「ソロプレイ編⑤」
(売ろうかな……)
先ほど当たったテカテカマッチョTシャツを眺めながら、怜は村を歩いていた。
『あの〜、すみません』
突然、チャットで声をかけられる。
振り向くと、見覚えのないブタのキャラクターが立っていた。
見た目はかなりイカつい。
名前は「ブー太」というらしい。
▼ブー太
『さっき、2等を当てた方ですよね?』
ブー太は丁寧に尋ねた。
『はい。そうです』
怜はチャットで返事をする。
『もしよろしければ、そのアイテムと交換していただけませんか?』
イカつい見た目とは裏腹に、話し方はとても礼儀正しい。
『もちろん。いいですよ』
怜は快く了承する。
『ありがとうございます!』
ブー太はぺこりと頭を下げた。
こちらからしてみれば、ちょうど売ろうと思っていた不要なアイテムだ。
むしろラッキーだと思った。
◆
怜は、ふとみのりの言葉を思い出した。
“あとミチもやってますよ”
“ブタです!”
(まさか……)
ブー太が光井かもしれない。
そう思った。
しかし、ブタのキャラクターなど珍しくもない。
それに、ブー太のデザインは、怜が(勝手に)想像していた光井のブタのマイキャラとはまったく違う。
能勢やみのりに続いて、また知り合いに会うとは考えにくい。
それでも——
どうしても気になって仕方がない。
怜は一か八か、思い切って尋ねてみることにした。
『あの、人違いだったら申し訳ないんですけど……』
『光井?』
怜が聞く。
『ってことは……白木か!?』
ブー太は驚いたように返した。
どうやら本当に光井だったらしい。
『“もふ村”始めたって聞いてたけど、まさかこんなところで会うとはな〜』
光井は驚きを隠せない様子で言った。
どうやら、光井は相手が怜だとは思っていなかったらしい。
怜のプレイヤー名は、自分の名前そのままの「レイ」だ。
だが、レイという名前のプレイヤーは珍しくなく、光井も何人か見かけたことがあった。
そのため、まさか本人だとは気づかなかったようだ。
◆
『せっかくだし、フレンドになろーぜ』
光井が言った。
『うん』
怜は小さくうなずく。
互いにフレンド登録を済ませると、怜はつい先ほど、みのりに会ったことを話した。
光井も、みのりとはフレンド登録している。
本来なら、フレンドがログインすると通知が表示される。
しかし、光井はその通知をオフにしていたため、みのりがログインしていたことにも気づいていなかったらしい。
◆
『ていうか、これあげる』
怜は光井に言った。
知り合いなのだから、交換ではなく譲ってもいいと思ったのだ。
『いやいや!それは申し訳ねぇ!』
ブー太(光井)は両手を前に出し、首を横に振る。
かなり律儀な性格だ。
『何か困ってることとか、欲しいものとかあるか?』
光井が尋ねた。
怜は少し考えた。
『……物理系の武器、かな』
『それなら、いいのがあるぞ!』
ブー太(光井)はポケットをゴソゴソと探り、一つの武器を取り出した。
“紅に染まった棍棒”
▼紅に染まった棍棒
『これ、強化はできないけど、序盤じゃめっちゃ強力だぜ!』
光井は自信ありげに言う。
(イ、イカつい……)
怜は思わず心の中でつぶやいた。
光井の話では、この武器は普通の武器屋では売っていない“ユニーク武器”というものらしい。
『いいの?』
怜が尋ねる。
『おう!他にも武器はあるから、大丈夫!』
ブー太(光井)は笑っていた。
『ありがとう』
怜はテカテカマッチョTシャツと、紅に染まった棍棒を交換した。
『欲しかったんだよなぁ……コレ』
ブー太(光井)はうっとりとした表情でテカテカマッチョTシャツを眺めている。
(色んな趣味があるなぁ……)
そんな光景を見ながら、怜はしみじみと思った。
——つづく。




