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依頼

久々の更新。テスト終わりから完全復活。次回は早めに更新したいぜっ(キラッ


「へえ、暗殺ね・・・」

「そう、暗殺です」


 

 

 


 

 帝都商業連盟ギルド中央広場から一つ曲がった小さな酒場「ワンダフルボディ」の奥のテーブルにラグナはいた。依頼が来たことを告げる手紙を受け取ってすぐラグナはここに来ていた。アリスと店は既にラグナの殺し稼業のことも知っているロロネに寝泊りを条件に任せてきた。

 依頼者はすぐにやってきた。真っ黒なフードを目深に被った女性だった。まるで修道女のような風貌の女は、マスターに一言二言喋る掛けると店の奥のテーブルを陣取り暇そうに煙草をふかしているラグナのもとにやったきた。

――――つまらないな。ラグナは近づいてきた依頼者の瞳を見るなりそう思った。つまらないから依頼を蹴るなんてことはしないが、表には頼めないようなことを頼むんだからもう少し面白くてもいいのに。単一の感情に染まりきった瞳。悲哀、悲愴、哀愁、彼女の瞳はそんな感情に埋め尽くされていた。いかなる内面の読み取れない、そんな奴らよりも遥かにたちが悪く、つまらなかった。


「貴方が、ラグナ・ストレイドさんですね?」

  唐突に、女が訪ねてきた。

「その通りです。では、あなたが今回の依頼主さんですね?」

 殺しを望む者と報酬を望む者とのお決まりの確認をする。

「どうぞ、お掛け下さい。どうせ、長くなるんだから」

「では、お言葉に甘えて」


 そう言うと彼女は素直に席に座った。こういう類の依頼は総じて話が長い。報酬の設定から依頼の詳細な説明。語ることはたくさんある。なかには自分がこういう依頼をするまでにあたった長い道のりを語りだす輩もいてけっこう困る。立ちながら個人の怨恨の話なんか聞きたくない。

 ラグナも席に着き新しい煙草に火をつける。


「初めまして、私は帝国第三監査部隊第七課所属セレナです。今回、帝国にとって非常にデリケートな案件を処理するために依頼を出させて頂きました」

「・・・帝国?」

 吐きだした煙越しにラグナは少し目を細める。


 ここは非公式の殺しを扱う場だぞ。公式の存在である帝国ならば、本来は取り締まる側であるはずなのになぜだ?

 そもそもなぜ自分が公的な存在だと明かす?

 そんなラグナの動揺を読み取ったのかセレナは解説を始めた。


「そう、帝国からの依頼です。本来ならば正規の傭兵ギルドを行使するはずなのですが、今回の依頼は先程申しましたように非常にデリケートな案件であり、隣国との関係に影響を及ぼすのを回避するため水面下で活動できる貴方がたに依頼させていただきました」


 本来、帝国は自前の戦闘部隊が足りない時、また、何らかの理由により部隊を出せない時は、傭兵ギルドというギルドから傭兵を雇う。ただ、彼らには非公式の戦闘を禁ずる。という規則があり、自由に何でもできるというわけではない。また、傭兵ギルドは基本的に依頼はすべて非公開だが、依頼主が直接傭兵を選び、依頼を伝えることはできず、機密性のある事態の処理には向かない。故に、非公式の殺しを営むならず者が現れてくるもの至極、当然である。

――――そういったならず者どもを我々は大方黙認しています。理由は簡単。時と場合により我々にとって非常に使い勝手のいいカードになるからです。

 セレナの言いたいことは大方そういうことだろう。万が一失敗してもなんの情報漏れのないあなた方を使わせてくださいってな感じだ。

 しかし、だからといって身分を明かす必要は全くないはずだ。

 まあ、どうでもいいか。

 ラグナは疑念を心の奥底に仕舞い、話を促す。


「・・・なるほどね。んで、そのデリケートな案件とやらの詳細を聞こうか」







――――隣国、ファニアクル皇国機動部隊第二部隊隊長の国境での密会。その場においての密会相手の調査、及び隊長の暗殺。内容を簡潔に表したらこんなんだ。


「へえ、暗殺ね・・・」

「そう、暗殺です」

 思わず声に出てしまった。

「現在、我が帝国とファニアクル皇国は休戦協定を結んでいます」

「なるほど、それで公には手が出せないわけだ」

 ラグナは終わりかけの煙草を灰皿の中に突っ込み、新たな煙草を咥えながら相槌を打つ。

「はい、ですが今回の対象イラガ・シラディはこの休戦協定を破棄、即刻侵略を再開するようにと声高に叫んでいます」

 よくいる過激思想家だ。我らが祖先の偉大なる土地を奪い取った侵略者どもを根絶やしに。声高にそう叫んでいるのが簡単に想像できる。

「んで、実際その通りになったら迷惑だから消すわけか」

「そうなります。彼のような過激思想についてゆく勢力は今まで一切ありませんでした。しかし、ここにきて突如、彼のもとに協力者が現れたとの情報が入りました。今回の密会は恐らくその協力者から大量の武器を仕入れるためのものと思われます。そこで、協力者の特定をしていただきたいのです。もし、協力者が他国の要人だった場合、帝国に危機が迫っていることになります」

「太太分かった。しかし、そんなに上手く事が運ぶのか?対象が死んで一番喜ぶのはあんたらなんだろ?」

「対象イラガ・シラディは我が帝国以外にも隣国との友好を嫌っており、隣国、本国共に疎まれていることがわかっています。それに、たとえ犯人が特定されようとも在籍が不明な貴方ならばただのテロ行為として処理されます」


 暗殺においての犯人の特定。それは警備兵に殺されるか、追手に殺されるかその二択だ。たとえラグナが今回の依頼で死亡し、敵に発見されようとも傭兵ギルドに加入しておらず、ましてや帝国の兵士ではないラグナでは言いがかりはつけられない。

――――それに、

「国籍も不明だしな」

 自虐的な嘲笑がこみ上げる。

「なにか?」

「いや、なんでもない。ようは暗殺。そういうことだろう?」

「ありがとうございます。では、報酬の前金を」

そういってセレナは分厚い紙束を差し出してきた。

「うん?」


 まさかこんな馬鹿でかい紙幣とかいうんじゃないだろうな。ラグナはテーブルの上に突如登場した紙束をしげしげと眺める。よくよく見ると帝国の紋章が紙束すべてに印字されている。


「どうぞ、お受け取りください。失礼ながら、貴方のことは調べさせていただきました。帝国研究所の襲撃、機密文書の奪取、その他諸々の犯罪行為。ついでに貴方の経歴まで。本来ならばこの場で逮捕することもできますが、貴方の望む物のその断片それを報酬としてお渡しします」

「・・・どういうことだ?」

 辺りの空気が途端に冷える。セレナは相手を刺激しないようにゆっくりと、しかし、明瞭に語る。


「貴方が、探しているであろう、9年前の、事件・事故のリストです」


 命題。ラグナが非合法の殺しを営む理由。それが、その断片が意図せず現れた。9年前の事件の真相。自分の家族が、友が、知り合いが、幸せが、一瞬で消し去られたその「不幸」な事件の「不幸」の部分を暴くためのバイブル。

――――沈黙。ラグナは何も言わない。セレナも何も言わない。無限ともいえる沈黙。ラグナは無言で立ち上がり、大きく伸びをした。


「なるほど、帝国の関係者だと名乗ったのはこういうことだったのか。確かに名乗られなければ依頼内容も、この報酬も信憑性がなくなるな」

 空気が和らぐ。張り詰めていた空気が嘘だったかのように消え去り、一瞬だけみせたラグナの射殺すような雰囲気も消え失せた。

「依頼は受注しますよ。ただ一つお願いがある」

「なんでしょう?」

「国境付近の旧文明の遺跡のビル群があるはずだ。そこの一番高い建造物の最上階に3日分の物資を運んでおいてくれ」

「・・・了解しました。幸運を、祈っております」

 そう言ってセレナは神に祈る仕草をした。

「どうも。では、これで。報酬は、期待させてもらいますよ」


 そう言ってラグナは去って行った。前金として差し出したリストを置いて。




 店を出たラグナは、家には戻らずそのまま別のとある場所へと向かっていた。目的地はその名も「ガンスミスの家」個人の家のように聞こえるが、中身は全く違う。

 なんかこう、ネーミングセンスに問題がある店ばかりなんだ。こう、なんか・・・フレッド商店とかじゃないとやっていけないのかね一捻りしたネーミングじゃなきゃダメなの?ダメなのフレッド?と、ラグナは、道中アンダーグラウンドな人たちの愉快なネーミングセンスの代表たちを思い浮かべ、脳内で永遠と思考を巡らせていた。

 まるで、突如現れた憎悪の矛先を記した書のことを考えまいとするように、憎しみに心を乗っ取られないように。ただただ、傍から見れば滑稽な思考で脳を埋め尽くしていた。

 そして、ラグナは目的地に到着した。

 深夜だというのに煌々と明かりが漏れる家の扉を開けラグナは口を開く。




「おーい、フレッドーお客さんだぞー」





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