魔じゃないけど、ツバサのところにアタシがいたら家族に迷惑だろ?」

「大丈夫だよ、僕ん家は母子家庭だしお母ちゃんは男の家を転々としてるからほとんどいないもん」

サラッと重い家庭内事情を言うツバサが凄すぎる、普通他人に遠慮して言わないものだろ、それをあんなに笑いながら

「とりあえず今日はこの家で過ごすよ、明日引越しね」

「ならチカちゃんが危ないから俺泊まるよ」

「チカチカ、野獣が二人もいたら危ないから僕がついてるよ!」

「ツバサがおるんならわいも泊まるで」

そして一同ヒノリを見る、ヒノリは呆れた感じでため息をついた

「しょうがない、私も泊まる」

結局全員泊まる事になった、全員でのお泊まり会って始めてだな、なんだか怖い、無事に終わるハズがないよこのメンツで、もしかしたら流血とか……、そんな事は無いと思うけど、この家で過ごす最期の一夜か。




ユキ、バイバイ

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