空間少女とカトラス少女
新キャラ登場。以下、グダり。
――――そのとき、
「Bomb」
そんなような、声が、聞こえた。
―――閃光、そして衝撃。
後ろに吹っ飛ぶラグナ。なんとか地面への激突は免れた。両足と右手での三点着地をし、化け猿の行方を目線で追う。
「・・・あちゃー」
化け猿は木端微塵になっていた。文字通りバラバラに。元の生物がわからなくなるほど分解された化け猿の肉片を一瞥し、グロックを拾う。動作を確認。どうやらさっきの爆発はグロックには当たらなかったようだ。ああ、グロックちゃん無事でよかった。
「ラグナさんっ!!」
アリスの声が聞こえる。アリスも無事なようだ。
「ラグナさん、大丈夫ですか?」
「なんとか、な」
どうってことないという風に肩をすくめる。実際、ダメージはそれほどない。それより気になるのはさっきの爆発だ。はっきり言ってしまうが、あの爆発は直撃してたらなかなか想像したくないことになっていたに違いない。
いったい誰が?猿の自爆ではないだろう。あんなに爆発するんだったら今頃モンキーボムとして戦争で活躍している。
まさかとは思うがアリスが?そんな感じのことをアリスに聞いてみる。
「・・・はい、すいませんラグナさん・・」
肯定。そしてなぜか謝るアリス。
「うん?なにが?」
「その・・・まさかあんな大きな爆発が起こるとは・・・」
申し訳なさそうに目を伏せるアリス。
「ああ・・・まあ、気にすんなって。助かりましたよ」
危うく地面とキスするとこだったが。というのは黙っておいた。
周りを見渡すと他にも2つ程の小さなクレータと激しく損傷した猿の死体が。これまた派手にやったもんだ。気付かない俺も俺か。と、ラグナは笑い、隣でいまだにすまなそうにしているアリスに声をかける。
「依頼完了だ。助手よ、さっさと帰ろうぜ」
その後、農場のおっさんに報酬をいただき(なぜか野菜ももらった)帰路につく。
帰り道、アリスに自分の魔法に関していろいろなことを聞いた。
曰く、あの爆発の魔法は上手く制御できない。
曰く、あれは空間魔法であり、破壊魔法とは少しばかり違う。
曰く、自分はあんまり空間魔法は使いこなせていない。
曰く、というかそもそも魔法の基礎はあんまよくわからない。
などなど、アリスは自分でもよく魔法のことは分かっていないことがわかった。
「まあ、俺は絶望的ともいえる程魔法が使えんがね」
そう言って私は役立たずオーラを噴出させているアリスを慰める。ちなみに俺の魔法の才能がポンコツなのはキチンとわけがあるわけだが、まあ、今言うことではないだろう。
そんなことよりも、喜ばしきことがある。お金が手に入ったぜ!!いえい。なんかもうわくわくしてきた。アリスが来てからと言うものアリスの分のお小遣いという難題に悩まされ続け、苦悶の日々を送り、悶々としていた毎日。それともおさらばだ。ちなみに前回稼いだ大金は武器と弾薬とアリスの養育費の餌食となり消えてしまった。あしからず。
「そこの二人組。はい、ストーップ」
そんな帰り道。後は角を曲がり、真っ直ぐ進むだけのところで突然静止を求められる。それも少女の声で。
その声には聞き覚えがあった。
「またおまえか」
そう言ってラグナが振り返った先にはカトラスをこちらに突き付け、仁王立ちしている小ぢんまりとした少女の姿が。
「いえーい。お金チョーダイ」
少女は屈託ない笑顔をしながら金銭を要求してきた。無論、カトラスはこちらに突き付けられたまんまで。無茶苦茶だ。
「残念だが今日のお仕事は終わりだ、ロロネさん。お金が欲しかったら明日来い。労働をくれてやろう。あと、人と話すときは武器を降ろしなさい。なんでお前と話すたびにカトラスの切っ先とも対話しなきゃいけないんだ」
そう説教してやるとぶつぶつなんか言いながらカトラスを降ろした。ちなみにこの間アリスは困惑しっぱなしでキョロキョロしていた。
しぶしぶ自慢のカトラスを降ろす彼女の名前はフランソワ・ロロネ。ときどきこうやってカトラスを突き付けて金銭を要求する我らが「ストレイド・ショップ」の臨時職員。
「ケチだなー。今日稼いだんだろ?ちょっとくらいいいじゃんかー」
と、言うのは嘘で今回のように金をせびる困った小娘にお仕事を提供しているだけで。
「おーい、ラグナ―?」
間違いなく俺はコイツよりもコイツのカトラスと対話したことが多いな、うん。ラグナはぼんやりとそんなことをぼんやり考えた。
「・・・おい、聞いてんのか?」
「聞いてないし、やる金もない。あるのはお使いと子守りとお使いとお使いだけだ」
即座にラグナはそう答える。
「どうせまた金払わないで宿屋に居座ってたら追い出されたんだろ?」
コイツのことだ。また家出しているんだろう。全く、迷惑なことだ。
「・・・そうですがぁ・・ラグナには関係ないでしょ」
「大いにあるね。今だってそのせいで金をせびられてんだ。関係ないはずがない」
これで関係ないと言えたら俺は強盗にあっても関係ないと言い張れる。おや、衛兵さんですか。強盗ですか?ああ、物盗られちゃいましたが関係ないですよ。なんせ知り合いではありませんからね。そんな具合に。
「まあ、とりあえず家に帰ろうぜ。仕事も寝る場所もあるからさ。俺らは疲れてんだ」
「あ、そうそう。そういえばその女の子何者なの?まさか、報酬?」
ここでさっきから事態の進行に取り残されてるアリスに話題が。しかしまた報酬とは。こんなんが報酬だったら今頃俺は立派なハーレムを築いているだろう。ラグナは笑いを堪えながら思った。
「えっと・・・アリスです。ラグナさんと一緒にお仕事してます。・・・助手です」
答えないラグナの代わりにアリスが答えた。
「おおー喋ったー。すごーい。ラグナが人を雇ったんだー」
なぜか感激するロロネ。
「しょうがなくな」
「まあ、あれだね。助手歴は私の方が豊富だからね。わからないことがあったら何でも聞きな。アリスちゃん」
「おいコラ」
無視されるラグナ。そして急にロロネは姉御肌に。アリスの態度が随分と小さいから威張り始めたんだろう。確かに、ロロネの方が多分年上だしな。でもな・・・
「身長あんまし変わんないんだな」
ぼそっと致命的な一言を放つラグナ。
「いや・・・アリスのほうが大きい・・か?」
次々と無遠慮な呟きを重ねていくラグナ。当然、ラグナは辺りに流れる不穏な空気には気づいていない。
「やばいっ、絶対ロロネのほうが小さいわ」
意味不明な感動をするラグナ。――――直後、腹部に激痛が。今回の発言は無視されなかったようだ。
「いってえええぇぇっぇえぇぇぇ」
腹部を蹴られ地面でのた打ち回るラグナ。
「いこーアリスちゃーん」
そういってロロネはアリスを連れて行ってしまった。――――ラグナの家に。
――――数分後、なんとか復活したラグナは腹をいたわるようにゆっくり我が家へ向かっていた。
あの小娘マジで許さん。腹部を蹴るか?しかも思いっきり。しかも置いていく?普通?一人でのた打ち回ってて絶対俺変な子じゃん。何人か通ったからね、俺の横を。「あら、地面を転げまわって・・・大丈夫かしら?」とか「のた打ち回るとかテラキモスwww」とか絶対に思われてたから。通報とかされてたから。
弱った体を奮起させようやくたどり着いた自分の家。家の中から微かに少女達の話し声が聞こえてくる。どうやら仲良くなったようだ。
ラグナはそう思いなんとなく依頼が入っているポストを開いた。
ため込んだ依頼文はきれいに無くなっていた。ロロネかアリスが持っていってくれたのだろう。そんな空っぽのポストの中に、一通の便箋が。恐らく、アリスたちが家に入り、俺が苦しんでいる間に投函されたのであろう。
この便箋は見覚えがある。ラグナはそう思い便箋を手に取る。あて先は書いていない。送り主のところには達筆な字で、「ワンダフルボディ」と書いてあった。
しょぼくれたマスターと年寄り猫の一人と一匹が経営する店。
いかがわしい看板を堂々と構える店。
メニューは酒とまずい飯と命と金。
表にはできない「殺したい」を叶える店。
そんな店から手紙が来た。それが意味することはただ一つだろう。
「やっぱりな」
ラグナは中身を確認し、そう呟いた。