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第1話 閥がついた国家 前編

この作品の世界観では、某海賊王を目指そうとする漫画のように「姓・名」表記となっております。

ご注意ください。

 マウリア帝国を頂点とした八王国十二大公国。


 八王が皇帝の親族であるのに対して、十二大公は建国の功臣たちで構成されていた。


 その中でもアヴァールは筆頭の功臣であり、十二大公国の中でも最大の版図を持つ強国であった。


 ブリックス王国と並び、連合国と接する最前線国家であり、その軍事は精強。版図を拡大しつつ、連合とは巧みに付き合いながら、交易による巨額の利益を得ていたのである。


「またパーティーですか」


 呆れた口調で、クラウディアは大公にして異母弟であるファビオに向けてそう言った。


「今月はまだやってはいないぞ」


「先月のパーティーからまだ3日しか経過していないのですよ」


「別に構わぬでしょうに」


 クラウディアが姉であることから、思わずファビオは遜ってしまう。


 姉であるクラウディアは気品あるウェーブかかった金髪をしており、大公女と呼ばれるにふさわしい態度であるが、ファビオは姉と同じ体格で、髪は緑色であった。


「それに、騎士団が活躍したのだから、それを労いたいのだが」


「確かに、活躍はなされたそうですね」


 クラウディアはわざと活躍の部分を強調する。


 アヴァールには軍隊や警察が存在するが、それとは別に大公直属の騎士団が設立されていた。


 先日その騎士団が国事犯を捕まえたということで、ファビオはそれを労いたいようだ。


「私のために活躍してくれた功臣を労うのも、主君の責務ではないか?」


「おっしゃる通りです。ですが、本当に活躍されたのですか?」


 ファビオは眉を顰めるが、クラウディアは騎士団の活躍を疑っていた。


「功臣を労うのは、確かに君主の責務です。その上で、殿下に一つ申し上げたいことがございます」


「何かな?」


 軽く、クラウディアは咳ばらいをした。


「功績とは積み上げるものであって、作り上げるものではございません。どうか殿下には、その点を考慮していただきたく」


 礼に則り、クラウディアはファビオに頭を下げる。その姿に、ファビオは歯噛みするのであった。


*********


「やってくれたな、ライナルト公」


 厳つい顔のままに、一切の遠慮をすることなく、アヴァール大公国にて内務大臣を務めるダリル・エル・ストラーニ侯爵はそう言った。


「如何された?」


「如何? 貴公はボケているのか? 先日国事犯を逮捕したそうだな!」


 机を激しく叩き、ダリル侯はライナルト公をにらみつけた。


「国事犯ではないか。連合から金を貰い、我が国の情報を漏らしていたのだぞ。スパイであり、立派な国事犯ではないか」


 悪びれることなく大公直属の近衛長官であるライナルト公は、そう言ったが、ダリオ侯は呆れていた。


「貴公が逮捕したという国事犯は、我々内務省の協力者だ。彼は二重スパイとして、我が国のどうでもいい情報を流し、連合からの重要な情報を仕入れさせていたのだぞ」


「なんだと?」


 ライナルト公の表情が変わる。その姿に、ダリオは頭を抱えそうになった。


「そもそも、連合との付き合いがある、情報を漏らすというが、漏らした情報とは果たしてなんだ? 軍事機密であったり、宮中の機密、あるいは我が内務省の重要事項などか?」


 ダリオ侯の指摘に、ライナルト公は一切反論することなく顔を真っ赤にしながら、ダリオ侯をにらみつけていた。


「お二人共、少々熱くなりすぎているのでないか?」


 激しい口論の中で、体格のいい赤毛の青年が、冷静な声を上げた。


「しかし宰相閣下、騎士団のやったことは……」


 青年は右手を軽く上げると、老齢のダリオ侯を抑えた。


「問題を整理しよう。ライナルト公、メーマルス騎士団が捕らえた国事犯だが、果たして何の罪を犯した?」


「我が国の情報を連合に漏洩させました」


 連合、枢軸国とは一応対立関係にもある星間連合側へ、情報を漏洩させた者は騎士団は捕らえたらしい。


「で、その内容とは?」


「それは……」


 内容を確認した途端、口ごもるライナルト公に対し、ダリオ侯は怒りを通り越して呆れてしまった。


「果たしてどんな機密を漏洩させた? 我が国の通信プロトコルなどか? 軍需品等の物資や配置などか?」


「決してそんなことではなく……」


「果たして何を漏洩させた? そもそも、大公殿下直属である騎士団が動くほどの内容だったのか?」


 赤毛の青年、アヴァール・トゥエル・エミリオは宰相として、近衛長官であるライナルト公に問いただした。


「ですが、漏洩は事実です。軍務省と取引のある業者を暴露したのですから」


「それは聞き捨てならんな」


 温和な表情から一転して、エミリオはライナルト公をにらみつけた。その姿に、ライナルト公は蹴落とされ、ダリオ侯は完全に呆れてしまった。


「私が軍務大臣を兼任していることを承知で、そのようなことを行ったというのか?」 


 エミリオは現在宰相であったが、大公家の一族として軍に所属しており、元帥位を有している。


 軍はエミリオのテリトリーでもあり、軍の機密漏洩に関わることであれば、内務省以上に軍務省に配慮をする必要性があった。


「ましてや話を聞けば、漏洩ともいえぬような代物。そのような事件を大げさに国事犯とするなど、騎士団は罪人の製造業でも始められたのか?」


 ライナルト公やダリオ侯よりも若輩ではあるが、エミリオは自ら士官学校を受験し、第一線で他の枢軸国や連合との艦隊戦に参加してきた。


 自ら艦隊を指揮して、修羅場を潜り抜けてきた経験もあるために、その迫力は一介の警察官から内務大臣となったダリオ侯にも匹敵していた。


「……まあいい、事情は分かった。ライナルト公、この件はダリオ侯に引き継ぐように」


「お待ちください宰相閣下!」


「罪人を作り出し、挙句の果てには功績まで捏造して、大公殿下の威光に泥を塗るような行為をしたことを暴露してもいいのか?」


 食い下がるライナルト公に、エミリオは眼光鋭く威圧させると、彼はもう何も言えることなく、そのままばつが悪くなったからか、その場を後にして立ち去って行った。


「一体、奴は何かしたかったのでしょうな?」


 ため息をつきながら、エミリオはダリオ侯に向けてそう言った。


「騎士団のアピールをしたかった、それだけです。設立されて既に二年経過していますが、ろくな成果が上がっておりません故」


 ダリオ侯が口ひげを弄りながら、辛辣な言葉を口にしていた。


「ですが、奴はそれ以上の罪を犯しています」


「罪人を作り出すことか」


「いかにも。罪人がいないこと、捕まえられないことを嘆き、批判されることは間違ってはおりません。ですが、罪人を捕らえることを目的化してしまうのは、論外というしかありませんな」


 ダリオ侯は厳つい風貌と風格、そして厳格な性格をしているが、一番嫌っていることは罪なき者を罪人に仕立て上げることであった。


「こんなことをしていては、誰も警察や軍を信用せぬでしょう。そうすれば、喜ぶのは他国です。スパイや犯罪者が喜ぶことこの上なく、こうした愚かな行動によって苦しめられるのは、罪なき民衆です」


「はは、ダリオ侯にはよく教えられましたな」


 大公家の一門として、エミリオはダリオ侯の私塾に通っていたことがあった。


 新進気鋭の警察官僚にして、優れた才覚からダリオ侯の私塾には下級貴族や平民すら進んで学びに行く者がいた。むしろ、宮中では聞けない話などができたり、聞くことができたことで、エミリオは自らの視野を大きく広げることができたと思っていた。


「ですが閣下、これは放置できる問題ではありませんぞ」


「わかっておりますよ。今、我が国には二つの派閥が存在する」


 十二大公国一の大国であるアヴァールは、経済発展を遂げていたが、国内にある二つの派閥が形成されていた。


 一つは大公国発足からの譜代貴族たちによって構成された本国派。


 もう一つは大公国発足後、拡張を広げるアヴァールの軍門に下った貴族によって構成された新領派である。


「ライナルト公は本国派の筆頭。それ故に、新領派である私が内務大臣をやっていることが気に入らんのでしょうな」


「ダリオ侯以上に、内務大臣に相応しい人物はおりませんよ。少なくとも、手柄目当てに罪なき罪人をでっちあげるような輩ではない」


 ダリオ侯は新領派の人物ではあるが、警察官僚として派閥に囚われるような人物ではない。相手が新領派であろうが、本国派であろうが関係なく、犯罪者を逮捕し、立件する人物であった。


「新領派である私がこんなことを言うのも問題かもしれませんが、ライナルト公の行動は間違いなく、この国を混乱に陥れる行為ですぞ」


「難しい事態になってきましたな」


 かつての師弟関係もあってか、エミリオは苦い顔をしながらそう答えたが、内心はダリオ侯と同じ気持ちであった。


 エミリオは大公家の一門として、この国を支える宰相として、この難題への取り組むことに挑むのであった。


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