赤と星空
2日間、いつもこの時期は民宿の客入りがピークになる、だから俺らはお手伝いだ、今回はユキとマミ姉は参加してない、ってか島にもいない、二人は行ったり来たりしてる状態だ。
今回は厨房に俺とヒノリで他は接客だ、今回はサーファー客が多くて前に比べれば百倍楽だ、ヒノリは初めてだからいっぱいいっぱいだけど
「大丈夫ヒノリ?」
無言で頷く、俺にはギリギリにしか見えないんだけど。
忙しくてあっという間に終わった、夢中だったからか忙しかったかは分からないけど、終わったらドッと疲れた、俺らは一足早く終わったから外で休んでた、夏とはいえ外は涼しくて潮風が気持良い
「ヒノリ、飲む?」
「ありがとう」
買って来たジュースをヒノリに渡して隣に座った、厨房は異常なくらいに熱いから汗を思ったよりかいてるし、体力の消耗が激しいんです、ヒノリは女の子なのに良く頑張ったと思う
「きつかった?」
「うん、思ったよりも熱かったし、鍋も重いし、忙しいし、あと……」
「ゴメン、何時まで続く?」
「かなり」
あまりの愚痴の多さに途中で止めてしまった、自分でふっときながら後悔してる、まぁ去年の俺も同じような事を言ってたと思うけど
「ヒノリはコガネの事好きなんだろ?」
「ブッ!!」
ジュースを吹き出した、奇襲作戦だったけどここまで良い反応をしてくれるとは、しかもみるみるうちに顔が真っ赤になっていったし、無言で肯定してるようなもんじゃん
「好きなんだ」
「でも、コガネはどうか」
肯定はしないけど否定もしない、ほとんど肯定だけどね、にしてもホントにコガネと同じような反応してくれるな
「コガネはあんななりだけどシャイなのは分かってるだろ、だから自分から動かないと何も変わらないぞ」
「でも、どうやれば?」
「思うがままに、口に出さない程度に好きって事を伝えろ、そうすれば何か変わるんじゃない」
ヒノリは考えこんじゃった、俺は東京とは違う、押し潰されそうな星空を見上げてた。
ボ〜っとしてると後ろからチカとコガネが来た、接客も一通り終わったらしくクタクタな感じで帰ってきた、疲れてるのはコガネだけだけどな、チカは慣れてるらしくピンピンしてる
「お疲れ」
「カイ、キツ過ぎだぞこれ」
「ヒノリよりはましだろ、女の子なのに物凄い頑張ってたぞ、それにチカがピンピンしてるから情けなく見えるだけだし」
「うるせぇ、チカちゃんは鉄人なんだよ」
チカは少し止まったあとコガネを蹴った、チカのコンピューターは処理速度が遅いな、ヒノリはこのどたばたコントについていくエネルギーは残ってないらしい
「そういえばコテツとツバサは?」
「走ってどっか行った」
エネルギー有り余ってるな、コガネですらここまでなるのにまだそんな余裕があるなんて、愛というか馬鹿というか、とりあえず出どころの分からないエネルギーだな、でもまぁ俺もこの状況を生かさない手は無い
「チカ、俺らも走って行かない?」
「行く!」
実際歩いてるだけでも辛いけど馬鹿を演じるタメに走ってその場を離れた、コガネとヒノリのタメに俺らがどれだけ疲れた事か、勝手にやってるだけだけど。
夕日の入り江に行った、夜にココに来ることが無かったから新鮮で気持良い、静かだけど波の音が周りに反響してステレオに聞こえる、空を見上げれば満月だしそのまま海に視線を下ろすと月光の道が出来てる、更に天の川、泣きそうなくらい最高の場所だな
「……ヤベェ」
「綺麗……」
唖然、それ以外のなにものでもない、これを二人占めしてるとなると何だか申し訳ないな、でも誰にも教えないけど
「天の川か、初めて見たな」
「織り姫と彦星はいるかな?」
この状況でその馬鹿っぷりを晒すか、まずは7月7日について勉強してからだな
「7月7日にしか会えないからいないだろ」
「えっ!そうなの!?」
頼むからマジで驚かないでくれよ、チカを過大評価しすぎたな、でもこれ以上馬鹿に出来ないな、俺も詳しくは知らないんだよな
「可哀想だな、一年に一度なんて、アタシなら途中で死んでるよ」
「確かに」
「でも何で会わないんだろ、親の言いつけなら無視すれば良いし、天の川があるなら渡れば良い、もしかして天の川って激流なのかな?」
夢の無い話を、どうせ神様か何かが出てくるんじゃないの、こういう話って神様は悪役だな、信じるだけバカバカしくなってくるよ
「じゃあ俺は橋を架けてチカに会いに行くよ、それでもダメなら川を塞き止める、神様が邪魔するなら俺が神になる、余は何があってもチカを離さないと」
「神様に好かれた女か、カッコイイ」
何か違うけどまぁ良いか、でも彦星には成りたくないな、だからチカを織り姫にはさせない、一人よがりになっても……、一人よがりには成らないように頑張ろ。
次の日も同じように終わった、3日後には夏祭りを控えてる、チカの家の前に座って空を見てた、みんな疲れてるなりにテンションが高い、約二名は疲れすら感じさせない
「終わった!やっと終わった、皆はんもっと喜ばな」
「無理だよ、普通の人間は疲れるところだろ」
「アカンなぁ、わいらは高校生やで、高校生言うたらエネルギー有り余る年頃やないか、これくらいでへばってたら卒業する前に死ぬで」
コテツはどんだけハードな遊びをするつもりなんだろ、少なくとも俺はついていく自信も気合いも勇気もない、只ひたすらに放置するのみ
「コガネはんからも何か言うてやりぃな」
「頼むから休ませろ、ツバサ君も止めてくれ」
「男の子が情けないなぁ」
ダメだ、誰かこの馬鹿二人の暴走を止めてくれ、ってか俺らの側から退けてほしい、余計に疲れる
「しゃあないな、ツバサ、大人しくするか」
「えぇ、僕まだ遊び足りないよ」
ツバサにとってさっきの接客は遊びか。
空を眺めてるとチカがお盆の上にのせたスイカとかなり大きな袋を持って来た、俺は見かねてスイカを受け取りに行った
「言えば手伝ったのに」
「疲れてたから」
「大丈夫だって」
スイカを持って行くと最初にコテツとツバサが飛び付いて来た、その後無言でヒノリが二つスイカをとってコガネに渡した
「ありがとう」
「この亭主関白が」
小さい頃からこうだったのかな、だとしたら笑える、チカの持ってきた袋は多分花火だろう
「それ花火?」
「そうだよ、みんなでやろう」
「ホンマかいな!?花火なんて久しぶりやな」
ハイエナの如くコテツとツバサが群がって来た、中身は打ち上げ花火が8割の手持ち花火があとの2割だ、でも尋常じゃない量だから6人でも十分過ぎるくらいだ
「コテツ、ツバサ、海行くぞ、ココじゃ狭いだろ」
「ほな行きまっか!」
「コテツ、そっちじゃない、こっち」
逆に走り出そうとしたコテツを制止して順路に戻した、いつか迷子になるな、ツバサ共々。
海につくとやっぱり一番最初にコテツとツバサが花火を出し始めた、一つ出す度に感動の言葉を漏らした、疲れないのかな
「火、火は何処や?」
「僕達の愛で火が着くかもよ?」
「そやな……!」
コガネが見かねて二人の頭をグーで殴った、コテツはともかくツバサは女だぞ、まぁ俺も我慢の限界が来てたけど
「カイ、チャッカマン貸して」
「はい」
コガネは付属のロウソクに火をつけて砂に差し込んだ、近くにあった噴射型の花火に火をつけて遠くに置いた、暫くして緑やら赤やら青やら、色んな色の火花が出てきた、真っ暗な砂浜が一瞬で明るくなった
「綺麗やな」
「ほんとだぁ」
いつの間にかシリアスモードに入ったコテツとツバサがいた、落ち着いてて良いや。
恒例といっちゃ恒例の3ペア、コガネとヒノリは静かな手持ち花火と閃光花火中心に、俺とチカはチカが持ってきた様々な花火をしてる、コテツとツバサは噴射型の花火だけを選んで花火の周りをアフリカの原住民がしそうな踊りをしてる、怖い
「花火って儚いよな、あっという間に消えて無くなる、可哀想な人生」
「でも記憶に残る、儚くても記憶に残ればいいんじゃない、星だって今見てる星は死んだかもしれないんだよ、でも記憶には残る」
そっか、世の中には形に残るものと記憶に残るものの二つがあるんだな、形を大事にする人と記憶を大事する人、どっちも大事だけどどっちに頼り過ぎても良くない、人間って難しいな。
俺はチカを思い出にはしない、絶対に形のままで残したい