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0、傀儡、1、人形、恐怖、帝国、象徴、それらすべて


頑張りました・・・

いつもは2000文字オーバーしたら一話投稿としていたのに今回は4000文字になっていた罠。




ここにあるのは――――

零の物語。

臆病者の物語。

人形の物語。

――――すなわち、私。





目を開く。そこには、いつもの天井があった。重く、のしかかるような灰色をした天井。


窓からの月明かりだけがその部屋を照らしていた。

 円形の形をした簡素な部屋。個人の存在を象徴するものは一切なく、まるで牢獄のような空間になっていた。その中心に鎮座するベッドの上にこの牢獄の主が空を見上げ、横たわっていた。

 牢獄の主は美しい紫銀色の髪を持った少女だった。何も纏っていないその身体にはまるで少女を闇に引きずり込もうとしているような黒く、醜い鉤爪の刺青が刻まれていた。

 彼女は何も考えず、何も感じず、ただ、空を見上げていた。

――――コンコン。

扉が叩かれる。ひかえめな、けれどもしっかりとした音だった。

「エナクス様、陛下がお呼びです」

名前を、呼ばれる。身を沈めていたベッドから身を起こす。エナクスは無言で立ち上がり、産まれたままの姿であった自分の身体に衣服を纏い、扉を開く。

そこでエナクスは先ほど自分の名前を呼んだ従者と目が合う。

その瞳は哀しみを湛えていた。

――――セレナ。それがエナクスの従者の名だった。悲哀の瞳を持つ女性。エナクスにとってはそれが全てだった。


興味はあるが探究心は無い。

世話をしてもらっている恩はあるが親しくなる義務はない。

それになにより、考えるということは随分昔に無くした――――気がする。



 玉座の前まで辿り着いたエナクスは跪き、待つ。ただひたすら、その時を。

 目の前にある玉座には誰にもいない。それどころか謁見の間であるこの部屋にも誰一人として人の姿は見えない。

 エナクスがここに召喚されるときはいつもそうだった。伽藍(がらん)が支配する部屋にて無が鎮座する玉座へ跪き、彼女は待ち続ける。


「エナクス」

 声が、響く。それまで伽藍だった空間は、その声によって満たされた。

「帝都近郊の集落に企業の部隊が潜伏しているとの情報が入った。手順はいつもの通りだ。なにも、残す必要は無い。以上だ。行ってくれ」

 静寂が再び空間を支配する。不意に現れた声の主は現れた時と同じように不意に消えた。声の主が誰かはエナクスは全く知らない。知る必要はないし、そもそも知る機会がなかった。エナクスにとって思考するということは何よりも難しく、何よりも不可解だった。

 よって、彼女は行動する。思考を放棄し、考えるという責任を丸投げし、ただ、帝都の為の人形となる。それについて彼女が憂いることは無い。なぜならエナクスは思考を捨てたから。善か悪かもわからぬままエナクスは身を捧げ続ける。




両手に力を込めた。力が流れていくのを感じる。そして天高く「それ」を掲げた。

 

「それ」は鎌だった。農耕用の小さな鎌ではなく、黒く、大きく、禍々しい装飾が随所に施された大鎌だった。

 大鎌はエナクスの身の丈程の大きさを持ち、死が、地獄が、阿鼻叫喚がそこに在るかのような装飾が施されていた。


観賞用の武器。

上流階級の欲求を満たすために作られたオーダーメイド。

実戦ではまったくもって役立たず。

それがこの大鎌の始まりだった。


 だが、いつの頃からか魔法効果を持ち始め、さらに時が経ち、魔法効果が歪み、強大になり、幾人もの使用者がこの大鎌に殺され、名を「断罪者」と改められ、そして今はエナクスの手の内にある。

 太古の昔から帝都はこの武器を扱いかねていた。何人もの死者をだしようやく帝都は危険だと、我々には扱うことはできないのだと認識した。

 そうして封印した「断罪者」を再び甦らせたのがエナクスだった。


天高く掲げた「断罪者」を正面、何もない空間へと振り下ろした。



――――ゼロ、零、ぜろ、0、zero。

此処は零の空間。零が支配する歩みのない世界。此処の一歩は元の空間の百歩になる。千歩にもなる。一歩にさえなる。


時間が歩みを停めた空間。

零以外を知らない世界。

崩れかけの私。


「断罪者」の持つ力は凄まじかった。空間に干渉する力。空間と空間の狭間を裂く力。神に匹敵する力(・・・・・・・)を持っていた。

 別の空間を歩き、元の空間上ではありえない移動を行う。そして、この空間は1を知らない。未来を知らず、時がいない世界。だから、あちらとこちらでタイムラグが発生する。すると、世界は辻褄合わせにこの空間で起きたことをショートカットし、始まりと終わり真っ直ぐに繋げてしまう。

 要するに瞬間移動。それよりもさらに早い。視認はおろか、感じることさえできない。なぜなら始点と終点だけの移動だから。そこに瞬間なんて発生しないから(・・・・・・・)


 エナクスは歩みを止めた。エナクスは何もない空間に「断罪者」を振り下ろし、ゼロの空間を抜け出した。



 目を開く。そこについさっきまでいた零の空間ではなくなっていた。当然、謁見の間でもない。その代わりに現れたのは剣、槍、盾、様々な武具、張り詰めた空気、驚愕に見開かれた目、目、目。

 帝都にほど近い集落。おそらく彼らは企業の兵隊達だろう。

「おい、貴様・・・いったいどうやって現れた?」

一番先頭にいた男が訊ねてくる。おそらく彼がこの部隊の隊長なのだろう。

――――手順はいつもの通りだ。なにも、残す必要は無い。

エナクスは答える代わりに右手を前へ突き出した。質問をしたきた隊長へむけて。エナクスの右手を中心に魔法陣が展開される。瞬間、男が炎に包まれ後方へ吹き飛ぶ。あまりにも早い攻撃。回避不能の初撃。急激な事態の展開にエナクス以外の人間は皆、処理が追いつかない。

 後ろへ吹っ飛んで行った男は当然、即死した。所詮、人間が耐えられる衝撃などたかが知れている。エナクスにとって人を壊すことなど容易いことだった。

 隊長を失ったことにやっと気づいた部隊。突然現れた少女を敵と断定。隊列を整え戦闘態勢になる。だが訓練された兵隊たちにとって部隊を指揮するものがいるのといないのとでは戦力に大きな差が出る。指揮系統の乱れ。臨時の指揮官が命令を出すまでの些細な場の乱れ。



突然の会敵に動揺する者。

状況に追いつけず遅れをとる者。

怒りに我を忘れる者。

それらを束ねようとする者。



 一時的にバラバラになってしまった部隊。そこを突かないほどエナクスは愚かではなかった。エナクスを半円状に囲む形に展開した部隊の左翼に狙いを定める。先程隊長の男を葬った魔法を並列し展開する。瞬時に展開された八つの魔法陣から黒球が射出され、辺り一面が炎に包まれる。地を抉り、森を焼く。宵闇に静まり返っていた森の住人たちが突然の騒ぎにパニックになる。一個小隊を潰すにはお釣が来るような攻撃だったが部隊の大半は生き残っていた。だがそれも狙い通り。そのために狙いを甘くしたのだ。一気に殲滅するのが目的ではない。目的は隊列を崩すことと、畏怖を与えること。


――――手順はいつもの通りだ。


 いつもの手順とは、部隊の何割かを意図的に生存させ、本部に増援要請なり連絡なりを行わせ、終わり次第殺す。そういうものだった。反乱分子を叩き潰せるだけの戦力を持っていることの証明、恐怖と破壊の象徴として他を抑制するため、そのための手順だった。


 正面から複数の炎弾が飛んでくる。それを左右に回避し、回避の流れで飛んできた方向へ黒球を射出する。爆発の瞬間空間に僅かな揺らぎが見えた。どうやら、破壊系統と強化系統の魔術師が混合された部隊らしい。だがエナクスの魔法の爆破範囲に生存者はいなかった。

 エナクスの魔法「シュバルツ」は破壊魔法の上位に位置するもので熟練者といえども展開にはそれなりの時間を要する魔法だった。それ故に威力も絶大。破壊魔法同士の相殺はおろか強化魔法による防御も意味を成さない。本来「シュバルツ」をエナクスのように連射、あるいは並列展開することは至難の業だ。しかも、戦場という一瞬で命を奪われるような状況下では尚更だ。しかし、それを実戦において使用できるエナクスの魔力量は「断罪者」と並ぶエナクスの特徴であった。



 攻撃魔法部隊は全滅。近接攻撃を試みた数人も「シュバルツ」の餌食となった。残りは数名。小型の魔法陣が展開されている。どうやら通信をしているようだ。

「緊急事態発生!!こちらE大隊所属i分隊!現在敵と交戦中!座標はM1Y28・・ぐっ・・・はっ・・!?」

通信が相手に届けばもう問題はない。エナクスは「断罪者」で本部と連絡中の男にとどめを刺した。深々と胸に「断罪者」の大きすぎる刃が埋まっていた。ごぽっ・・・と刃を引き抜いた身体から生命がこぼれだした。周囲にいた人間たちは何が起こったがわからない様子だ。なぜなら、先程まで10mは離れた地点に彼女がいたから。いくら化け物でも一瞬では到達できない距離だと信じ込んでいたから。彼女は瞬間すら置いていくような移動をできることを知らなかったから。

そのままエナクスは周囲にいた恐怖に怯える数人を「断罪者」で引き裂き、部隊を全滅させる。



エナクスは天高く「それ」を掲げた。

――――やるべきことは終えた。ここに長居する必要は無い。

そして、エナクスは天高く掲げた「断罪者」を正面、何もない空間へと振り下ろした。

そして、エナクスは消えた。

地を抉り、空を焦がし、畏怖と恐怖を与え、容赦なく焦がし、爆散させ、引き裂いた人々を置いて。

なんの感情も抱かないまま、なんの言葉も残さないまま、消えた。




――――あなたはだぁれ?

私は人形。

私は傀儡。

私は破壊。

あるいはその象徴。

思考を無くし、

感情を捨て去り、

記憶を失い、

意志を腐らせ、

自己を放棄した伽藍。

それが私、私の一部。または全部――――





                   私、わたし、ワタシ。

                それは私にとっては無意味なもの。

               もしくは全てにとっても無意味なもの。

     0と1の境界線上にて「ワタシ」あるいは「すべて」は、唯一絶体を求め続ける。









この子には苦労させられました。

「思考していないことを思考する」なんてバカみたいなことはもうしない!!

そうおもいましたとさ・・・

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