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酒場

――眠い。いやホントに。


 さすがにやりすぎたか。うん、やりすぎたね。日が昇るまでに森を走破しようなんて思った俺。本気出しすぎたわ。お前のせいでこんなヘロヘロになんなきゃいけなかったんだ。いやでもキツイか…野宿は。

 いやいや、そんなことはない。そもそもなんで急いだんだっけ?あれ?思い出せん…

…そうだ、これもあれもあの(ry


 指定された酒場まで行く道中ずっとそんなことを考えていた。なんせ思考がまとまらない。だからおんなじことを考える。

 商業連盟ギルドの中央広場。そこをひとつ曲がったところにある人通りの少ない路地。小さな酒場。

 客が来ることをまるで考えていない趣味の悪い看板。その名も「ワンダフルボディ」ね、なんか入りにくいでしょ。

 まあ、でも中はフツーの酒場なんですけどね。いかがわしい匂いがプンプンするくせに店内にはしょぼくれたマスターと年寄り猫の一人と一匹しかいない。

 なんかだか知らないが漂う残念臭。でも気にしない、めげない。マスター、さすがです。


「やあやあ、意外と早かったね。傭兵君」

 狭い店内に女の声が響く。

「久々の高収入の仕事だったんでね。やる気が湧いたよ」

「へぇ、前回頼んだ仕事が遅かったのは報酬が少なかったからか」

 ニヤニヤしながら女が喋る。

 軽く肩をすくめやりすごす。安い仕事でもないよりはマシなんでね。依頼主は多い方がいい。

「それで…『小包』は?」

 やれやれ、せっかちな女だ。コートのポッケから女の要求する『小包』を取り出す。

 ただの、ガラス玉。ビー玉程度の大きさの。



報酬金額210万ギルした大掛かりな仕事の結果。

レーオレ・ダムが奪いたくなった代物。

18人の命よりも重かったガラス玉。



「正直、コイツにそれほどの価値があるとは思えんがね」

 そう言って、女に投げ渡す。

「コイツは大変な代物だよ。コイツを上手く使えば金ならいくらでも手に入る。コイツがあれば街をひとつ簡単に消せる。コイツがあれば世界を手に入れられる。…まあ、君には関係のない話だよ。コイツを欲しがるのは大抵同業者だ」

 そう言って女は隣の部下とおぼしき大男にガラス玉を渡す。

 そして報酬をテーブルに乗せる。そうそう、これが欲しかったんだ。

「君を雇ってよかったよ。ラグナ君」

「そりゃ、よかった。是非ともお得意様になっていただきたいね」

 報酬をポッケに突っ込み立ち去ろうとする。

「そう急ぐなよ。夕食を一緒にどうだい?仕事の成功を祝って。おごるよ。ここの飯じゃあそんなにいい気分にはならないだろうがね」

 ありがたい。今夜の食費が浮くらしい。今の俺の財政状況は豊かだが来週日後にはどうせすっからかんだ。ここの飯はお世辞にもおいしいとはいえないが、今のうちに節約しておこう。嘘、今だけ。

「ラミルさん、アンタ、天国いけるよ」




 依頼主の女の名前はラミル・カルーア。この商業連盟ギルドの中、武器、魔法具を専門に扱う企業の若き社長さんだ。

 連盟を作った大企業には及ばないが、そこらの武器屋などにはそこそこ入っている。

 新進気鋭の企業。その代表。

 企業とは大きくなるにつれ、次第に闇を持つようになる。暗殺、諜報、強奪、妨害。これらを人々には見えない深く、暗い闇の底で互いに行う。



他を監視し、

他を抑制し、

他を妨害する。

だがけっして潰し合いはしない。互いに最小限のリスクで最大の効果を引き出そうと踊る。

そんなバカげた闇の底。



 ラミルの企業「カルーアミルク」はその闇に積極的に飛び込んだ。そっちの世界―俺から見たらこっち側の世界だが―では有名だ。

 年齢は聞いたことはないが恐らく30前半だろう。いや、俺は興味ないけどね。ワンダフルボディ、店名譲った方がいいんじゃないっすかね、マスター。

 とある情報屋から紹介をしてもらった、初めての裏としての依頼主。そんなやり手のワンダフb…もとい社長さんが酒を勧めてくる。未成年なんでキッチリ断る俺。偉い。



 ほんの半年前に裏の世界の通貨、「情報」を扱う人物から紹介された独立傭兵。

 この時代、傭兵自体は珍しくない。だが、独立傭兵、そういう傭兵はなかなか珍しい。通常、傭兵とは簡単に仕事を選べる専門のギルドに所属するものだ。そこであればギルドに依頼文を送るだけで依頼のレベルに応じた傭兵がその仕事をこなし、報酬もギルドに送るだけで済む。わざわざこんな所に出向き、報酬を払う必要はないのだ。

 だが、それは表の世界での話。ギルドは正規機関であるが故の2つの欠点がある。

 第一に傭兵の専属化の禁止。これでいくら金を払っても安定した戦力を得ることができなくなった。第二に機密に関わることは一切頼めないということ。公の機関故の欠点。

 その2つが独立傭兵を私が雇う理由。大企業になれば相応の部隊でも作れるがいかんせん人がいない。

 そして、もう一つ、ラグナ・ストレイドを雇う理由がある。

 それはその容赦のなさ、彼は無駄な殺しはしない。目標以外なら極力戦わない。よく闇に身を潜めてい

る殺人狂とは違う。だが、それが目標となれば話は別だ。たとえ相手が泣こうが叫ぼうが、命乞いをしようが、年寄りだろうが子供だろうが、容赦はしない。慈悲も懺悔も与えずに、等しく生を終わらせる。



それは悪であり。

彼は狂気であり。

それは善であり。

彼は完全に正気だった。



 今回の仕事がまさにそうだろう。

 『小包』を取り返す。ただそれだけの内容の依頼なら彼は最低限の見張りしか殺さず、帰ってきたこと

だろう。

しかし、「警告のために敵を全滅」この一言が加えられただけで彼は18人全員を、殺した。

 まったく、大したやつだよ。金か、なにかそれ以外か、そんなことは知らないがそれなりの欲望なりなんなりなければこんなことはできまい。

 まあ、まっとうな奴なら第一傭兵なんざやっちゃいない。覚悟でいったらそこらのやつらとどっこいどっこいか。なんにせよウマは合うんだ。楽しく仕事をやっていこうじゃないか。

 一回目は断られたが、もう一度酒を勧める。おまえは煙草を吸ってるんだ。

 今更、未成年だや不健康だなんて言うなよ。だからおごりだって。よしよし、いい飲みっぷりだ。





「ちっくしょう…あの女…」

 ぐわんぐわんする。なにがって?

 そりゃ世界が。地面も夜空の星々もあの家もこの家もだ。調子に乗った。酒はやっぱダメなんだ。もう断ろう。ちゃんとジュース頼もう。

「…っつうぷ」

 やばいなんか気持ち悪くなってきた。せ、せめて、せめて宿までは帰らねば。野宿が嫌で頑張ったのにこれじゃあ意味がないじゃないか…




「――――ってんだ――」

「―――――」

「――じゃねえ―――」

   

 前の方でなにやら喋り声が聞こえる。よくは聞こえないが雰囲気はいいムードじゃなさそうだ。ナンパとかか?こんな深夜にご苦労なこった。そうじゃなきゃ酔っ払いに絡まれたか。どっちにせよ関わらないのが吉だ。ああ、早く宿に行って寝てしまいたい…








主人公の仕事の大体の説明でした。

多分、謎だらけだと思いますが、ゆっくり少しずつ説明していきたいと思ってます。

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