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うんこしてる間に世界滅亡した。

作者: よっちゃん

アホなタイトルですが糞真面目に書きました。

なに、なんなんだこの状況は、何かの冗談か。


そうだそうに違いない。とりあえずもう一度トイレに入って深呼吸だ。出る頃には全て元通りさ

扉は閉めた、さあ深呼吸だ。

吸って、1、2、3。・・・吐いて。


吸って、1、2。・・・くさっ、やっぱ臭い無理。



そろそろ出よう。さっきのは何かの間違いだ、きっとそうだ。そうだとも。


意を決してトイレのドアを開けるとそこは





あたり一面焼け野原だった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


うんこしてる間に世界滅亡した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ああ、なんて気持ちの良い朝だ。

小鳥はチュンカチュンカさえずっているし、

朝日はきらきらと輝いているし、

道端では浮浪者がゲエゲエ嘔吐してうずくまっている。

ああ、なんて気持ちの良い朝だろうか。

さあ、今日も私の規則正しいニート生活が幕を開ける。


朝起きて最初にする事といえば何だい?

顔を洗う?ご飯を食べる?現代っ子な君たちは朝シャワー?

ダメだな。全然ダメ。もうダメすぎ。駄目すぎる。

これほどダメだとは私も思わなかったよ。君たちには失望させられる・・・


そう、朝起きたらまず何はともあれ、トイレに直行だとも。

これは最早自然の摂理といっても過言ではない。

朝起きてトイレに行かない奴なんて、この大宇宙に歯向かう愚か者だよ。

そんな訳でいつも通り私は目が覚めるなりトイレに走り出したのさ。

扉を閉めて、腰を便座に落ち着ける。腕時計を見る、7時30分。

うん、今日も時間通り、実に規則正しい生活だ。

さあ今日も朝から踏ん張るとしましょうか。




・・・どのくらい時間がたった、一向にコトが起きる気配がない。

腕時計を見る、9時を回っていた。

そうか、今日もだめなのか。

私はこう見えてもナイーブな性格なのだ。

うんこの最中に雑音が聞こえると出るものも出なくなってしまう。

だから、このトイレには完璧な防音加工が施されている。

うんこの最中にもし家が揺れて崩れると思うと出るものもでなくなってしまう。

だから、このトイレには完璧な地震対策が施されている。

うんこの最中にもし命が狙われると思うと出るものもでなくなってしまう。

だから、このトイレの外壁は恐ろしく硬い。

心配性な私は他にもあれやこれや様々な改造をトイレに加えていった。

そうこうしてる内に今や私のトイレは核シェルター並に超安全な空間に変貌したのだ。


こんな対策が打てるのも、両親の残した莫大な遺産のたまものだ。

とーちゃんかーちゃんありがとう、お陰で今でも私はニートです。


さて、そんな超魔改造を加えた私の核シェルターもといトイレだが、

出るもんが出ないのならばそれはトイレとしての意味を為さない。

とっととここから出るとしよう。

私は扉を開けた。扉も改造してる為、かなり分厚い。つうか重い。馬鹿か。

扉を開けると、いつも通り私の家の廊下だ。当然だ。

手を洗いリビングへ向かう。

そうそう、そろそろ私の愛すべき下僕に挨拶に行く時間だ。9時30分、いつも通りだとも。

私は地下室へ向かった。


* * *



地下室。あちこちに埃かぶったコンピュウタアが置いてあり、

ケーブルがあっちへ行ったりこっちへ来たりしている。

そして私には良く分からん機械で出来たでかい箱が糞やかましくギュイイギュイイと唸っている。

昔の典型的なパソコンオタクの部屋がこんな感じじゃないのか。映画で見た。

部屋の奥で小柄な男がpcに向かって何やら作業をしている、私は声を掛けた。


「やあ、J君。作業は順調かね?」


小柄な男はちらりとこちらを見る。髪がぐしゃぐしゃ、目が細く、鼻のあたりはソバカスだらけ。

お世辞にも美形とは言えない。この私と比較すると生きているのが可哀想になってしまう生物だ。


「どうせ何やっているか、分からないでしょう」


J君は言った、その通りだ。


家の前で何故か仰向けでぶっ倒れている彼を拾って以来。

「貴方の持ってるお金、倍以上にしますよ。」

と胡散臭い言葉に乗せられた私の地下室を機械王国に変貌させ、

私の良く分からん株取引か何かの手段を使って、

莫大な我が家の資産を以前にも増して超莫大にしたJ君。

金が増えるのは特に迷惑ではないし、ここで働かせている。

出会って以来一度も名前を言わないので、いつも着ているTシャツが「J」と書いてあるので私は勝手にJ君と呼んでいる。


「まあそう言うなよ。そうだ、昨日は何をやっていたんだい?」


彼の皮肉を気にせず私はフレンドリーに返した。彼は言った。


「昨日ですか、昨日はちょうど、暇つぶしにやってた国防省へのハッキングが成功した所ですね」



マジでか。



え、何?人ん家の地下室使って何やってんのこの人。怖っ。

国防省てお前、軽くテロじゃん。やべーじゃん。やべーよ。

どうしよう私、私どうしよう。あっ、そうだ。現実逃避しよう。



「大丈夫ですよ。絶対バレませんから」



それも怖えーよ、何者だよお前。



「ま、まあ。順調にいってるみたいだな。はは、は。私はそろそろ上に戻るよ」



聞かなかった事にしよう。

私は何も聞かなかったし、地下室はそういえば物置にして誰も居なかったハズだ。

うん。そうだよ。知らない知らない。しーらない。きこえなーい。

でかい機械の箱がヴィンヴィン鳴る音を背に、私は上の階へと戻った。



* * *


地下室の事なんて綺麗さっぱり忘れた私は、食事の後の優雅なティータイムとしゃれこんでいた。

何故だかしらないがカップを持つ手がガタガタ震えるのはただの気のせいだろう。


腕時計を見る、もう2時になる。

そろそろ第2回戦の時間だ。朝のファーストコンタクトでは奴の完勝だったが次はそうは行かない。

ケリをつけてやる。私は再びトイレへ向かった。


再び便座へ舞い戻った私は、まず腰を落ち着ける。

精神を研ぎ澄ませ、腰のあたりに全ての意識を集中させ、奴の反応を探る。

・・・・・・。


来た。





一体どれ程の時がたったのか、私は立ち上がる。

決着はついていた。

私は手を伸ばしーーーーーーーーーーーー

レバーを、大の方に引いた。


ついにやったのだ、何週間ぶりの大便だった事だろう。

それはなんと厳しく、辛く、生命をぎりぎりまですり減らした排便だった事だろう。

腕時計を見ると、4時を回っている。

ともかく、私は勝ったのだ。この酷い酷い、悪魔のような戦場を生き抜いたのだ。



私は満足に笑みを浮かべ、ドアノブに手をかけようとした。


その時だった。


突然、尋常ではない振動が私が襲い、壁に叩きつけられた。

何事だ。

地震か?そんな筈はない。このトイレの耐震性能は半端じゃない。

大地震だろうが余裕でドミノを遊べるレベルだ。

それに地震なんて生ぬるい揺れではない。

まるででっかい巨人にでっかい足で蹴られたような、

ああ何だ混乱してうまい例えも出ない。

2度目の振動、反動で私は便器に頭を打ち付ける。

そのまま私は気を失った。





気がついた時、私はトイレの床で倒れていた。

頭がひどく痛む。不安定な体制で倒れていたせいか、体も痛い。

そりゃあ、トイレでまっすぐ倒れるなんて無理だ。

どのくらい気を失っていたのだろうか。

腕時計を見る。壊れて4時14分で針は止まっている。

あれだけの揺れと衝撃だったのだ。どこかに打ち付けてしまったのだろう。

お気に入りの腕時計だったのだが、仕方がない。


しかし、何があったのだろう。あの揺れはどういう事だ。

地震ではないとすると・・・。何だ?

考えてみても尋常ではない衝撃だった。

だいたい、このトイレは滅多な事では微動だにしないのだ。


まあ、良い。とりあえずは外に出てみない事には、何も分からん。

私はドアノブに手をかけゆっくりと扉を開ける。

あの揺れだ、この家もタダでは済んでいないだろう。その覚悟はあった。


扉が開いた。


「えっ」


そこにはもう、何もなかった。

だだっぴろい焼け野原に瓦礫の山以外は、何も。



流石にここまでの覚悟はしていなかった。



* * * 




どういう事だ。一体何が、なんで、なんで、どうして。

いつも通りの朝だった。

いつも通り規則正しく私は過ごして、いつもの時間にトイレに入った筈だ。

何も変わらない一日だった筈だ。何も変わらない日常だった筈だ。

なのに。

何もかも滅茶苦茶になっていた。





滅茶苦茶になっていた。

小鳥達のチュンカチュンカとさえずる音も今は聞こえない。

朝はあんなに輝いていた太陽は、どす黒い雲に隠れて今は見えない。

道端で嘔吐する浮浪者どころか、どんなに見渡しても人っ子一人見当たらない。

回りにあるのはただ瓦礫の山と、焼けた大地だ。


一体、何があったというんだ。

これではまるで、まるで映画で見た核戦争後の風景だ。

いや、まさか、そんな、そんな。

だとしたら何で私は生きているんだ。もし本当にそうなら、核爆弾が落ちたのなら。

突然、頭が痛んだ。トイレで頭を打ち付けた傷がまた痛む。

トイレ。

そうだ、あのトイレは私が改造に改造を加え、核シェルター並の強度を誇っていた。

もし本当に核爆弾が落ちても、あのトイレの中にいればあるいは助かるかもしれない。

ははは、なんだそれは。こんな馬鹿な話があってたまるか。

トイレに籠もって核をやり過ごすなんて、なんの冗談だ。

そんな事があってたまるか。そんな事が。


落ち着け。

まずは誰かに事情を聞かなければ。

誰か?周りを見ても誰も居ない。


しばらく崩れた瓦礫の上を歩いて回った。

「誰か!誰か居ないのか!」

返事は、無い。

本当に誰も居なくなったのか。

本当に、誰も


・・・・・・あ。


J君。J君は無事なのだろうか。

気が動転して、すっかり彼の事を忘れていた。

もしかしたら、彼はまだ生きているんじゃないだろうか。

J君は、一日の内ほとんどを地下室で過ごしている。

ここで何が起こったのかは分からないが、あの地下室にいれば、もしかしたら。

そうだ、あの地下室は核シェルターを改良した物じゃなかったか?

私の父は、私に似て(というか父に私が似たのだが)極度の心配性だった。

心配性な父は、なにかあってからでは遅いとこれまた莫大な資金をつぎ込み、地下に凄まじく堅牢な核シェルターを作っていたんだ。

結局、そんなものを使う前に両親とも逝ってしまい、あの核シェルターはJ君が来るまで放置したままだったが。

たしか、それをJ君が改良して、機械王国に仕上げ、自分の住処としたのだ。


そうだ。あの地下室ならば無事かもしれない。



* * *



「ぜェーっ。ぜェーっ」


地下室に行くと決めたは良いものの、家は全壊し瓦礫の山だ。

まずは邪魔な瓦礫を撤去する作業から始めければならなかった。

だが何もかも吹き飛んで滅茶苦茶になっているので、地下室の入り口を探し当てるのも難しい。

長い間作業が続き、やっと地下に続く階段を探し当てた。

階段を降り、地下室の扉の前に辿り着く。ここもかなりボロボロになっているが、何とか崩壊せずに済んだ様だ。

J君は無事だろうか。恐る恐る私は扉を開けた。


部屋の中は、恐らく揺れが襲ったのだろうか、コンピュウタアが何台も床に転がっていた。

あのでかい機械の箱も、いつもの様にギュイイギュイイとうるさい音をたてない。

静かだった。

そんな静寂の中、カタカタと何かの作業音が聞こえる。

部屋の奥を見ると、小柄で髪がくしゃくしゃの男が何かをしている。


「J君。無事だったか」


私は安堵し、声をかけた。

J君はいつもの様にチラリとこちらを見て。


「ああ、生きてたんですか。」


いつも通り可愛げの無い台詞を放った。


こんな状況の中でもブレない奴なのかと、私は感心しそうになり、何やら安心感すら生まれたが

地上の有様を思い出し、そんな場合ではないと気を取り直す。

破壊し尽された風景。

「この状況は、何なんだ。何があったんだ。今、何が起こっているんだ?」

J君ならば、何か知っているんじゃないか。そう思った。

「ああ。」

一呼吸おいて、言った。



「核戦争ですよ。」




全身から力が抜けていった。

まさか、本当に。

でも、なんで。誰が。どの国が?


「ここは、爆心地から少し離れていたみたいですね。家が吹き飛ぶ程度で済んだ。」



「なんで・・・一体どこから」



「現在、と言っても最早過去でしょうか、我が国家と敵対関係にある「あの国」をご存知ですか?」



・・・ああ、何度かニュースでも見た。国のトップの顔が特徴的な。



「「あの国」も始めの頃は我が国とは及びもつかぬ弱小国なんで、どの国もそれほど脅威には感じていませんでした。

 しかし、そうして油断してる間に「あの国」はここ十数年の間、着々と力を蓄え続け、ついに核を保有する様にまで成長したんです。」


知っている。何かの番組で頭の悪そうなコメンテーターがああだこうだと話していた。



「この国はようやく「あの国」の脅威に気づき、すぐさま対策を打つように動き始めました。

 まあ、詳しい内容は省きますが、いわば「核発射監視システム」の開発に取りかかったんです。

 我が国はこれを使い、核を監視し、もし核を発射した場合すぐさま報復に出ると「あの国」に圧力をかけました。」



知らない。というか、J君はこんなに喋る奴だったろうか。何やら、不気味だ。



「そしてその「核発射監視システム」を運用するメインフレームは、今も我が国家の国防省に設置してあります。」



・・・・・ん?



「そういえば昨日、国防省へのハッキングが成功したと言いましたよね。

 まあ僕も、まさかここまで大事になるとは思ってませんでしたが。」



何を言ってるんだ。J君、何を。


「何を・・・」




「僕がきっかけなんですよ。この戦争は」




何を言っているんだコイツは。どうかしている。




「僕は、あのシステムの事は知り尽くしていました。

 国防省へのハッキングが済めば、後は簡単な事だったんです。」


さっきから何を喋っているんだ。


「やった事なんてほんの些細な事なんですよ。

 システムに侵入、データを改ざんし、「あの国」の偽の核発射情報をリークさせた。それだけです。」



ちょっと黙っていてくれないか。


「すぐさまこの国は報復活動に入りました。「あの国」に対して核を発射したんです。

 そこから先は、見物でしたよ。

 いわれもない罪で被爆した「あの国」は我が国に対して報復に出ます。まあ、核を発射しますよね。

 でもそこは発展途上の「あの国」ですから、核兵器つってもタカがしれます。精度、正確性が全然なってない。

 この国に撃ったハズの核は、お隣の、まあ、A国とでもしますか。A国にドカーンと落ちます。

 さあ、おもしろい事になった。僕はここで、ちょっとした細工を思いつきました。

 世界中のネットワーク、情報通信を一時的に遮断するんです。

 前々からその準備はしてました。まあ、暇つぶしにやってたんですが、こんな所で役に立つとはね。

 さて、いきなり核爆弾を打ち込まれたA国さん、何故だから知らないが情報は遮断され、どの

 国が打ってきたのかさっぱり分からない。

 A国さんは思いつく、かねてからA国と冷戦状態にあったB国からの攻撃に違いないと。

 腹の虫が収まらないA国さん、そうと決まれば報復活動。B国に向けて核発射。急に爆撃を受けたB国さんも、

 情報が入ってこないので誰が敵だか分からない。敵対関係にあるC国の仕業だと思い込み報復を開始。

 そうしてる間にもキチガイの「あの国」はバンバン核を打ち続け、結局この国にはほとんど当たらない。

 あっちこっちに飛び火がいって、A国、B国、C国と同じような状況にそこらじゅうなっていく。

 見えない敵に核を打ちまくり、いつの間にやら世界大戦争です。」


狂っている。

男は、矢継ぎ早ににしゃべり倒した。私にはもう、狂っているようにしか見えない。

いや、元から。この男を拾ったあの日から、もう狂っていたんだろうか。


「おもしろいのは、この戦争で使われた核は、全て報復活動で発射された物のという所ですね。

 報復の報復。報復の報復の報復。その報復の元をずうっと辿っていけば、僕が流した偽の核発射情報。

 最初から、敵なんていやしなかったのに、笑えますよね。」


何も面白くない。ちっとも笑えない。

目の前の男が理解ができない。



「なんで・・・こんな事をしたんだ?」



放心していたのだろうか。私はやけに素直な質問をぶつけていた。




「なんででしょうかね。僕にもよく分からないんです。

 映画や、物語に出てくる悪役なら、明確な意志があって世界を滅亡に追いやるんでしょうね。

 この世界が憎くて仕方がないから、とか。

 一度この腐った世の中を破壊して0から作り直さねばならない、だとか

 うん。例えば。

 父をかえしてくれなかった国への恨みかもしれないし、

 とことんまで利用しておいて、都合が悪くなった時には僕の存在ごと消し去ろうとした軍への復讐かもしれない。」



ああ。




「でも、僕は別に世界を恨んでる訳でもないし。

 腐った世の中を0から作り直すなんて、かっこつけてる訳でもない。

 べつに、たいそうな理由なんてないんです。

 僕は思うんですよ。他人から見れば、ずいぶんと立派で、きっと深い意志や意味があるように見える偉業でも。

 本人にとっては、特になんでもなくて、ただなんとなくやってみた事だったり。特に意味なんて考えてなかったり。

 そういうことも、あると思うんですよ。」





そうなんだろうか。





「ただ、理由があるとすれば、好奇心ですかね。

 国防省へのハッキングが成功してしまった時、僕は考えずにはいられなかった。

 もし、あのシステムに侵入したら。もし、偽の情報を流してしまったら。

 些細な事です。誰だって、考えたことはあるんじゃないですか?

 「この人ごみの中で何かひどい罵声を大声で叫んだらどうなるんだろう」

 「今、僕の目の前にいる彼女を、殴ってしまったらどうなるんだろう」

 別になんでもいいんですよ。もしこれをやったらどうなるかな、とか。そういう事。

 他の人と違うとすれば、僕は、「やる奴」なんです。

 考えてしまった事、やらずにはいられない。やったらどうなってしまうのか、その好奇心に負けてしまう。」





よく、喋る奴だ。




「ただ、それだけの事なんです。

 そりゃあ、国への恨みもあったかもしれない。

 復讐が、したかったのかもしれない。

 でも結局は、好奇心と、ただ、なんとなくやってみただけの事。

 それが、理由じゃないかな、と。」



私と、前で座っている男と目が合った。

男は表情を見た、私との会話を楽しんでるのか、少し微笑んでいる様にも見える。

ただ、その目には何の色もなかった。


「でも、もういいんです。これで終わりにします。」


男は、PCの置いてあるデスクの引き出しを開け、何かを取り出した。

拳銃だ。

まったく、どこから仕入れたのか。


「さて」


男は私に向け手を伸ばし拳銃を、

渡した。


「もう、休みたいんです。あなたが引き金を引いてください。

 自分では、怖くてできない。僕は臆病者なんだ。」


私は拳銃を受け取り。


「分かった。」


目の前の男の額に銃口を向ける。

男は笑みを見せた。


「世界中そこかしこで、みんなで見えない敵を撃ちまくって、みんな居なくなってしまった。

 もう地上には敵は一人もいない。だったら、誰があなたを殺すんでしょうね」


私も男に笑みを返す。

そしてそのまま引き金を引いた。



* * *




どのくらい歩いただろうか。

地下室から出て、私は行く当てもなく歩きつづけていた。

どれ程の時がたつ。私はふと癖で、腕時計に目をやる。

針は、相変わらず4時14分のままで壊れて止まっている。

恐らく、ここに核爆弾が落とされた時間を指したまま、止まっている。


そういえば、あの男は私が死んでいたらどうするつもりだったのだろう、自分で引き金を引いたのだろうか。

あの地下室に入った時も、あの男は動揺一つ見せなかった。いくらなんでも、落ち着きすぎてやしないか。

私の生活リズムは、規則正しく一定だ。トイレに入る時間を見越して、偽の核発射情報を?

いや、考えすぎか。いくらなんでもそこまで計算してはいないだろう。

4時14分で止まった腕時計と、あの男を撃った拳銃を眺めながら、そんな事を考えた。



空は黒い雲に覆われ、今が朝なのか、夜なのかも分からない。

ずいぶんと歩き続けたが。一向に人の気配はない。




私が殺した男の言った最後の言葉を思い出していた。

確かに、敵の姿どころか、人の姿、生き物の影すら見えない。

みんな死んでいる。

顔も名前も知らない敵を撃ちまくって、

何処にいるのか知らない敵を撃ちまくって、

もう今は何もない。何もかもぶっ壊れていた。どこもかしこも吹き飛んでいた。



私は、立ち止まった。

なぜだか笑いたくなった。


「でもな、J。

 私はこれで、結構賢いんだ。

 なんせ、お前の言う。見えない敵の居場所。

 私はちゃんと知っているんだからな。」


そうして、ひとしきり笑ったあと。



銃口をこめかみに押し付け引き金を引いた。












作者に言いたい事ある方お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 結局どういう意味なんですか? 内容面白かったけど最後なんで死んだのかよく分からないから解説をw
2011/02/10 18:27 退会済み
管理
[一言] サムネブラックホールもとい、タイトルブラックホールですね。
2011/01/31 20:58 退会済み
管理
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