「正反対な2人 怜×音」
今日は、怜と音の2人そろってオフの日。
前々からこの日に遊ぶ約束をしていて、朝から怜のエレカで出かけていた。
向かった先は、最近話題のアニメ映画“美人さんのムーン”。
事前情報はほとんど知らずに観始めたのだが、思った以上に恋愛要素が強く、途中から2人そろって完全に寝落ちしてしまっていた。
怜が目を覚ました時には、すでに映画はクライマックス。
隣では、音が相変わらずすやすや眠っている。
スクリーンの光に照らされて、かすかに見える可愛らしい寝顔を見て、怜は思わず微笑んだ。
――このまま、エンドロールまで寝かせておこう。
そう思った、その瞬間。
『起きて!!』
スクリーンから飛び込んできた、突然の叫び声。
それに反応して、音が勢いよく飛び起きた。
「………ぅえ?」
完全に状況が掴めていない様子で、頭の上に“?”を浮かべている。
その姿があまりに可笑しくて、怜は肩を小刻みに震わせていた。
◆
映画を見終え、そのままウインドウショッピングをしながら、さっきの出来事を思い出しては笑っていた。
2人で映画を観に行くことはたまにあるが、好みが正反対なのか、決まってどちらかが寝てしまう。
今日は珍しく、2人そろってだったが。
それでも、映画の内容よりも、「一緒に観ること」が好きなのだ。
怜も音も、事情は違えど孤独な幼少期を過ごしてきた。
同じファクターで、同じチームの仲間。
それ以上に、お互いが心から安心できる、数少ない存在だった。
「ねぇ、ご飯食べよ?」
音がにこっと笑って言う。
「うん。どこ行く?」
怜が尋ねると、
「なんでも亭!」
音は元気よく答えた。
“なんでも亭”
和洋折衷、甘いものから辛いものまで何でも揃う、有名な食堂だ。
2人は何かと正反対。
クール系な美人の怜と、癒し系で可愛い音。
可愛いデザインが好きな怜と、独特なデザインが好きな音。
意外にコメディ好きな怜と、意外にホラー好きな音。
大の甘党の怜と、大の辛党の音。
だから外食先は、自然と“なんでも亭”になることが多い。
怜は微笑みながら頷き、エレカを走らせた。
◆
店に着き、タッチパネルで注文をする。
怜は、フクオカ風肉ごぼう天うどん定食。
音は、激辛大盛りとんかつ定食。
料理を待ちながら、音がまじまじと怜を見つめて言った。
「怜ちゃん、本当にスタイルいいよね…」
「え?あ、ありがと…」
確かに怜は、皆からよくそう言われる。
「音だって、スタイルいいよ」
怜が返すと、音はぶんぶん首を振った。
「全然だよぉ。わたし、頭大きいし……。やっぱEDって、体型も反映されてるのかな?」
EDは、ファクターの戦闘スタイルやエーテルの波長、イメージを元にした完全なオーダーメイド仕様。
怜のシラユキは、女性的で美しいプロポーション。
一方、音のツムギは、ずんぐりむっくりとした、ぬいぐるみのような姿。
「あっ!勘違いしないでね?ツムギのことは大好きだから!」
音は慌てて付け足す。
各ファクターはそれぞれ、自分のEDに愛着を持っている。
もちろん音も例外ではない。
「体型は…関係ないんじゃないかな」
怜は少し恥ずかしそうに続けた。
「もし、関係あるとしたら…わ、私のお尻、大きいってことになっちゃうし…」
シラユキのヒップラインを思い浮かべての言葉だった。
「全然そんなことないよ!じゃあ体型は関係ないね!」
音は笑った。
そこへ料理が届く。
上品に箸を進める怜と、豪快に食べる音。
食べ方まで、やっぱり正反対だった。
◆
食後、2人は公園を散歩していた。
ふと、音が切り出す。
「ねぇ…わたしと閃くんって、付き合ってるように見える?」
突然の質問に、怜は一瞬固まった。
「アンジュちゃんとか、みのりちゃんとか、クレアちゃんによく言われるんだよね。くっつきすぎとか、ムニムニ当てすぎ、とか……」
不思議そうな表情の音。
恋愛ごとに非常に疎い怜には、2人が仲良しだという印象しかなかった。
「んー…私には、仲良しな双子、みたいに見えるかな。というか……ムニムニ?」
「よかった! あ、ムニムニってこれのこと!」
音は満面の笑みで、自分の胸を指した。
怜は納得した。
確かに音のムニムニは大きい。
「閃くんって、女の子みたいに可愛い顔してるし、すっごく親しみやすいから、ついくっついちゃうんだよね」
その気持ちは、怜にもよくわかる。
気づけば自然と距離が近くなってしまう。
「でもね…あそこまでくっつけるの、閃くんと、怜ちゃんだけだよ」
音は少し照れたように言った。
「2人とも、正反対なのに…同じ居心地の良さを感じるの」
怜は微笑んで答える。
「音、私も同じよ」
「…手、繋いでいい?」
「うん」
2人は手を繋ぎ、並んで歩き続けた。
(……ハグ、したいな)
そんなことを思いながら、怜はふと、閃のフットワークの軽さを少し羨ましく思うのだった。




