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宝探し

作者: aduchi
掲載日:2026/10/21

登場人物

私……高所恐怖症であり絶叫系無理な人

娘……保育園年長にして、絶叫系カモンな人。お化けは大嫌い

 この話は、一歳半児(下の子)が生まれる前。

 今は小学生の娘が、保育園児だった頃の出来事である……。


 まず初めに言っておかなければならない。私は高所恐怖症である。そして、絶叫系も大の苦手である。


 遊園地の観覧車なんてものは、私にとって地獄のようなものだ。正直な話、お化け屋敷よりもよっぽど怖い。


 そして残念なことに、上の娘は絶叫系が大好きだ。いったい誰に似たのだろう。

 年長さんの娘は、ヴァイキング(船の形でゆらゆら揺れるヤヴァイやつ)に一日中乗っていられるような、私には考えられないタフさを持っている。

 この頃すでに娘は、絶叫カモン!な状態だったので、私は嫌な予感しかしなかった。


 そう、保育園児は保護者同伴だ。


 私はその日、逃れられない運命をその身に背負いながら、荒れ狂う娘の連撃に耐えうることになる……。


 まずは子供用のジェットコースター。

 

 保護者同伴なら、三歳児から乗れるので娘のお気に入りだった。

 短いレールの上を、子供用?なにそれ?的なスピードで三周する。

 塗装がところどころはげている遊園地のマスコットっぽいキャラクターが、ニコニコとジェットコースターの敷地の中央に鎮座している。

 残念ながら私には、そのキャラクターの笑顔が狂人のそれにしか見えなかった。


「キャーーー!!」


 前後左右に流れゆく景色を身体中に感じながら、娘と私の声が園内に木霊する。片方は喜びを含んだ嬌声。片方は恐怖を含んだ叫声。


 (子供用でしょ!?なんでこんなに速いの!?)


 そんなツッコミを入れながら、三周という短くて長い道のりを耐え忍ぶ。

 ガチめのスピードから急ブレーキ気味に止まったので、前方の座席に軽く頭をぶつける。

 その痛みでなんとか魂を繋ぎ留める私。隣には、次は何に乗ろうと思案にくれる娘がいた。


 次に向かったのは観覧車だった。


 ロマンチックなことを考えれば最後に乗るべきだと思うかもしれないが、娘にとってはただの乗り物。観覧車はいつ乗ってもいいのだ。


「本当に、これ乗るの……?」


 私が娘に聞くと、さも当然のように頷く。私の恐怖心など知る由もない。我先にとゴンドラへと乗り込む娘に、へっぴり腰の私が付いていく。

 

ガチャン!


 棺桶の扉が閉められた。

 もうここからは、再び地面に戻るまで後戻りはできない。

 

 覚悟を……決めるしかなかった。


 少しずつ二人を乗せた棺桶が、天国に向かって登っていく。

 薄れゆく視界で下界を見下ろすと、私たちが住んでいた地上が見える。

 遠くには、地平線が微かな色を孕みながら揺らいでいた。


「あぁ、美しきこの世界……さようなら……」


「なに変なこと言ってるの?」


 娘からのツッコミが入る。視界が遠くなっている私に向かってなんてことを言うのだ。

 そうこうしているうちに、窓の端に観覧車の頂上を告げる避雷針が見えてきた。


「なんで?……ここでまだ半分……なの?……怖いよーー!!」


 私はガチで娘に抱きつく。その弾みで棺桶がユラユラと揺れてしまう。やめて!もう揺れないで!マジでちびりそうなの!

 そんな私を冷めた目で見る娘。

 あまりにもウザかったのか、半狂乱で抱きつく私に、娘は冷淡さと怒りを込めた言葉で言い放った。


「そんなに怖いって言うんだったら、もうパパにいうから!」


 なんで「もう先生にいうから!」みたいに言うのよ!

 怖がるママを優しく抱きしめることさえできないの!?

 結局、魂の抜け殻となった私の意識を取り戻したのは、棺桶の扉を開ける音だった。


 その後、ゴーカートやメリーゴーランドで箸休めを行い、私は少しずつ本調子へと戻っていく。お化け屋敷は、やはりちょっと怖かった。娘は号泣だった。


 太陽が西の空に傾いてきた。

 最後に向かったのは、娘が一番大好きなヴァイキング(ヤヴァイやつ)だった。

 これも保護者同伴なら三歳から乗れる。なぜなんだ……。


 ちなみに娘は、好きなものは最後に取っておくタイプである。お菓子は例外だが。


 前回、家族とこの遊園地に来た時、この悪魔(天使)は閉園になるまでヴァイキングに乗っていた。ちなみに合計十回だ。

 残念ながら今回は、前回乗り始めた時間よりも早い時間だった。

 つまり、前回より連続して乗る可能性があるということだ。


「もう……いいんじゃないかな……」


 胃の中から何かがせり上がる違和感を覚え、私は娘に交渉を始める。


「ここからが本番だよ!」


 満面の笑顔で応える娘。私の気持ちなんか知ったこっちゃない。

 そして私たちは、荒れ狂う海原に向けて冒険の旅に出る。


 目指すはひとつなぎの大秘宝!

 船酔いに負けずに、船長(娘)の指示に従うぞ!


 いっかいめ!!まだまだいけるっ!

 にかいめ!!ちょっとやばいぜっ!

 さんかいめ!!あ、ちょっとまって……。

 よんかいめ!!胃の中が……。

 ごかいめ!!……かんべんして…。

 ろっかいめ!!…………もどしそう。


「ちょっと休憩!!」


 急いでトイレに駆け込む私。内容は割愛するが、なんとか間に合った……。

 青白い顔で戻ってきた私に、追い打ちをかけるように娘は言い放つ。


「今日は十五回は乗るから!!」


 戦慄と絶望が、生気を失った私を襲う。


 こやつは……ここまでした私になお、身を捧げよと言うのか……。


 ……結局私は、娘の猛攻に抗えなかった……。


 合計十八回乗った海賊船に別れを告げ、閉園のアナウンスが流れるゲートをくぐっていく。


 夕日に照らされた山並みを見上げながら、まだ私の中に残る目眩が治まるのを待っていた。

 そして、背後にある遊園地を振り返りながら、今日の娘との激戦を顧みた。


 ジェットコースター

 観覧車

 その他諸々

 そして、ヴァイキング

 

 たくさん乗った。

 たくさん気持ち悪くなった。

 そして、たくさん笑顔を見れた。

  

 ひと息ついてから車に乗り込み、家路につく。

 後部座席のチャイルドシートからウキウキと話していた娘が、糸が切れたように途端に静かになった。

 ルームミラーを見ると、よだれを垂らしながら眠っている娘が見えた。

 疲れ果てて眠っている娘を見て、ふっと微笑みながら運転に集中する。

 そして、私は思うのであった。


 ひとつなぎの大秘宝はもう、目の前にあるのだと。


読んでいただいてありがとうございます!

不定期でエッセイを書くかもしれないので、その時はまたよろしくお願いします!

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