「玉ねぎ女」
とある日のの昼頃。
閃とリオは、2人で街をぶらぶらと歩いていた。
リオは上機嫌で、閃の腕にぴったりとくっついている。
「閃ちゃん、今日は付き合ってくれてありがとねっ♡」
「リオっちの頼みでしょ? 当たり前じゃん」
閃も、にこっと笑った。
2人は、ふらりと入った喫茶店で席に着く。
注文を終えると、リオがさっそく口を開いた。
「んでさ……“例のアイツ”よ」
「トオルくんでしょ?」
閃は、いたずらっぽくニヤリと笑った。
同時に、アホ毛がくるっとカールする。
トオル――リオの同棲中の彼氏で、交際歴は約3年半。
そして、ほぼ2年近く無職。
閃は彼と直接会ったことはないが、リオの愚痴で存在だけはよく知っていた。
というか、正直その“トオルトーク”が面白くて、閃は結構好きだった。
「あのヤローさ。毎月お小遣い渡してるのに、足りないとか言い出してさ。“何に使うんだよ”って聞いたのよ」
閃は、目をきらきらさせて続きを待つ。
「そしたらさ、わけわかんないVアイドルに投げ銭したいんだって」
「――っ、あははははは!」
閃は思わず吹き出した。
「トオルくん、ブレないね!!」
「投げるのは勝手だけど、小遣いの範囲でやれって話でしょ」
「小遣い、月2万だっけ?」
「うん。月によっては5千円プラスしてる」
「で、トオルくんはいくら投げたいって?」
「2万」
「あはははは!!」
閃、再び爆笑。
リオは呆れたように言った。
「ったく……あんな“玉ねぎ女”の何がいいんだか」
「あっ、トオルくんの推しって“オニョ姫”なんだ」
「え、閃ちゃん知ってんの? 意外〜」
「V界隈は詳しくないけど、オニョ姫は知ってるよ。めっちゃ有名な“ニャンダルフリーク”だし」
ニャンダルフリーク――ニャンダル社の熱狂的ファンのこと。
閃も、その1人だった。
「それにプレイスキルもすごいし、トークも上手いから、プレイ動画はよく見てる」
そう言いながら、届いたカフェをくるくるとかき混ぜる。
「へぇ〜。私にはさっぱり」
「それにしても、リオっちは本当に優しいよね。トオルくん、幸せ者だと思うよ」
閃は、柔らかく笑った。
「でもムカつくから、今日は閃ちゃんと浮気しちゃう!」
リオは、コーヒーをぐびっと飲み干す。
「いいよっ。付き合う」
「やだぁ、閃ちゃん……リオお姉ちゃん、理性がもたないかも……」
リオが泣き真似をすると、
「その時は、感電ね♡」
と閃がイタズラな笑みで返した。
2人は顔を見合わせて、声を上げて笑った。




