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悪夢

今回は残酷描写を含みます。

苦手な方は回避してください。



――寒い。

「ほら、――――。なにしてんの。今日は父さんの仕事手伝いに行くんでしょ」

 姉さんがそう語りかけてくる。

「そうだけどぉ・・・今日は寒いぃ・・・」

 俺の口から言葉が紡がれる。

 けれども、体は動かない。思うように喋れない。なぜなら、夢だから。なぜなら、記憶だから。既に終わった物語だから。

 幾度も見た悪夢。10年前の記憶の世界。

――寒い。

 どうしようもなく体が寒い。震えが止まらない。

「まったく、――――は寒がりだな。そんなんじゃ強い男になれないぞ」

 父が優しく語りかけてくる。

 優しかった父さん、強かった父さん、今は、もう話すことができない父さん。

――怖い。

 この先を見るのが、この先を聞くのが、この先に進むことが。

 だが、悪夢は終わらない。今まで終わったことはなかったんだ。終わるわけがない。

 この先に何が起こるか俺は知っている。そして、それはどうあがいても止めることはできない。なぜならこれは過去の出来事だから。既に起きてしまった事象だから。



母が朝食の準備をしている。

父は仕事の準備をしている。

姉は8歳の俺の手を繋いでいる。



 朝食を食べ終え、父は仕事に行く。姉さんと俺は父さんの手伝いだ。いつもなら母さんと留守番だが、今日はなんの気まぐれか俺を連れてってくれるらしかった。嬉しかった。昨日の夜は楽しみすぎて眠れないくらいに。

「いってらっしゃい――――も今日ちゃんと頑張るのよ」

 母さんにいってきますを言い、姉と玄関にいる父さんを追いかけに行く。


――やめろ。

 醒めない悪夢に言う。言い続ける。

――――やめてくれ。

 けれど言葉にはならない。夢の中の俺は姉の背中を追うのが精一杯だ。叫べるのならば叫んでしまいたい。目を閉じれるのならば閉じてしまいたい。できるのなら、その場にしゃがみ、耳を塞ぎ、叫び、目を塞いでしまいたい。そう願っている間にもかつてあった幸せは深い奈落へと歩みを進めてゆく。闇の深く深く、光なぞ望めぬ絶望のその先に。



――――そして突然、足元に魔法陣が展開される。


やめろ・・やめてくれ・・・


――――誰もそのことに気付かない。父も、母も、姉も。俺すらも。


やめろ。


――――幼い俺が姉に追いつく。


やめてくれ。


――――幼い俺の手が姉の手を掴もうとする。伸ばした手が姉の手のひらに触れる――――瞬間、世界が暗転する。視界が赤に染まる。聴覚が絶叫で塞がれる。意識がひび割れ、崩れ落ちる。



 赤、赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤




単一色で視界が塗りつぶされる。



腕が、足が、指が、

身体のあらゆる末端が捻じれ、千切れる。

骨が意思を持ったかのように暴れだし、肉を突き破る。

内臓は燃えたかのように熱くなり、溶け出す。

意識は(やすり)で削られ、零れる。



 掴もうとした姉の手は既に無く、姉は胸から骨が突き出し、開いた傷口からてらてらとぬめる内臓を覗かせ床に転がっていた。

 母は既にいなかった。「いってらっしゃい」と言って優しく微笑んでいた母がいた場所は醜く異様な肉塊潰れて置いてあるだけだった。

 父は玄関にいた。身体は半分溶け、首と胴はつながっていなかったが父だった。


 死に物狂いで家を出た。右腕が千切れかけ、足の指が全部取れてしまったが関係無かった。見たくなかった。今までずっと一緒にいた。これからもずっと一緒にいるはずだった家族がいなくなることを。あそこにいることは耐えられなかった。信じたくなかった。優しい姉が、おおらかな母が、強い父が、目の前で崩れ、苦しみながら生命が裂けていくことを。

 外に出たとき、もう逃げ場はないことを悟った。もちろん、この徐々に体が崩されてゆく地獄が終わることはない。そんなことは小さい俺なりに理解はしていた、と思う。

 逃げ出したかったのは、「幸せの終わり」だ。今になって、そう思う。

 でも逃げることはできなかった。家の外は地獄だった。幸せなんてもうどこにも残されていなかった。


右も、左も、前も、後ろも。


 どこもかしこも苦しみで溢れていた。

 人は、もういなかった。いるのは苦しみ痛みに震える肉塊だけだ。


腕が、指が、頭が、内臓、骨が、脚が、目玉が。


 そこらじゅうに転がっていた。

 溶けて崩れた肉もあれば、血を勢いよく吹き出す肉もあった。


空は青く、清々しく。地は赤く、穢されていた。


 血の匂いが充満し、嗅覚を麻痺させる。どこからか火の手が上がり、煙が目に沁みる。断末魔、そう呼ぶことすら生温い叫びが聴覚を支配する。徐々に破壊される自らの身体が、自我を喰らう。

 泣いていた、と思う。叫んでいた、と思う。この理不尽さに、迫りくる死への恐怖に。でも、わからなかった。意識が点滅し、精神が破壊されていくこの状況では、ただ理不尽に与えられる苦痛を享受する以外選択肢は無かったから。ただひとつわかることは自分の瞳から流れているのは涙ではなく毛細血管から滲み出る血だった。


瞳から血を流し、痛みに叫んでいた俺は、首の骨が、軋む音を聴きながら、地面に、倒れた。




―――っ!!自分の名前を叫ぼうと大きく口を開く。そして、自分の名前を忘れてしまったことを思い出した。




「――――はあぁ」

 ため息をつきながら起きる。これで何回目か。さすがに叫び声をあげて飛び起きることは無くなった。慣れとは恐ろしいものだ。

 そして、涙を流していることに気付く。いつものことだ。涙をぬぐい布団から出る。

 悪夢――ってか過去の傷を抉られているだけだが――は不定期にみてしまう。

 最初の頃は心が壊れそうな複雑な感覚に襲われたが、今はもうそんなことも無くなった。今は悪寒と黒く、ドロドロとした憎悪が溢れてくるだけだ。

 まるで、自分の中にもう一人の自分がいて、あんな地獄を味わったのに、のうのうと平和に生き延びている自分を地獄に引き戻すかのように襲ってくる。


いつもは感じない感情。

思考を完全に焼き尽くすような暗い憎悪の炎。

暗く、粘っこい願望を喚起させる感情。

復讐を願い闇の底へ引きずり込まれるような黒い炎。


 俺は別に、復讐の為に生きてるわけじゃない。

 やりたいことはあんましないが、そこそこ充実した生活はしている。

 幸せとははっきり言えないが、不幸ではないとははっきりと言える。

 だが、こんな夢をみているせいで、独立傭兵となって憎しみの対象探し出すことも始めちまった。

 復讐なんかして家族が、村が、あの日の幸せが戻ることはないだろう。そんなことはわかっている。ましてやみんなが喜ぶはずもない。逆に叱られる。それもわかってる。

 でも、でももう喜んでくれる家族も叱ってくれる家族もいなくなってしまった。すべてきれいさっぱり闇の中へ捨てられてしまった。

――――ならば、もうなにも戻ってこないのなら、果たして憎しみを我慢する理由があるだろうか?幸せを一方的に奪われ、理不尽に殺された者の仇を生かしておく意味があるのだろうか?



――――あるはずがない(・・・・・・・)



 そう、あるはずがないのだ。間違えていることも、だれも喜ばないことも知っている。

 それでも、俺は暗い暗い憎悪に、粘着質な殺意の沼に、身を浸す。



 だが、アリスという女の子がやってきた。いきなり助手とか抜かした小娘だ。コイツがいると激しく忙しい。なにするかわからないし、勝手にどっかに行っちまう。コイツは真正ののアホだ。

 4日一緒にいてそれだけはわかった。

 わからない。まったくわからない。なぜアリスを助手にしてしまったのか、アリスがなぜ俺にくっついてくるのか、本当にわからないでも、とりあえず楽しくなってきたのは事実だ。

 ただ一つ分かったのはコイツといると夢なんかみてる暇がなくなることだ。







主人公の名前は仮名なんだよーっていうのに一話分つかっちゃいました(笑)

はぁ・・疲れた・・・

途中でカフェインが切れてましたww

文がおかしかったりしてたらごめんなさい><


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