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露と消ゆ

慶応元年、閏五月十四日。

夜が白み始める頃、幕府の軍勢はすでに動き出していた。

見廻組。

京都所司代。

将軍暗殺阻止のため、膳所ぜぜへ。


西本願寺からも、佐野七五三之介さのしめのすけ率いる数十名の隊士が動いた。

太鼓楼たいころうの音が低く、短く鳴る。

それは出動の合図だった。

境内けいだいを満たす足音はみな、どこか急いていた。

隊服の擦れる音、刀の金具が触れ合う乾いた響き。


さきは、西本願寺の門前で、静かに手を合わせていた。

けれど、その願いはあいまいで、

祈りの言葉は結晶する前に、霧散してしまう。


(……早馬はやうまは、届いただろうか)

胸の奥が、ひどく落ち着かなかった。

(土方様は、これを……知ってくださるだろうか)

自分がしたことが、何を引き起こそうとしているのか。

今のさきには、まだ分かっていなかった。

ただ、あの夜――

狭山藩邸の門前でひざが震え、それでも言葉を絞り出した感覚だけが、体に残っていた。

(土方様の信頼に、わたしは応えた)

それだけが、支えだった。

誇りではない。

ただ、戻れるかもしれないという、淡い期待。


その日、佐野七五三之介さのしめのすけ率いる一隊が、首謀者の一人、川瀬太宰かわせだざいの屋敷を急襲した。

逃亡する川瀬を雲母坂きららざか付近で追い詰め、捕縛。


さきは日が暮れてからも、ずっと門の前で気を揉んでいた。


そして深夜。

屯所とんしょに戻った佐野の顔は、まるで鬼のようだった。

隊服に染み付いた、血の匂い。

そして、鼻を突く、焦げた紙の匂い。


佐野は門の前で佇むさきを見て、鼻を鳴らした。

「まだそこにいたのか」

「……はい」

「……いいだろう。中へ入れ」


深夜にもかかわらず、佐野とその一隊は、屯所とんしょに詰めていた隊士たちに取り囲まれ、質問攻めにあっていた。

戦果を問われた佐野は無言でうなずき、使命を果たしたことを伝えた。

「……だが川瀬の奥方がな」

吐き捨てるような声。

「証拠の文書を全部、焼いちまった。そのあと……自らのどを突いたらしい」

出迎えた隊士たちは、一様に言葉を失う。

「武家の妻の鏡、まこと天晴あっぱれな最期ってやつさ。踏み込んだ時には、もう手遅れだった」


まるで、本当に血の匂いがしたような気がして、

さきの指先が、しびれるように冷たくなった。

あの夜、燃える紙や木の音を思い出す。

(……消えていく)

証拠が。

言葉が。

人の思惑おもわくが。

炎の中で。


佐野は取り囲む隊士たちを振り切り、つかつかとさきに歩み寄ると、その腕をつかんだ。

「……おさき。来るんだ」

有無を言わせぬ力だった。

奥の詰所に、ぐいぐいと引きずり込まれる。

背後で、ふすまが閉められた。

その音が、まるで死刑宣告のように、大きく響く。

「おまえ、あの夜――どこへ行った」

逃げ道のない問い。

さきは、震えながらも、まっすぐに答えた。

「……屯所とんしょを抜けて、狭山藩邸に……」

沈黙。

それは、否定ではなく、肯定だった。

佐野の一歩が、畳を軋ませる。

「誰に、何を届けた。お前に、それを命じたのは誰だ」

さきの胸の奥で、自分を必要としてくれたあの人の顔が浮かぶ。

彼を裏切ることなど、考えもしなかった。

唇が、勝手に動く。一番大切にしていた秘密が、言葉となって零れ落ちた。

「……山本時次郎様へ。膳所ぜぜの急報を……」

震える唇から、その名が漏れた瞬間。 佐野の瞳から、それまであった迷いが、ふっと消えた。

「ああ……そうか」

静かで、冷徹な声。

「全部、繋がった」

佐野の影が、さきの小さな体を飲み込もうとしていた。


さきは訳も分からぬままにろうつながれ、

そして閏五月うるうごがつ十八日、山本時次郎は捕縛されて西本願寺の屯所とんしょに引き立てられた。

さきは、縄を打たれて目の前を通り過ぎる男の顔を見て息をのんだ。

(……土方様……?)

土方、いや山本時次郎は、さきの前で足を踏ん張り、無理やり立ち止まった。


「巻き込んで悪かったな」


「奴は、山本時次郎。将軍暗殺を企てた一派の支援者だ」

格子越しに佐野が冷たく言い放った。

「つまり、おまえは土方の名をかたる男の手先として新選組の動きを敵に漏らしたんだ。……だがその通報も空しく、結局は川瀬の屋敷に届く前に俺たちが踏み込んだってことさ」

「え……?土方様じゃ……なかった?」

「おまえのしたことは、何ひとつ意味をなさなかったんだ」


そのとき、冷たい床板の上で、さきはすべてを理解した。


その夜。

佐野がやってきて格子扉のじょうを外した。

「出ろ。取り調べの時間だ」

すべての気力を失ったさきは、黙って従った。


佐野はさき華奢きゃしゃな背中を見ながら、川瀬太宰かわせだざいの妻を想った。

この娘は、あれほどの覚悟を持っているだろうか。

これから待つ、果てしない責め苦に耐える気力を持っているだろうか。


牢獄ろうごくから北集会所へと続く石畳いしだたみを歩きながら、佐野は告げた。

「もう、沖田さんは来ないぞ。…誰も来ない」

さきは佐野を振り返った。

「ええ。迎えなんて期待するんじゃなかった」

佐野は、ゆっくりと刀を抜いた。

「せめてお前には夢を見たまま死なせてやりたかった」

刃が振り下ろされる直前、さきは一瞬だけ、名前ではないものを呼ぼうとした。

――でも、それは声にならなかった。

最初から、私は「呼ばれる側」だった。

銀の光、重い音。

倒れながら夜空を見上げる。

星を数えながら、さきの意識は遠のいていった。



その日。黒谷本陣から戻った土方歳三は、

北集会所の玄関で、佐野七五三之介さのしめのすけと鉢合わせした。

土方は、佐野の顔を一瞥いちべつして、玄関に草鞋わらじを脱ぐあいだの暇つぶしのように声を掛けた。

「……お前が、斬ったのか」

佐野は、一瞬、言葉を失った。

「え?」

土方は続ける。

「牢屋でな。こもをかぶせた、若い女の遺体を見た」

空気が、張りつめる。

佐野はほんの一拍だけ黙り、口を開いた。

「あれは……時次郎の女です」

その声からは何の感情も伺えない。

「後を追って、死にました」

――さきの名を、記録に残すつもりはない。

短い沈黙があって、土方は視線を外した。

「ふん……そうか。殊勝しゅしょうなことだ」

目を細め、薄く微笑むと、土方はそのまま屯所とんしょの奥へと消えていった。



だが――

格子の向こう側には、

そこには、確かにひとりの少女が生きて、

そして未来を夢見ていたのだ。


夏草が、静かに揺れていた。


最期までお付き合いいただきありがとうございました。今回も生成AI(ChatGPTとGemini)を使ってみたんですが、プロンプトがホント難しくて全然イメージ通りにいきません。

筋はとんでもない方向に脱線していくわ、そんで色々矛盾は派生してくるわ、なんか言葉の選び方も気に入らないわで、結局、AIの痕跡がなくなるくらい上書きを重ねました。

けど不思議なのは、話の骨格や、登場人物は全部私が考えたのに、自分で書いたら絶対こんな風にならない感じになるんですよね。

なんかAIを使ってるっていうより、使われてるんじゃないかって気すらしてきます。恐るべしAI。


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