青の新居
青くて溺れそうなくらい深い空、春風で波のようにざわめく森、風に吹かれて蝶のように舞い上がる桜の花びら。
今は春、この島も明日でお別れ、夏休みには帰って来るとは思うけど、やっぱり名残惜しい、身支度をしてるとそとから聞き慣れた声で、聞き慣れた呼び出し方で俺を呼ぶ女の子が一人
「カイ!終わった!?」
俺の一番大事な人、チカだ、今この島の同級生はチカだけになった、みんなこの島を出ていった。
自分の支度が終わってチカの支度をしにチカの家に行った
「何で俺が手伝わなきゃいけないんだよ」
「良いだろ、どうせやること無いんだろうから」
かなり無理矢理な奴だ、多分みんながいなくなった悲しみを隠したいだけだろうけど、でも流石に最後の一人を見送った時は寂しかったな。
「じゃあ、明日、寝坊するなよ」
「当たり前だろ、起こしに行ってやるからな」
「言ってろ。おやすみ」
「おやすみ」
支度って言っても長話で終わった気がする、思い出話だけど、その話をしてる時のチカの目が寂しかった、いつも一緒にいた奴らは明日からはいない、そう思うと誰でも悲しいよな、俺も過去に更けながら明日に備えた。
「カイ!起きろ!」
「起きてるよ」
いつもと同じようにチカが来た、でもいつもと違う朝、下におりるとおとぉとおかぁがいた
「おとぉおかぁ、じゃあね」
「頑張ってこいよ!俺の息子なんだから最高の高校生活おくってこい!」
「めんどくさいから見送りは行かないから」
見送りもいつもの調子だけど、内心結構キツイ、血は繋がってなくても立派な親子だから、人並みの感情ってものがある
「ほら!チカちゃんが待ってるぞ!」
「そうだった。それじゃ、じゃあね」
おとぉとおかぁを背に家を出た、親から離れる辛さを始めて感じながら。
港に着くと調度船が来たところだった、この船が俺達の新しい一歩を踏み出す文字通り渡し船
「これでこの島とお別れだな」
「泣くなよ」
「大丈夫…のはず」
船に乗るといつものチカとは違って静かだった、100%とは言えないけど泣いてるように見えた、あの二人もこんな感じだったのかな、俺はいつものように寝るつもりだった。
「カイ、起きろ」
「起きてるよ」
目を瞑ったまま応える、どうしても今回は眠れなかった、チカに起こされるのが怖いってのもあるけど、他にもいろいろな感情があって考えてたら眠れなかった
「何だよ、起きてるなら言えよ」
「眠れなかった」
チカも元気になってるし、俺も整理がついたし、新生活の準備が出来た
「おりるぞ」
「ん?あぁ」
何度か来たことのある港だけど、いつもとは違う場所に感じられた、何度か乗った事ある電車だけど、いつもとは違う所を走ってるように思えた。
俺とチカは両親からの指名で下宿というか寮というか、とりあえず住む家を決められた
「チカ、住所どこ?」
「はい」
えっ!?嘘だろ?やっぱり間違ってない、俺の住所とチカの住所を何回も見比べたけど、全く同じだった、そう俺とチカは同じ所住むらしい
「どうした?」
「これ、俺の住所」
チカの住所と俺の住所を渡した、チカもフリーズした、そりゃそうだろ、いくらなんでも同棲だぞ、普通しないだろ
「一緒だ…」
「だろ、それに、着いたっぽい」
「ホントだ」
二人とも理解と整理が出来ないまま目的地に着いた、そこは極普通の2階建の一軒家だった、ホントに普通すぎるくらいの
「とりあえず入ってみる?」
「そうだな、カイも鍵あるよな?」
「あるよ」
家の鍵は開いてた、おそるおそる忍び込むように入った
「おじゃましま〜す」
“ドタドタドタドタ!”
「カイ!チカ!」
とりあえず驚いた、走って来たのは、白く短い髪で俗に言うイケメン(ジャンル分けするとジャニーズ風)で背が高い男がそこにいた
『ユキ!?』
「久しぶりぃ、元気にしてたぁ?」
「あら、カイ君とチカちゃん、遅かったのね」
長くて綺麗な黒髪にお姉さん系、ユキと二人でいると誰もが憧れる二人の出来上がりだ
『マミ姉も!?』
「これからみんなでココに住むんだってぇ」
「みんなで共同生活だって」
その後いろいろ説明をしてもらった、整理するとこうだ。
親同士が話し合って合意のうえで俺らの共同生活が決まったらしい、理由は知らない所に下宿させたりするよりはこっちの方がマシらしい。
部屋は2階に個々に部屋がある、廊下にはドアがあって奥がマミ姉とチカ、階段側が俺とユキ、ドアは女の子側からじゃないとロック出来ないようになってる。
生活費は仕送だけど、その他はバイトして稼げだって、俺の金もあるから何とかなるけど。
後は好きにしろとのこと。
こうして俺達の奇妙な新生活が始まった