「タツノオトシゴ」
「ねぇ、みのりん。Wデートしてみたくない?」
唐突に、クレアが切り出した。
「Wデートかぁ!いいねー!」
みのりは即答で、にっこり笑う。
「でしょ!」
「ところで、誰と?」
「まぁ……みのりんは閃で、アタシは……あ、新井くん……」
クレアは少し照れながら言った。
「うんうん!ちなみに、どこに?」
みのりは食い気味に身を乗り出す。
「んー……ベタだけど、水族館とか動物園とか……?」
「いいねっ!で、いつ行く?」
「い、いや……そんなこと出来たらいいな〜って……」
どうやら、まだ妄想段階らしい。
「なら、あたしが閃先輩たちに聞いてみようか?」
「えっ!?お願い、みのりん!」
どうやら、みのりのフットワークの軽さを当てにしていたようだ。
◆
オルフェの大庭。
閃はテツのお腹をツンツンしていた。
「せ〜んぱいっ♡」
後ろから、みのりの声。
「な〜んだいっ♡」
同じイントネーションで返す閃。
「Wデートしません?」
満面の笑みで言う。
「いいよぉ。どこ行く?」
相変わらず、ツンツンしながら返事をする閃。
「……ん?Wデート?」
少し間を置いて、ようやく引っかかった。
「烈先輩とクレアも一緒に」
「あぁ、そゆこと」
すぐに察したようだ。
「烈には俺から言っとくよ」
「お願いします!」
みのりは元気よく返した。
◆
数日後、水族館。
「わぁ!ペンギンさんだ!かわいいー!」
みのりは、さりげなく閃の腕に絡みながらはしゃいでいた。
一方、クレアは烈の少し後ろを歩いている。
「な、なんかあの2人、カップルみたいだねー!」
クレアが唐突に言った。
「…そうか?俺には、ちょっと歳の離れた兄妹に見えるけど」
烈はあっさり返す。
「た、確かに……そっちかも……」
クレアも妙に納得してしまった。
「あ、新井くんって、好きな魚介類とかいる?」
「んー…マグロかな?いつか捌いてみてぇな」
「さ、捌く……」
「クレアは?」
「う〜ん……ヒトデ……?」
「ヒトデかぁ。食えんのかな?」
(新井くん、基準そこなの……?)
クレアは心の中で、そっとツッコんだ。
◆
望んでいた状況のはずなのに、本人を前にすると途端に内気になる。
(はぁ……アタシ、全部ダメダメ……)
みのりのストレートさが、少し眩しかった。
烈はというと、様々な魚介類に興味津々で歩き回っている。
いつの間にか、2人はタツノオトシゴの水槽の前にいた。
そこへ、閃とみのりが戻ってきた。
「そこで写真撮る?」
閃が提案する。
「「えぇ?」」
同時に照れる2人。
「あたし達はもう、いっぱい撮ったから」
みのりが笑顔で言った。
「…..なら、お願い」
クレアは照れながら、水槽の前に立ち、烈も隣に並んだ。
「もっとくっついてー!」
スマカを構えたみのりが声をかける。
クレアが戸惑っていると、烈がぐっと距離を詰めた。
心臓が跳ねる。
「肩も組んじゃってー!」
今度は閃がニヤリと続く。
「……アホか」
烈がツッコんだ。
シャッターが切られる。
写真を見て、閃とみのりが目を見開いた。
背景の水槽では、タツノオトシゴが偶然にも寄り添い、ハートの形を作っていた。
「うぉぉ!すげぇー!」
烈が素直に声を上げる。
(……ありがとう、タツノオトシゴさん)
クレアは、そっと胸の中でそう呟いた。




