「推し」
今日で、“あの日”から、もう1年。
このリスバも丸々1年使ってるなぁ……。
そう思いながら、指でそっと撫でる。
時間の流れって、本当に早い。
……そろそろ、起きないと。
ゆっくりベッドから起き上がり、顔を洗い、歯を磨きながら、私は1年前の出来事を思い出していた。
◆◆◆
今日は、待ちに待った、“ニャンダル限定リスバ”の発売日。
この日のために、前々から休みを取っていた。
ネット販売はダメだったけど、今日はシンジュクのニャンダルストアで、1人につき3個まで購入できる。
ただし、いわゆる“くじ引き方式”。
どれが当たるかは、開けてみるまで分からない。
最も“ニャンダルフリーク”な私にとっては問題なし。
なんなら、全部欲しいくらいだ。
朝食を食べていると、ママが声をかけてきた。
「休みなのに、やけに早起きだと思ったら……ゲームのやつ?」
「そ!」
私は勢いよく答える。
そのタイミングで、パパがゆっくり椅子に座った。
「パパ、おはよ」
「おはよう、ハルカ。早起きだね」
お腹ぽっこりの私のパパ。
とっても優しくて、今でも私を甘やかしてくれる、大好きなパパ。
「なんか、ゲームのやつなんだって」
ママがパパに言う。
「そうかい。パパが休みだったら、送り迎えしてあげるんだけどね」
「ありがと、パパ! 大丈夫だよ!」
ママも椅子に座り、朝食を取り始める。
「そういえば最近、ハラジュクでSD同士の小競り合いあったばっかりでしょ? ……大丈夫なの?」
「大丈夫だって! それに場所はシンジュクだし!」
……まさか、この時のママの一言が、“フラグ”になるなんて、この時は思いもしなかった。
「駅まで送ろうか?」
「うん! お願い!」
支度を済ませ、パパのエレカで駅まで送ってもらった。
リスバをかざし、改札を抜ける。
電車に揺られること、約20分。
シンジュクに到着。
そこから徒歩10分。
目的地――ニャンダルストアに着いた。
予想はしていたけど、すでに人が多い。
かなり早く出たつもりだったんだけどな。
私はさっそく列に並ぶ。
さっきコンビニで買ったレモン水を片手に、のんびり待つとしよう。
それから、約1時間半。
そろそろ私の番が近づいてきた。
思っていたより早い。嬉しい誤算だ。
そして、そこから約10分後。
ようやく――私の番が……!
そう思った、その瞬間だった。
街中に、サイレンとアナウンスが響き渡る。
『緊急避難警報デス。直チニ避難ヲシテクダサイ。緊急避難警報デス。直チニ……』
えぇ!? このタイミングで!?
……とはいえ、仕方ない。
人々は我先にと、近くの避難シェルターへ向かっていく。
今思えば、お店の避難通路から出れば早かったのだが、その時はパニックで、わざわざ遠い出口を目指してしまった。
そして、やっと外に出られた瞬間――
凄まじい音が響いた。
軍警のSDと、野良のSDが戦っていた。
SDを見ること自体は珍しくない。
でも、目の前で戦っている光景を見るのは、初めてだった。
うわぁ…SDが戦ってるの、初めて見た……!
てかフラグ回収エグすぎ。
――いや、そんなこと考えてる場合じゃない!
そう思った、次の瞬間。
軍警のSDが相手の攻撃を受け、壁に激突した。
その衝撃で、大きな瓦礫がこちらへ飛んできた。
そこには、私以外にも何人か人がいた。
私は思わず、顔を背けた。
……でも、その瓦礫は、私たちに届かなかった。
恐る恐る顔を上げると、そこには――電気を纏った金髪の少年の後ろ姿があった。
少年は振り向き、冷静に言った。
「オルフェの者です。早く避難を」
その姿は、今でも鮮明に焼き付いている。
少しくせのある淡い金髪。
稲妻みたいな可愛いアホ毛。
くりっとした目に、鮮やかなグリーンの瞳。
中性的で、誰が見ても“美少年”と言える程の綺麗で可愛らしい顔立ち。
見た感じ、多分……私より10歳近く年下。
彼はすぐに、SDの方へ向き直った。
周囲の人たちは、次々とシェルターへ向かっていく。
でも私は、しばらく呆然として動けなかった。
――ハッ。
我に返り、私も走り出そうとした瞬間……腰が抜けた。
腰抜けるなんて、いつ以来だろ……。
ホラゲやった時かな? とか、また変なこと考えてた。
その時。
さっきの彼が戻ってきて、私をひょいっとお姫様抱っこした。
生まれてこの方、お姫様抱っこなんてされたことない私は、完全にパニック。
私、結構重いのに……。
彼は軽々と、シェルターへ走っていく。
その途中、彼が声をかけてきた。
「さっき、惜しかったね。リスバ」
……どうやら、あの瞬間を見られていたらしい。
さらに彼は言った。
「お姉さん、推しはいる?」
あまりにも色々なことが起きすぎて、混乱した私の頭は、反射的に答えていた。
「は、はこっ!!」
彼は、ニコッと微笑んだ。
気づくと、もうシェルターの前だった。
さっき一緒に瓦礫に巻き込まれそうになっていた男性が、扉を開けて待ってくれていた。
彼は私をそっと降ろし、言った。
「ダブりあるから、これあげる」
そう言って、ポケットから袋に入ったリスバを取り出し、私に渡した。
次の瞬間、彼は再び電気を纏い、一瞬で姿を消した。
その後しばらくして、緊急避難警報は解除された。
スマカには、パパとママからの鬼電。
かけ直すと、2人とも泣いていた。
心配かけて、ごめんなさい。
それから、余談だけど…あの日以降、私は“オネショタ”に目覚め、ゲームでやたら“雷属性”を使うようになってた。
あの日、彼がくれた“エルフの伝承”のリスバ。
私は、今もずっと身につけている。
彼は“エーテルファクター”。
普段から、人々を守っている。
まさに、ヒーロー。
……そして、私は、そんな彼に完全に心を奪われてしまった。
いつか、また会って……ちゃんと、お礼言いたいな。
◆◆◆
よしっ! 準備完了!
今日も張り切って行きますか!
『みんな、お元気してる? オニョ姫だよー♡今日はね……』




