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コガネ達が帰って今は俺とチカだけだ、前に戻っただけなんだけど毎日が静かな感じがする、どこかがいつもと違うけど、どこかがいつもと同じな毎日、今日もサーフィンをするためにボードを取りに行った、風景は変わらないけど一つの変化が、ユキのボードだけ倒れてた、風が強かったりするとたまにあることだけど俺は何故か鳥肌が立った。

この事はあんまり気にもとめないで一日を過ごしてた、サーフィンも終わって夕日を見ようと思ったけど時間がかなりあった、それに今日はマミ姉とユキが帰ってくる事もあったから一旦家にボードを置きに行った。

ボードを置いて着替えようと部屋に向かう途中の居間、おとぉとおかぁが顔色を変えてテレビを見ていた、気になったからテレビを見てみた、番組はニュースだった

“……東京湾沖25Kmの所でフェリーと漁船が衝突し、衝撃により1名が海に投げ出され行方不明……”

俺は思考が停止した代わりに恐怖が襲って来た、テレビに写っていたフェリーはこの島に向かうものだった、しかもそれにユキとマミ姉が乗っているハズだ、本数が少ないから十中八九乗っているだろう、そして一人が行方不明、行方不明という文字が頭の中でユキとマミ姉を連れて行こうとしてる

「おとぉ、おかぁ、これユキとマミ姉じゃないよな?悪いけど別の人だよな?」

「分からねぇ、だけど儂らに出来るのは悔しいけど祈るだけだ、海の神様が海を愛してる二人を連れて行かない、それを信じるだけだ」

神様か、そんなものに頼った事は無かったけど、悔しいけど今は神様に祈るしか出来ない。


俺は部屋に入って着替えてチカと夕日を見に行く気になれなくて断ろうとした時だった、階段を走り上がる音が聞こえて俺の部屋の前で止まるとドアが勢いよく開いた、立ってたのは髪の毛を留めるのを忘れたチカだった、息があがってて顔色が悪かった、俺も人の事言えないと思うけど

「カイ、ニュース聞いたか?」

「あぁ」

「怪我人がいなかったらしいから別の船で帰って来るって!多分あと一時間くらいで着くんだって、行くだろ?」

「行くよ、二人とも帰って来ると思うけど」

空元気で笑ってみせた、今俺がチカに出来る精一杯の慰めだ、当然二人とも帰って来るって信じてるけど怖い、吐き気がするくらいにギリギリの状態だ、チカは堪えきれなくなったのか一気に泣き出した、今まで泣いてないのが不思議なくらいだっけど、やっぱりチカもきつかったんだ

「カイ、あ、アタシ怖いよ、……だって、だって……!」

俺は気付いたらチカを抱き締めてた、いつもより強く、今の俺の弱々しい鼓動が聞こえるくらいに

「俺も怖い、でも信じるしかないだろ、絶対に二人揃って帰って来るから」

暫くの間チカは泣き続けた、俺はただそれを見てる事しかできなかった。


俺らは港にいた、周りには俺らと同じような人が大勢いた、おとぉとおかぁとマミ姉の両親は家で報告を待ってる、大きい船が見えてきて元気な人は甲板から手を降っている、でもユキとマミ姉の姿は見えなかった。

着岸して駆け出して来る人、泣きながら出てくる人、疲れきって出てくる人、でもその中にユキとマミ姉はいなかった、最後に船の人に支えられて出てきたのはマミ姉だった

「マミ姉!」

「……カイ君、チカちゃん……、ゴメンね……」

そのまま黙ってしまった、マミ姉の状態、そしてこの状況を見て目頭が熱くなってきた、目の前が歪んで見えづらい

「マミ姉、ユキは?」

マミ姉は自分でやっと立っている状態だったけどその場に崩れた、俺はその時始めてマミ姉が泣いてるのを見た、そして俺の肩で声を上げて泣き出した、見かねてマミ姉を支えてた人が話かけてきた

「樹々下さんの知り合いですか?」

「家族です、ユキは何処にいるんですか?怪我でもして病院行ったんですか?」

「残念ながら海にいます、行方不明の状況です、海上保安庁が全力をあげて捜していますが……」

「おい、俺らに気を使わずに言えよ、ユキが生きて帰ってくる確率はいくつだ?ハッキリと明確にな」

「限りなくゼロに近いです」

自分で聞いておきながら後悔してる、マミ姉だけが降りて来た時に薄々気が付いていたけど、実際に聞くと絶望感に押し潰されそうだ、チカは俺の背中に顔を押しあてて泣いていた。



ユキが行方不明になって一日が経った、ほとんど寝れなかった、おかぁは一晩中泣き続けてた、おとぉはユキのボードを手入れしてた、二人とも生気が無かったのは確かだ。

俺もきつかったけど涙も出なかった、慰めにはならないだろうけどマミ姉の家に行った、一番ユキに依存してたのはマミ姉だったし目の前でユキが落ちたのだから、聞いた話だとマミ姉が落ちそうになったのをかばってユキが落ちたらしい、だからマミ姉のショックは俺が感じてるものとは比にならないだろう

「マミ姉はいますか?」

「マミコは海に行ってるわよ」

マミ姉のお母さんは疲れきっていた、多分マミ姉の事でだろう。

俺は考えられる海に行った、いつもサーフィンをしてる海だ、真っ白な砂浜にマミ姉が膝を抱いて座っていた、そしておもむろに立ち上がって海に向かって歩き出した、俺は走って追ったけど砂浜のせいで走りにくい、マミ姉を捕まえたのは深くなる一歩手前だった、ジタバタするマミ姉を抱き抱えて浜に戻した、その時に違和感を感じた、その違和感は最悪のものだった

「マミ姉!ユキは帰ってくる、その時にマミ姉がいなかったらユキは悲しむだろ、マミ姉が信じなくて誰が信じるんだよ」

「………」

「おい、マミ姉……?」

「…………」

マミ姉が失ったのはユキだけじゃなかった、言葉も失っていた、口を動かすだけで声は出ない、マミ姉は喉を押さえて悲しい顔をした、いくら声を出そうと頑張っても出てくるのは空気だけだった

「マジかよ、ありえねぇ」

「…………」

マミ姉は泣く気力すら無いらしい、儚く笑って切なく虚ろな目をした、神様ってのはどれだけ最低な存在なんだよ、ユキだけじゃなくてマミ姉の声まで奪っていくなんて。




一週間後、ユキの捜索は打ち切られた、事実上ユキは死んだ事になった、この世から‘ユキ’という存在は消えた、悲しいって感情はとっくに無くなった、今は苦しい、義理の弟とい事で慰めを受けるけど、どれもがトゲとなって突き刺さる、この島に来る前よりも親に捨てられた時よりも生きる価値観を失ってた、今俺がココにいるのはチカがいるからだ、チカがいなかったらマミ姉と同じ行動をとってただろう、マミ姉はあれから海には行くけど黙って沖を見つめるだけ。

人一人死んでも世界は変わらないと人は言うけど、みんながみんな世界を持ってる、だから俺の周りには世界が音をたてて崩れていった人達で溢れてる、俺もその内の一人だ。


ユキ、戻って来てくれよ、もう一回俺達の前で笑ってくれよ、もう一回マミ姉の心からの笑顔を見せてくれよ、もう一回一緒にサーフィンやろうよ、頼むよユキ。







樹々下雪、享年16歳、若き天才サーファーは愛した海に殺された

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