銃
やっとこさ戦闘です。
前方を睨む。
ここは獣のテリトリー。
かつて人の地だったところ。
今は獣の地と化したところ。
ここでは獣の掟が全てを支配していた。
神が人類にもたらした英知はここでは無意味だった。
――――3、4匹。
流石は獣。人間なんかよりもテリトリーを侵されたことに気付くのが早い。そして獣は賢い。恐らく視界外にも数匹潜んでいるだろう。視角外から襲うため、そして何より自分たちの狩場にやってきた愚かな人間の最期を見物するため。
蓬色の体毛を生やした猿のような化け物。まあ、体格は猿の何倍もあるが。それになによりも黒いクリクリした目が3つある。うぇえ、キモすぎる。
この化け物名前なんつったっけな?別にいいか、なんでも。よし、猿だ。化け猿。いい響きじゃん。
ラグナは、勝手に猿達を命名すると意識をその「化け猿」に集中し始めた。
――――ガアァァルル。
地の底から響くかのような低い唸り声。それが、始まりだった。
一斉に化け猿共が突進を開始する。
とりあえずは4匹、こちらに向かってくる。
完全にビビってしまったアリスを残し、ラグナは一歩づつゆっくりと前へ進んでゆく。
彼我との距離は10m。ラグナはそこまで来てようやく足を止めた。そして、ポッケに突っ込まれていた両手を出す。
その手に握られていたのは、「銃」だった。
遠い遠い昔、人が人を殺すために作られた武器。
いかに簡単に、安全に殺すか、それを追求し続けた武器。
凄まじい威力と圧倒的な射程を持つ旧文明の遺産としての武器。
今の時代には耐えきれず、自壊してゆく使い捨ての武器。
G-18。ラグナの持つ銃はかつてそう呼ばれていた。
重量約700g。有効射程50m。セミオートから、フルオートに切り替えられ弾丸をばら撒くことができる自動拳銃。
弾丸はフルメタルジャケット弾。弾芯と呼ばれる部分が金属で覆われている貫通性の高い弾を使っている。
「バイバイ。化け猿」
愚直にも真っ直ぐに突進してくる2匹を、狙う。
引き金を引き、撃発。銃内部の撃鉄が落ち、撃針が押し出される。薬莢底部にある雷管がそこに触れ、薬莢内の火薬が急速に燃焼。その燃焼ガスによって弾丸が高速で押し出される。
――――ダンッダンッ。
左右交互に発射。セミオートで。正確に、一発ずつ。
銃口から飛び出した弾丸は突進してきた化け猿の頭めがけ高速で飛んでゆく。
――――着弾。
化け猿の眉間と出会った弾丸はその身に持つ運動エネルギーをあますことなく化け猿へと伝え、そのまま猿の頭蓋を貫き、脳組織をぐちゃぐちゃに掻き回して、もう一度頭蓋を貫き飛び出す。
撃たれた化け猿が、倒れる。一匹は後ろへ派手に脳髄をぶちまけながら。もう一匹は頭を撃ち抜かれてもなお、数秒走り、崩れ落ちるようにして。
――――あと2匹。
セミオートからフルオートへ切り替え、右からの化け猿の突進を回避する。突進を回避され、完全に隙だらけの猿を穴だらけにしようと左足を軸に回転し、猿の背中へ体を向けようとする。が、目の前にもう一匹が現れ、拳を振りかぶる。
「――――くっ」
咄嗟の判断で次の準備動作に入っていた体を半ば強引に後ろへ下がり、間合いから出る。
人間の頭ほどの大きさの拳が目の前まで迫り、止まる。
腕の長さ、足の踏み込み。それらから相手の間合いを瞬時に読み取り、ギリギリ届かない位置へ移動する。届きそうで届かない。そんな距離に。
――――――ガガガガガガガッ
攻撃をギリギリで躱され、バランスを崩した化け猿にありったけの弾丸を浴びせる。
生命が停止したのを確認し、一歩後ろへ下がる。
その刹那、ラグナがさっきまでいた場所に化け猿の丸太のような足が飛んでくる。
足が飛んできた方向へ体をひねり、弾をばら撒く。
全身から血を噴き出し、化け猿が崩れ落ちる。
たったこれだけ。これだけの時間で人間一人では到底かなうはずもない化け物を葬り去ることができる。それほどまでにこの旧文明の殺戮兵器は強力だった。
「ふぅ」
終わった。ラグナはそう思い、気を抜く。あと何匹来るかはあの化け猿共のプライド次第だな。
恐れをなして逃げ出してくれるのが一番楽なんだが。
アリスのところへ戻ろうと振り返ろうとする。そして、背後から殺気が噴き出すのを、感じた。
後ろからの攻撃。完全に視覚外からの不意打ち。
無理矢理体を動かし、なんとか回避する。だが、そのときにG18を落とした。まあ、落とさなきゃ致命傷はくらっていた。しゃあない。
化け猿の足元に落ちたG18。こいつを殺さない限り回収は不可能。だけども武器はない。逃げてもいいがこいつが道をふさいでいるからアリスを置いていくハメになる。それは却下だ。
――ならば・・・――――ラグナは考える。そして全身に力を込める。集中を始める。――――コイツと戦うしか、ないか。
無論、普通の人間ならば確実にあの世行きだ。
自嘲気味にラグナは笑う。
そう、普通の人間なら、死ぬ。でも、俺は違う。
一発で人間を葬り去ることができるような攻撃が繰り出される。
全て回避。一瞬でも判断を誤れば死ぬ。そんなような回避を何度も続ける。
クソが!ちくしょうそろそろこっちからも仕掛けなきゃな・・・
ラグナは焦っていた。
――――早く、アリスのところまで行かなければ・・・
当然隠れていたのはコイツだけではないだろう。しかし今のところ俺のところにはコイツしかいない。となると残りは当然アリスのところだろう。いくら魔法が使えるといっても所詮は子供だ。長持ちするとは思えない。
こんな雑魚から、人一人守ることすらできないなんて・・・そんなのは、御免だ。
回避しつつ取り出したナイフで首を狙う。
確実に攻撃を避けながらカウンターのタイミングを計る。
左手でナイフをきつく握りしめる。
――――今だ。僅かに重心がずれた。ほんの一瞬の小さな隙。
瞬時に相手の懐へ入り込み、化け猿の喉元めがけナイフを持った左腕を振り上げる――――
そのとき
「Bomb」
そんなような、声が、聞こえた。
というわけでラグナの持ってる銃の説明回でした。